竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

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竜管制塔

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 渓谷を一望出来る管制塔の監視室から広大な風景を眺めてぼんやりとしている。本来なら気を抜いていられる場所ではない。なぜなら目の前を行き来する飛来物も遠くに見える点のような集合体も、全てが伝説とされる竜なのだから。

 カレンは、竜を監視する施設に配属されて10年目である。可憐を連想する名が少しも似合わない今年35歳の男だ。無精髭を生やし、制服である土色のツナギをいつも着ている。中肉中背、ビール好き。特別な使命を与えられている割には、ごくごく普通のオッサンだ。

 ただひとつ、職員から特別視されていることがある。それは、容姿とか性格、職業などではない。ただ生まれ、生きていたら出会った運命のようなものだ。

 だからと言って羨ましいがられるものではない。一目は置かれる。だが珍獣のように見られる。同じ人間なのにまるで別物に見られる。よく生きていられるねと侮蔑されるような、特別な使命だ。

「またため息ですか?」

 交代に来たレイルがノンアルコールビールを手渡して来る。受け取ったそれはいい具合に冷えている。

「レイルは3年目だっけ?」

「そうですよ。来年は配置換えになります。といっても公の機関じゃありませんから移動場所も限られますけど、研究機関の警備兵だけは避けたいくらいですかね」

 ああ、とカレンはため息混じりに言う。

「どこへ行ってもここよりはマシだと思うよ」

 カレンは10歳からここにいる。といっても職に就いたのは25歳からだ。研究機関の警備兵という部署がここよりも暇で退屈というのは、10年勤めている間にいた同僚達の意見だ。

「そうだと良いんですけどね」

 レイルはノンアルコールビールのキャップをネジ開け、ビンから直に飲んでいる。ガラスのビン、缶、ビニールなど、この管制塔の先へと持ち出せない物がたくさんある。もっとも持ち出した所で、劣化して消えるという実験結果があるのだが。

 言語も持ち出せない物のひとつだ。この管制塔内では竜語が使われている。初めて人と竜が交流を持ち、竜が覚えた最初の言語が竜語だ。他言語を竜に使うことが禁じられている。竜施設に配属した職員の人種を明かさない為に、基地内では竜語を使う決まりがある。だが人同士、言葉を縛った所で、その容姿や会話の内容から、おおよその人種を推測出来てしまうのだが。

 レイルは米国人だ。金髪にブルーの瞳、背が高く筋肉質。男性職員には気安くされ、女性職員にはモテている。昼食時の食堂では、レイルを囲み輪が出来ているのを良く見かける。ビール好きはカレンと同じだが、ファストフードを好み、金髪のグラマラスな女性を好む。だが言語は竜語で国と宗教の話はしない。暗黙のルールである。

 竜は成体だと象1頭ぶんから3頭ぶんの個体差がある。鱗の色によって様々な種族がある。あとは子を産む竜と産まない竜の個体差もある。この谷に生息する竜は飛竜で、背中に蝙蝠に似た翼がある。色は地に馴染む色で緑や土、赤土、黒がいて、唯一、風景に馴染みにくい白銀がいる。けれども白銀は空の日の光に溶け込む。美しく光に馴染み、神々しい。

 その白銀の竜は竜の中で特別な存在である。しかし、人の中ではあまり知られていない。
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