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願望と現実
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ザグは献身的にトリスに寄り添った。
ザグはアルサス隊を辞めて、北の国境の要塞に勤めていて、トリスのいる施設から近い場所にいる。
介護をしてくれる女から聞いた話では、2年前の咲花期の初め、トリスはこの施設の前に捨てるように置かれていたそうだ。殆ど死んだ状態だったトリスをベッドに運び、どうしたものかと悩んでいた時、ザグが駆け込んで来たらしい。
それを聞いてトリスが思うには、あの従者がトリスを運んでくれて、ザグに連絡をしてくれたのだろう。ザグに連絡を入れてくれたのだとしたら、絶対にガイアではないと思った。ガイアとザグは同じ部隊にいた友だが、立場上、ガイアが上だったし、ザグはそういうものを気にしなくても良いくらい、能力が高い。
ガイアとザグを分けたのは、ガイアの婚姻によるものだと思っていたが、思えばザグはガイアを良いようには思っていなかったように思う。
ザグはトリスが困るくらい優しい。トリスの為に己の地位を捨て、こんな辺境の地に来て、休みの日のほとんどをトリスの為に使っている。さらには、王都に賜った屋敷を孤児院に寄付したとも言う。とても大きなお屋敷には、トリスも何度か遊びに行っている。そこで恋人と婚姻して暮らすと、トリスに自慢していたこともあった。
「ザグはいい人すぎるよ」
体を慣らす為、ザグの手を借りて庭を歩く。また降雪期がやって来る、風に冷たさが混じり始めた頃、トリスは寒さを感じられるようになっていた。
「そうか? 普通だと思うが」
ザグは本気で普通だと思っている。友には誠意を尽くす。それがザグの基本の姿勢だ。逃げ出したいと思っていたトリスだけど、ここまで尽くされたら応えるしかないと絆されていた。
「もうすぐ一人で歩けるし、ご飯も食べられるようになった。身の回りのことも自分で出来る。だからザグは自分のことを考えてよ。お休みにはちゃんと休んで?」
「別に嫌々しているんじゃないぞ? トリスが頑張っているのを見るのが好きなんだ。気にしなくても良い」
ザグは明け透けに本心を語る。何の含みもなく、誠意の塊だ。トリスの方が恥ずかしくて頬を染めた。
「ここの支払いもザグがしてくれているんだろ? 少しずつしか返せないけど、ちゃんと働いて返すから」
ザグを見上げてそう言うと、ザグが涙ぐんでいる。
「は? 何で? 普通のことだよね?」
「ああ、そうだな、普通のことだ。じゃあ、俺は毎月、借金の取り立てに行かないとな」
「えーそれはちょっと……」
嫌そうな表情を作ってザグを見れば、ザグは困った顔をする。それに気をよくしたトリスは笑った。
「嘘だよ、ちゃんと払うよ。働き先、みつかるといいけど」
「ああ、そうだな、トリスなら大丈夫だ」
ザグが言えば大丈夫な気がして来るから不思議だ。施設に来て起き上がれるようになるまで3月掛かった。でもその間に心も回復している。部屋にひとりで残されて、眠ることもできず、感覚すら失ったあの頃を思い出すことも減っている。全てはザグの優しさのおかげだった。
ザグはアルサス隊を辞めて、北の国境の要塞に勤めていて、トリスのいる施設から近い場所にいる。
介護をしてくれる女から聞いた話では、2年前の咲花期の初め、トリスはこの施設の前に捨てるように置かれていたそうだ。殆ど死んだ状態だったトリスをベッドに運び、どうしたものかと悩んでいた時、ザグが駆け込んで来たらしい。
それを聞いてトリスが思うには、あの従者がトリスを運んでくれて、ザグに連絡をしてくれたのだろう。ザグに連絡を入れてくれたのだとしたら、絶対にガイアではないと思った。ガイアとザグは同じ部隊にいた友だが、立場上、ガイアが上だったし、ザグはそういうものを気にしなくても良いくらい、能力が高い。
ガイアとザグを分けたのは、ガイアの婚姻によるものだと思っていたが、思えばザグはガイアを良いようには思っていなかったように思う。
ザグはトリスが困るくらい優しい。トリスの為に己の地位を捨て、こんな辺境の地に来て、休みの日のほとんどをトリスの為に使っている。さらには、王都に賜った屋敷を孤児院に寄付したとも言う。とても大きなお屋敷には、トリスも何度か遊びに行っている。そこで恋人と婚姻して暮らすと、トリスに自慢していたこともあった。
「ザグはいい人すぎるよ」
体を慣らす為、ザグの手を借りて庭を歩く。また降雪期がやって来る、風に冷たさが混じり始めた頃、トリスは寒さを感じられるようになっていた。
「そうか? 普通だと思うが」
ザグは本気で普通だと思っている。友には誠意を尽くす。それがザグの基本の姿勢だ。逃げ出したいと思っていたトリスだけど、ここまで尽くされたら応えるしかないと絆されていた。
「もうすぐ一人で歩けるし、ご飯も食べられるようになった。身の回りのことも自分で出来る。だからザグは自分のことを考えてよ。お休みにはちゃんと休んで?」
「別に嫌々しているんじゃないぞ? トリスが頑張っているのを見るのが好きなんだ。気にしなくても良い」
ザグは明け透けに本心を語る。何の含みもなく、誠意の塊だ。トリスの方が恥ずかしくて頬を染めた。
「ここの支払いもザグがしてくれているんだろ? 少しずつしか返せないけど、ちゃんと働いて返すから」
ザグを見上げてそう言うと、ザグが涙ぐんでいる。
「は? 何で? 普通のことだよね?」
「ああ、そうだな、普通のことだ。じゃあ、俺は毎月、借金の取り立てに行かないとな」
「えーそれはちょっと……」
嫌そうな表情を作ってザグを見れば、ザグは困った顔をする。それに気をよくしたトリスは笑った。
「嘘だよ、ちゃんと払うよ。働き先、みつかるといいけど」
「ああ、そうだな、トリスなら大丈夫だ」
ザグが言えば大丈夫な気がして来るから不思議だ。施設に来て起き上がれるようになるまで3月掛かった。でもその間に心も回復している。部屋にひとりで残されて、眠ることもできず、感覚すら失ったあの頃を思い出すことも減っている。全てはザグの優しさのおかげだった。
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