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願望と現実

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 雪に閉ざされた辺境の地に閉じ込められたトリスは、3月監禁された。時に熱を出し、医師が来たこともある。食事を取らせるようにと医師の指示があったが、食事が出ることはなかった。

 3月後、咲花期になった夜、馬車の音が聞こえて来た。この頃にはトリスはベッドの上から起き上がれなくなっていて、こんな惨めな姿をガイアに見られるのが怖くなっていた。

「可愛いトリス、待たせてしまって悪かった」

 いつもの通り、裕福で煌びやかなガイアが部屋に入って来た。トリスは枕から顔を上げることも出来ず、視線だけをガイアに向け、頬を少し引き上げた。

「食事を用意させたよ。悪いことをした。私が指示を忘れてしまったばかりに、トリスには辛い思いをさせてしまったね」

 部屋に食事が運び込まれた。豪華な肉や果物が机の上をいっぱいにする。その濃い匂いがトリスに届き、トリスは吐き気を覚えて枕に突っ伏し、喉がググッと恥ずかしい音を鳴らした。

「はやくトリスも食べると良い」

 見ればガイアはソファに座り、豪快な態度で肉を食んでいた。従者がガイアのグラスに酒を注ぐ。若く可愛らしく健康な少年の従者だった。ガイアの手が酒を注ぐ従者の手に添えられる。酒を飲み、従者を引き寄せて、口移しで酒を飲ませ、淫らに舌を絡め合わせた。

 ベッドから起き上がれないトリスの前で、ガイアが従者を膝に乗せる。その頃には別の従者は姿を消し、ドアは閉じられていた。

「あ、あん、ガイアさま、んん……」

 甘く可愛い声が部屋に響く。トリスの方に大きく足を開いた従者の股間は勃ち上がり、後穴にガイアを受け入れている様が良く見えた。

「イケナイ子だね、トリスが嫉妬してしまうよ」

 熱を孕んだガイアの声が聞こえる。

「ああん、ごめんなさい、許して、ガイアさま、気持ち良くなってしまう僕を許して……」

 従者は体勢を返され、舌を突き出してガイアの舌と絡めている。従者の精がガイアの腹を汚しても、ガイアは怒る事もなく、その白濁を指先で掬い取り、舐め取って悦んだ。

 トリスは動くことも出来ず、寝返りを打つことさえ忘れ、嫉妬で胸の中を燃やした。体が震える。荒い息が漏れる。目眩で意識が飛びそうだった。でも見ることを止められない。嘘だ、違う、ガイアはこんなことをする人じゃないと、こうなってしまった理由を止め度無く探した。

 従者の後穴からガイアの精が溢れて流れ落ちる頃、ガイアは従者を湯殿に連れて行き、トリスの前に清めた素肌のまま連れて来て、ガイア自らの手で服を着せた。

「とても悪い子だ。早く仕事に戻りなさい」

 見上げた従者に軽い口付けをしたガイアは、別の従者を呼んで着付ける。机にあった食事は片付けられ、優美な衣装に身を包んだガイアだけが残った。

「従順で可愛いトリス、早く元気になりなさい。また来るよ」

 ベッドの脇に立ち、指先ひとつ触れることもなく、ガイアは踵を返した。ドアが開き、ガイアの背でドアが閉まる。重い鍵の音が聞こえた。

 涙が流れている。静かに、止め度無く。馬車の去る音が聞こえる。従者がやって来て、もう何度も注射を打ち、固く青黒くなった腕に針を刺す。トリスは初めてそれを拒んだ。元気になった所でガイアの愛は受けられない。僅かな可能性さえ打ち捨てられた今、栄養剤を受けて何になるというのか。

「……死にたい」

 拒んだトリスの勢いで注射から手を離した従者は戸惑っている。腕に刺さりっぱなしになっている注射を抜き、トリスはそれを首筋に打つ。

「いけません、トリスさま」

 力のない手から注射を奪うのは簡単なことだった。だが従者の力如きでトリスの指が折れる。その痛みでさえ、トリスにはもう感じられないようで、目の当たりにしたトリスの目から涙が溢れた。

「トリスさま、すぐに医師を呼んで参ります」

 そう言って離れていこうとする従者をトリスは首を緩く振って引き止めた。

「もう、良いのです。本当にもう」

 トリスに向かい合う従者は、この3月、ずっとトリスに付き添い、体の清めから汚物の処理まで、表情を歪めることもなく坦々と熟してくれた。それだけでトリスには十分だった。

「今までよく勤めてくれました。もう十分です。もう死にたい。どうかこの弱ってしまった体を外に出してはくれませんか? 心を無くしたこの体を、ガイア兄さまに見られたくはないのです」

 煙草を吸う気力さえ失って長く経つ。トリスの中の薬は抜けていて、正常な思考が戻って来ていた。自分の無知を恥、弱く縋ることしかできなかった自分に嫌悪している。強い想いを寄せていた相手の本心を知り、人の表面しか見ていなかった自分の愚かさを思い知った。

「……トリスさま」

 従者の目に涙が光る。きっと従者はトリスの最後の願いを叶えないだろう。あのガイアに逆らえば、次に辛い目に遭うのは従者だ。それはトリスにもわかっていたが、叶わないと知りながらも、なお自分の身を先とする自身の甘さに辟易した。

「すまない。もう行ってください」

 トリスは天井を見て、目を閉じた。もう二度と開かず、消えて無くなってしまいたいと、固く瞼を瞑った。
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