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番外編 「とある日の朝」
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微睡む視界の中に誰かの姿が映る。
それが心に留めた大事な人であることの破壊力を知る。
どうりで布団の中がいつもよりも暖かくて、少し窮屈で、違和感があったわけだと思う。
隣に眠る恭弥の顔を見て、胸が軋む。
好きだと思う。
……でも、と思う。
想いを抱えながら、恭弥の手を取り、繋ぐ。力の入らない手が愛しい。
ゆったりとした呼吸を聞きながら、唇を寄せてみる。とちゅうで恥ずかしくなって、持ち上げた恭弥の手にキスをした。
気づかれていないか確認する。大丈夫。
「恭弥、すげえ好き」
小声でいつも恭弥がくれる言葉を真似てみる。大丈夫、気づかれていない。様子を確かめている自分が恥ずかしくて、恭弥に背を向けると、背中側から腕が回って来て、抱きしめられ、首筋にキスされた。
「おはよう、静稀」
「……うん」
絶対に起きていたなと思い、居た堪れない気持ちになる。好きと言うのは慣れて来たけど、でもまだ恥ずかしさはある。
「静稀、すっげえ好き」
首筋にかかる息がくすぐったい。
体の向きをかえ、恭弥と向き合う。至近距離に恭弥の顔。視野が歪む位置。
顔の角度を変えれば、それだけで気づいた恭弥が覆い被さって来て、キスをくれる。
好きな人を好きなだけ抱きしめられる距離。時間。幸せで胸が軋む。
いつ終わらせれば良いのかわからないキスを繰り返しながら、別の火がつき始めた恭弥の手を取る。指を絡める。
「……やっぱり家賃も払わずにここに住んでいるのは違うと思う」
「え?」
欲望を秘めた表情だった恭弥が現実に戻って来る。別れ話だと思ったのかもしれない。違うと言うように、手を持ち上げて、甲にキスをする。
「ここはどうしても深見響次先生の家で、恭弥とこういうことすると、いけないことをしているような気分になるよ。だからせめて家賃を払わせてくれたら、そういう気分も……んんっ」
言葉をキスで止められる。いきなりの深いキスに戸惑う。息が止まるほどの奪われるキスに、驚きながらも嬉しく思う。
「静稀……静稀…、もう、怖いこと言うの、やめてくれよ……俺がここに踏み込んだから、嫌で別れるって言われるのかと思ったら、怖かった」
「うん、ごめん、違う」
「いいよ、言いたいことはなんとなくわかった。でも金はいらねえよ。家の管理を頼まれて住んでるだけで、俺だって家賃払ってねえからな」
「それは恭弥は親戚だから……」
静稀がそう言うと、恭弥はムッとする。本当のことなのに、理不尽だ。
「そうだけど、でも静稀は俺のだろ? だから良いんだよ、特別」
「その理屈は恭弥の我儘だろ?」
嬉しいけど、と胸の中で言う。
静稀の胸に額を寄せた恭弥の、目の前になったアッシュの髪に触れる。何をしても許される、許す関係が愛しい。
もう誰も好きになれないのだと思っていた。好きがピークでその先は下り坂なのだと。
こうして触れ合い、語り合う。たとえお互いの嫌なことを口にしても、その時に怒りを覚えても、繋がり続ける見えない何かがあることの尊さを知った。それが自分の中に存在したことの喜び、安堵、それをずっと恭弥との間に感じている。
「もうすぐ叔父さん、日本に戻って来るから、挨拶しに、行く?」
思わず恭弥の手を強く握ってしまったら、その動揺を知られてしまった。
「……だから言うの嫌だったんだよ。静稀、喜びが態度に出すぎ」
「……仕方ないだろ、長年のファンなんだから。……でも、良いの? 一緒に住んでること言ったら、付き合っていることも知られてしまうよ」
「俺は自分がゲイだって言ってる。っていうか叔父さんも付き合っている相手男だし、挨拶に行けば会えると思うよ」
「……そうか、だからこのシンプルな部屋……なんとなく、わかる気がしてた」
静稀の視線が辺りをみる。この部屋は叔父の恋人の趣味だ。シンプルで物が少なく、広くて仕切りのない部屋。テラスに続き、外でゆったり出来る。
「叔父さんの相手が仕事を海外に移したから、叔父さんは着いて行った。だからこの家が空いた。日本に戻って来てもすぐに戻るから、ホテルに泊まる。行く? 静稀、一緒に。俺の彼氏って挨拶、できる?」
「する」
恭弥を抱きしめる。
恭弥の、静稀の全部を受け止めてくれる態度、言葉を聞くたび、自分の気持ちが寄り添って行く。暖かな気持ちが溢れる。
「愛してる、恭弥」
恭弥の手に力がこもる。
「うん、すっげえ嬉しい、俺も、静稀、愛してる」
おわり
それが心に留めた大事な人であることの破壊力を知る。
どうりで布団の中がいつもよりも暖かくて、少し窮屈で、違和感があったわけだと思う。
隣に眠る恭弥の顔を見て、胸が軋む。
好きだと思う。
……でも、と思う。
想いを抱えながら、恭弥の手を取り、繋ぐ。力の入らない手が愛しい。
ゆったりとした呼吸を聞きながら、唇を寄せてみる。とちゅうで恥ずかしくなって、持ち上げた恭弥の手にキスをした。
気づかれていないか確認する。大丈夫。
「恭弥、すげえ好き」
小声でいつも恭弥がくれる言葉を真似てみる。大丈夫、気づかれていない。様子を確かめている自分が恥ずかしくて、恭弥に背を向けると、背中側から腕が回って来て、抱きしめられ、首筋にキスされた。
「おはよう、静稀」
「……うん」
絶対に起きていたなと思い、居た堪れない気持ちになる。好きと言うのは慣れて来たけど、でもまだ恥ずかしさはある。
「静稀、すっげえ好き」
首筋にかかる息がくすぐったい。
体の向きをかえ、恭弥と向き合う。至近距離に恭弥の顔。視野が歪む位置。
顔の角度を変えれば、それだけで気づいた恭弥が覆い被さって来て、キスをくれる。
好きな人を好きなだけ抱きしめられる距離。時間。幸せで胸が軋む。
いつ終わらせれば良いのかわからないキスを繰り返しながら、別の火がつき始めた恭弥の手を取る。指を絡める。
「……やっぱり家賃も払わずにここに住んでいるのは違うと思う」
「え?」
欲望を秘めた表情だった恭弥が現実に戻って来る。別れ話だと思ったのかもしれない。違うと言うように、手を持ち上げて、甲にキスをする。
「ここはどうしても深見響次先生の家で、恭弥とこういうことすると、いけないことをしているような気分になるよ。だからせめて家賃を払わせてくれたら、そういう気分も……んんっ」
言葉をキスで止められる。いきなりの深いキスに戸惑う。息が止まるほどの奪われるキスに、驚きながらも嬉しく思う。
「静稀……静稀…、もう、怖いこと言うの、やめてくれよ……俺がここに踏み込んだから、嫌で別れるって言われるのかと思ったら、怖かった」
「うん、ごめん、違う」
「いいよ、言いたいことはなんとなくわかった。でも金はいらねえよ。家の管理を頼まれて住んでるだけで、俺だって家賃払ってねえからな」
「それは恭弥は親戚だから……」
静稀がそう言うと、恭弥はムッとする。本当のことなのに、理不尽だ。
「そうだけど、でも静稀は俺のだろ? だから良いんだよ、特別」
「その理屈は恭弥の我儘だろ?」
嬉しいけど、と胸の中で言う。
静稀の胸に額を寄せた恭弥の、目の前になったアッシュの髪に触れる。何をしても許される、許す関係が愛しい。
もう誰も好きになれないのだと思っていた。好きがピークでその先は下り坂なのだと。
こうして触れ合い、語り合う。たとえお互いの嫌なことを口にしても、その時に怒りを覚えても、繋がり続ける見えない何かがあることの尊さを知った。それが自分の中に存在したことの喜び、安堵、それをずっと恭弥との間に感じている。
「もうすぐ叔父さん、日本に戻って来るから、挨拶しに、行く?」
思わず恭弥の手を強く握ってしまったら、その動揺を知られてしまった。
「……だから言うの嫌だったんだよ。静稀、喜びが態度に出すぎ」
「……仕方ないだろ、長年のファンなんだから。……でも、良いの? 一緒に住んでること言ったら、付き合っていることも知られてしまうよ」
「俺は自分がゲイだって言ってる。っていうか叔父さんも付き合っている相手男だし、挨拶に行けば会えると思うよ」
「……そうか、だからこのシンプルな部屋……なんとなく、わかる気がしてた」
静稀の視線が辺りをみる。この部屋は叔父の恋人の趣味だ。シンプルで物が少なく、広くて仕切りのない部屋。テラスに続き、外でゆったり出来る。
「叔父さんの相手が仕事を海外に移したから、叔父さんは着いて行った。だからこの家が空いた。日本に戻って来てもすぐに戻るから、ホテルに泊まる。行く? 静稀、一緒に。俺の彼氏って挨拶、できる?」
「する」
恭弥を抱きしめる。
恭弥の、静稀の全部を受け止めてくれる態度、言葉を聞くたび、自分の気持ちが寄り添って行く。暖かな気持ちが溢れる。
「愛してる、恭弥」
恭弥の手に力がこもる。
「うん、すっげえ嬉しい、俺も、静稀、愛してる」
おわり
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