初恋と友達と恋の話

サクラギ

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17 好きの意味

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 家に着くと風呂に直行した。でも恭弥が使っている風呂だった。

「おまえ、確信犯だろ」

 脱衣所で服を脱ぎ始めたら、当然のように恭弥が入って来る。

「上の風呂は携帯で操作できねえもん」

 恭弥が服を脱ぐと、ドッグタグが出て来る。

「いいな、それ」

 静稀が指摘すると、すぐに外してしまった。よく見たかった静稀は不満顔だ。

「わるい、習慣付いてるから忘れてた」

 恭弥の指先がドッグタグに触れる。
 そういうことかと静稀は思う。タグには泉水の名がある。静稀と恭弥はまだ付き合う前のお試し期間だ。静稀に口出す権利はない。

「それもわざとだろ」

 わざと静稀が気にするように、静稀の前で外した。まんまと静稀は気分を害している。

 さっさと服を脱いで浴室へ行き、シャワーを浴びる。

「わざとじゃねえって。本気で忘れてたんだ、信じろよ」

 一緒にシャワーを浴び出す恭弥の脇腹を押す。恭弥は嬉しそうで、それも静稀の癇に障った。

 恭弥のシャンプーで髪を洗う。恭弥も一緒に洗い出す。静稀が恭弥の髪をわしゃわしゃすると、恭弥は声を上げて笑った。こんなの小学生みたいだと静稀は思う。

 湯気の中で、お互いの体を洗う。恭弥を見ると、きっちり勃っていて、思わず怯んだ。

「は? 当然だろ? 好きって言った。それはこういうことだろ?」

 恭弥に抱き寄せられて、シャワーを浴びる。腰を引いているのは、恭弥のに怯えているからだ。

 恭弥に体を寄せられて、股間が触れる。欲情されているのかと思うと、静稀もつられる。

「いけそう?」

 口付けられて、舌を絡ませて、お互いのモノを抜く。

 恭弥の肩に額を乗せて、声が出ないように唇を引き結ぶと、恭弥の手が力を入れて来る。

「ああっ」

 恥ずかしくて頬が染まる。

「可愛い声」

「うるさい、早くいかせろ」

「はいはい」

 深く口付けられて、一緒に握り込まれて、激しく抜かれた。手慣れている感じにもムッとする。

 欲望を吐き出して、シャワーで流して、湯船に浸かる。広い湯船だ。逆側に背中を預け、膝下が触れ合う広さ。

 反対側で恭弥が鼻歌を歌っている。静稀はさっきしたことを後悔しつつあるのに、恭弥はずいぶん楽しそうだ。それもそうだろう。静稀なんて単純で、恭弥の思い通りになる。

「ホント、嫌い」

 静稀が小さく言った言葉が風呂に反響した。恭弥の鼻歌が止まる。水音がして、恭弥が近づいて来て、静稀の手を引いた。恭弥の両足に挟まれる位置に座らされた。この体勢に恥ずかしくなる。女扱いされていると感じるのは、静稀にとって屈辱だ。

「出る」

 そう言うと引き寄せられて、キスされた。

「こういうの嫌だ。俺はなに? 性欲発散させる為の道具?」

 恭弥の体を押して立ち上がり、湯船から出て、脱衣所へ向かう。すぐに恭弥が追いかけて来て、脱衣所へ出た所で捕まった。

「こういうのダメ? ダメだと思うこと、教えてくれてありがとな。二度とやんねえからさ、静稀のこと、もっと教えて欲しい」

 抱きしめられて、絆される。
 バスタオルで体を拭かれて、裸のまま階段を登る。恭弥の視線が背中に貼り付いていたのを感じていたけど構わなかった。

 お互いに抜くのは平気だった。抱きしめられるのも、キスも。でも背中側から抱かれるのは無理だった。居た堪れない気持ちになる。

 スウェットを着て、階段を降りる。恭弥も着替え終わっていて、静稀が行くと、緩く抱き締められる。

「降りて来ねえかと思った」

 情けない声を出す恭弥の顔を上げさせて、キスをして、離れる。
 窓際のソファに座って、置きっぱなしにしている本を開いた。

 ソファの横に恭弥が来て、静稀の膝に頭を乗せる。静稀が嫌がるまで、恭弥が満足するまで、恭弥は静稀の膝枕でウトウトしている。それが最近の夜の過ごし方だ。

「そういえば恭弥、明日、講義終わったらカットモデルしに行くけど、恭弥も行く?」

「行く」

 腰を抱かれて、服を捲られて、おへその横にキスされた。

「やめろ、それ」

 恭弥が震えている。なにかと思って髪を撫でたら、上を見上げて来た。

「静稀から誘ってくれたことが嬉しい。しかもそこって静稀のプライベートな場所じゃねえの? もう長いよな? カットモデル」

 そういえば、静稀から誰かを誘うことは無かったかもしれない。バイトが忙しくて他に時間を割けなかったせいもある。

「本庄愛斗(ほんじょうまなと)いつもカットしてくれてる人の名前」

「k orb(けいおーぶ)、静稀の服のブランドもその人が関係してる?」

「一緒に雑誌作ってるんだよ、確か」

「下着もk orbだよな」

 恭弥の手がスウェットのズボンを引いて、下着を見る。

「下着のモデルしたことあるよ」

 静稀がそう言うと、恭弥がガバッと身を起こした。

「マジで? 顔あり?」

「まさか」

 恭弥の喜びようを胡散臭く思いながら、K orbから送られて来ていた見本誌をスマフォに呼び出し、恭弥に見せる。

「うわ~顔は手とか物で隠すのか、よりやらしいな」

 恭弥の頭をはたく。

「下着のモデルだからね。しかも常連用、一般発売はなし」

「これ、静稀だ」

 体つきだけで判別がつくものだろうかと訝しんで恭弥の見ている人を見れば、確かに静稀だった。恭弥の見ているページにモデルが3人起用されている。みんな日本人だ。さして変わらないと思うのだけど。

「これも静稀」

 恭弥が正確に当てて行くから恥ずかしくなってスマフォを取り上げた。

「終わり」

「もっと見たい」

「明日見れば良いだろ? 店に見本誌置いてある」

「わかった」

 恭弥は満足したのか、静稀から離れて行った。そして珈琲を淹れ始める。静稀の為に珈琲を淹れて、先に寝に行くのが恭弥のパターンだ。

 それから静稀は、恭弥の淹れてくれた珈琲を飲みながら、深夜遅くまで読書を楽しむ。
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