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12・エンディング

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 イシュが本気でセント・ハヴィエル国の王子を奪って来たと、ドールの戦場でテントを張る、獣人国イルバーンの兵たちは大きく湧いた。

 イシュは自分専用のテントにユグを住まわせ、夜になれば一緒にドール狩りに出かけた。ユグには専用の身の回りの世話をする獣人の従者をひとり付け、イシュはユグを大切にしている。聖域エールにふたりの姿が見られることはなく、いらぬ噂が立つこともない。はずなのだが……。

「隊長、噂知ってます?」

 ハイエナの獣人が用事ついでにイシュに尋ねた。イシュが報告書を作成する後ろで、ユグは静かに酒を飲んでいる。

 イシュは報告書から顔を上げ、ハイエナの獣人を見る。近くには酒のつまみを運んで来たウサギの獣人、ユグの従者がいる。

「ドールと化したセント・ハヴィエルの王子が夜な夜な現れる、って言われてますけど」

 ユグは現在、国で婚姻し、王城の敷地内にある宮で新婚生活を送り、幸せな姿を見せている。
 だが、ユグと同じ姿をした者がドールと戦っているとなれば、セント・ハヴィエルの兵は混乱するのだろう。

 ユグは、祖国からドールの地へ赴く間に、イシュに言葉を教えてもらい、獣人の言葉を扱えるようになっている。難しい言葉はまだ使えないが、軽い冗談くらいは言えるようになっていた。

「言わせておけば良い」

 ユグは顔色ひとつ変えずにそう言い、ウサギから干し肉を貰うと、ウサギの耳を引き寄せ、キスをしている。
 ウサギは頬を染め、イシュの反応をこわごわと見ながら、静かにテントを出て行った。

「これが本当にドールであるなら、俺が一太刀で薙ぎ払ってやるんだがな」

「まあ、別段、隊長が良いなら、それで良いですがね、それ、俺にも味見させてもらえますか?」

 ウサギがお酒のお代わりを持ってテントに入って来ると、ハイエナの言葉にビクッと毛を逆立てた。

「味見もなにも、これの意志しだいだろうな。ここに来て自由にやっているのはお前も知っているだろう」

「ああ、聞きましたよ。エメを乗せながら抱くのが良いとか、バジルの奴が言っていましたが、本当ですか?」

 ウサギの従者、エメが泣きそうな顔でユグの杯に酒を注いでいる。
 バジルというのは狼の獣人で、イシュとは別の部隊を率いる隊長である。

「バジルは良い。バジルとするとイシュが嫉妬してくれるからな、エメはかわいい」

 ユグがそう言うと、ハイエナは顔を顰めた。

「隊長位を全部落として楽しもうって魂胆っすか。マジで最悪っすね」

「お前とはやらない」

 ユグはエメを可愛がりながら、ハイエナを毛嫌いする。

「わがままだが、仕方がないだろう。なにせ王族出身だ。これを従わせるのは並大抵ではないと言うことだ」

「まあ、隊長がそれで良いって言うなら、別に」

 ハイエナはため息を残して去って行く。
 ユグはエメを膝に乗せ、毛並みを楽しむように撫でながら、きわどい手つきになり、エメに泣かれている。

「あまり派手な行動は慎め、でなければそのうち縛る」

 イシュがそう言うと、ユグはイシュに視線を向けた。視線に熱が籠る。舌なめずりをする姿は、唯一の人であるのに獣じみている。

「縛ってくれるのか?」

 ユグが熱を持つとイシュの感情が揺れる。それでもすぐに夜が来る。

「生きて朝を迎えられたらな」

 ユグはエメを抱えたまま立ち上がり、イシュにキスをせがむように頬を寄せる。
 イシュは、エメと戯れるユグの頬に手を添え、愛しむような視線を向け、緩く唇を奪った。

 エメの視線の上で重なるふたりを、エメはとても温かな気持ちで見つめていた。





おわり



次はエメ目線の番外編です。
ありがとうございました。
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