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5・戦線
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ドールは聖水で打った剣で動きを止める事ができるが、日のあるうちに肉体を焼いてしまわないと次の夜、新たな生が宿る。
その日のユグは荒れていた。ドールの動きを止める為に効率よく首を落とし、足を薙ぐことなど慣れた行為であるのに、ユグは一撃で仕留めず、戦いを弄んでいる。
「ユグ隊長! おやめ下さい!」
ユグは良い。どんなに遊んだところで強い。体力もある。だが周りの兵には負担が掛かる。なにせ日が落ち、日が昇るまで戦い続けねばならない。
ドールは海の闇から湧いて来る。終わった事など一度もない。気を緩めているとドールと化した巨大な魔物も出る。
下等な魔物ならばどうとでもなるが、上級種が出れば死者が増える。
上級種が出て歓喜に溢れるのは獣人たちだ。彼らは通常のドールなど動かぬ人形を斬るくらい簡単なことで、上級種をいかに素早く倒すかに重きを置いている。
上級種の出現は地が揺れる。
存在を示す強い圧が辺りを制し、常人では対することも難しい。
地が揺れると同時に兵を引く。それはユグ率いる軍の常套手段で、力なき者は引く。遠隔攻撃が得意な者に足止めをさせ、そして獣人に委ねる。それがこの地での戦いの決まり事でもあった。
「隊長!」
引く指揮を取ったユグの指示通り、隊は上級種の出現間際に距離を取った。だがユグは動かず剣を構えている。
上級種の足止めの為に銃隊が距離を取った場所から銃を構えて待っている。
「何が来ますかねえ?」
「ドラゴンとかクラーケンとか最高!」
後ろから獣の速さで駆けつける者がいる。けれどその歓びの声はわかるが、言語が違う為、内容はわからない。
ユグは上級種の出現を待ったが、ユグの左右を視力に留まらない速さで駆け抜ける者がある。
上級種が姿を現す。
「飛竜だ! 捕らえろ!」
飛び出した獣人たちは、縄を張り、器用な動きで海を駆け、数人の連携で飛竜に縄を掛ける。
苦しい咆哮を上げたドラゴンは縄を切ろうと激しく動いた。
すでに肉体の朽ちた種だ。縄により皮膚が削がれ、骨が剥き出しになる。腐臭が辺りに蔓延る。
ユグは吐き気に耐えながら剣を持ち直し、戦いに向かおうとした。
「動くな!」
それはユグと同じ言語だった。
ユグの後ろから走り出た影。月明かりで逆光になった人影は、馴染みの形をしている。
思わず動きを止めたユグは放心で彼の動きを目で追った。
初めて獣人の戦いを間近で見た。
それは瞬く間の出来事で、たった一撃で竜の首を討ち払った獣人は、なおも見惚れて動けないユグを守る為に剣を振るう。
「……言葉がわかった」
「それがどうした」
獣人、イシュは、上級種を一撃で倒し、ユグを狙うドールを倒しながら、ユグの国の言語で話した。
「ドールになったら殺してくれるか?」
ユグは祈るようにイシュを見る。
イシュは片手でドールを薙ぎ払い、片手でユグを抱きしめる。
「何の感情もなく斬り払ってやる」
「何も……残らぬな……」
「そうだな、ドールになるくらいなら、俺に喰われろ」
熱く光る眼差しがユグを射る。
ユグは痺れて動けない。
「……それは良い、喰ってくれ」
日が水平線より光を放つ。
ドールは海に消え、動きを止めた死体が日に照らされ始めた。
剣を鞘に収めたイシュが背を向け、仲間の元へ向かって行った。
黒い毛皮が日に映える。
その後ろ姿を目に焼きつけたユグは、もう二度と会えないのだと、想いを振り切るように背を向けた。
その日のユグは荒れていた。ドールの動きを止める為に効率よく首を落とし、足を薙ぐことなど慣れた行為であるのに、ユグは一撃で仕留めず、戦いを弄んでいる。
「ユグ隊長! おやめ下さい!」
ユグは良い。どんなに遊んだところで強い。体力もある。だが周りの兵には負担が掛かる。なにせ日が落ち、日が昇るまで戦い続けねばならない。
ドールは海の闇から湧いて来る。終わった事など一度もない。気を緩めているとドールと化した巨大な魔物も出る。
下等な魔物ならばどうとでもなるが、上級種が出れば死者が増える。
上級種が出て歓喜に溢れるのは獣人たちだ。彼らは通常のドールなど動かぬ人形を斬るくらい簡単なことで、上級種をいかに素早く倒すかに重きを置いている。
上級種の出現は地が揺れる。
存在を示す強い圧が辺りを制し、常人では対することも難しい。
地が揺れると同時に兵を引く。それはユグ率いる軍の常套手段で、力なき者は引く。遠隔攻撃が得意な者に足止めをさせ、そして獣人に委ねる。それがこの地での戦いの決まり事でもあった。
「隊長!」
引く指揮を取ったユグの指示通り、隊は上級種の出現間際に距離を取った。だがユグは動かず剣を構えている。
上級種の足止めの為に銃隊が距離を取った場所から銃を構えて待っている。
「何が来ますかねえ?」
「ドラゴンとかクラーケンとか最高!」
後ろから獣の速さで駆けつける者がいる。けれどその歓びの声はわかるが、言語が違う為、内容はわからない。
ユグは上級種の出現を待ったが、ユグの左右を視力に留まらない速さで駆け抜ける者がある。
上級種が姿を現す。
「飛竜だ! 捕らえろ!」
飛び出した獣人たちは、縄を張り、器用な動きで海を駆け、数人の連携で飛竜に縄を掛ける。
苦しい咆哮を上げたドラゴンは縄を切ろうと激しく動いた。
すでに肉体の朽ちた種だ。縄により皮膚が削がれ、骨が剥き出しになる。腐臭が辺りに蔓延る。
ユグは吐き気に耐えながら剣を持ち直し、戦いに向かおうとした。
「動くな!」
それはユグと同じ言語だった。
ユグの後ろから走り出た影。月明かりで逆光になった人影は、馴染みの形をしている。
思わず動きを止めたユグは放心で彼の動きを目で追った。
初めて獣人の戦いを間近で見た。
それは瞬く間の出来事で、たった一撃で竜の首を討ち払った獣人は、なおも見惚れて動けないユグを守る為に剣を振るう。
「……言葉がわかった」
「それがどうした」
獣人、イシュは、上級種を一撃で倒し、ユグを狙うドールを倒しながら、ユグの国の言語で話した。
「ドールになったら殺してくれるか?」
ユグは祈るようにイシュを見る。
イシュは片手でドールを薙ぎ払い、片手でユグを抱きしめる。
「何の感情もなく斬り払ってやる」
「何も……残らぬな……」
「そうだな、ドールになるくらいなら、俺に喰われろ」
熱く光る眼差しがユグを射る。
ユグは痺れて動けない。
「……それは良い、喰ってくれ」
日が水平線より光を放つ。
ドールは海に消え、動きを止めた死体が日に照らされ始めた。
剣を鞘に収めたイシュが背を向け、仲間の元へ向かって行った。
黒い毛皮が日に映える。
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