112 / 112
112 未来 (終)
しおりを挟む
目覚めたらとなりにエルがいた。
ほんのりと甘い香りを含んだ風が頬を撫でて行く。
「起きた?」
エルが静かに微笑んでいる。
「エル?」
とても美しいエルが隣にいて、微笑みを湛えている姿を見て、どこの世界に迷い込んでしまったのかと思う。それくらいエルの美貌は進化をしながら輝き続けている。
「ありがとう紘伊」
エルの指先が優しく紘伊の髪を撫でている。
「なにが?」
エルを見ながら、だいたいの状況を思い出している。
ハーツに抱かれ、意識を飛ばして迎えた朝だ。といっても部屋の雰囲気から、朝とは呼べない時間になっていると悟る。
「紘伊がハーツを受け入れてくれた事だよ」
「エルは俺がハーツを受け入れるの拒んでなかった?」
紘伊はイタズラに笑んで見せる。そうするといつもは拗ねるエルだけど、今は違う。ゆるく首を振って微笑み続けている。
「これで紘伊もハーツと同じくらい生きられるようになったんだよ。でもね、エルはもっと長く生きるんだよ。だからね、エルは紘伊の子を、この子の未来を見守って行く役割をもらったんだよ。紘伊がエルに生きて行く意味を教えてくれたんだよ」
紘伊は意識せずままに手を腹に置いた。その手の上にエルの手が重なる。
「まだほんの小さな希望でしかないけどエルにはわかるよ」
「そう」
紘伊はエルの言葉が自然に受け入れられている。そういう自分の感覚に安堵を覚えた。
「ハーツに告げる?」
エルに首を振って見せた。
「まだ良いよ。様子をみて、エルじゃなくても分かるようになったら、自然にね、伝わったら良いと思うから」
「うん、わかった言わないよ。でもね、紘伊、エルはこの子とツガイになるよ、許してくれる? そうしたら紘伊とエルは本当の親子になれる。そうでしょう?」
「そうだね、エル。でも、この子がエルをツガイと認めたら、だからね」
エルの望むもの。紘伊との繋がりを確かなものにしたいという望み。
「楽しみだね、紘伊」
「そうだね」
微睡がやって来る。
眠いのは子が宿ったせいか、それとも昨夜のハーツのせいなのか。
「紘伊、眠るの?」
「うん、ごめん、眠い」
髪を撫でるエルの優しい動きに目を閉じる。
「いいよ、紘伊、ゆっくり眠って。次に目が覚めた時は、ハーツがいるから」
「うん、ありがとう」
微睡んで、微睡んで、夢を見た気がする。でも覚えていられないような緩い夢だ。ぼんやりとした視界の中、ゆるゆるとした緩慢な動きの中で、ただ意識だけがある。
「ヒロイ、目覚めたのか?」
名前を呼ばれて意識が浮上する。
「うん、ハーツ、もう少し……」
ハーツに抱きついて胸に顔を埋めた。
紘伊の額を撫でている手の薬指に硬い物がある。紘伊の薬指にある物と同じ。
ハーツが人の儀式を用いてしてくれたプロポーズ。紘伊は元々そういったものに夢はない。でもハーツの優しさが好きだ。
「ハーツ大好き」
胸の獣毛が好き。大きくて厚い体が好き。本当は鋭い爪があるのに優しい手が好き。
「今日はあまえんぼうなんだな」
あと少しだけハーツの腕に包まれた安全な場所で、温かな幸せにひたっていたい。
あの頃、大きな体に包まれてもふもふを堪能しながら抱かれたいと思っていた。対等でいられて信頼を築ける関係が好ましいと思っていた。
ハーツは紘伊の理想と願望そのものだ。あの日、出会えて本当に良かった。
「ゆっくりおやすみ」
額にキスされて頬を撫でられる。
「ありがとう、ハーツ」
おわり
◇◇◇
ここで終わりにしたいと思います。
途中でダラダラしてしまい反省いっぱいです。でも好き勝手に書けて楽しかったです。ありがとうございました。
ほんのりと甘い香りを含んだ風が頬を撫でて行く。
「起きた?」
エルが静かに微笑んでいる。
「エル?」
とても美しいエルが隣にいて、微笑みを湛えている姿を見て、どこの世界に迷い込んでしまったのかと思う。それくらいエルの美貌は進化をしながら輝き続けている。
「ありがとう紘伊」
エルの指先が優しく紘伊の髪を撫でている。
「なにが?」
エルを見ながら、だいたいの状況を思い出している。
ハーツに抱かれ、意識を飛ばして迎えた朝だ。といっても部屋の雰囲気から、朝とは呼べない時間になっていると悟る。
「紘伊がハーツを受け入れてくれた事だよ」
「エルは俺がハーツを受け入れるの拒んでなかった?」
紘伊はイタズラに笑んで見せる。そうするといつもは拗ねるエルだけど、今は違う。ゆるく首を振って微笑み続けている。
「これで紘伊もハーツと同じくらい生きられるようになったんだよ。でもね、エルはもっと長く生きるんだよ。だからね、エルは紘伊の子を、この子の未来を見守って行く役割をもらったんだよ。紘伊がエルに生きて行く意味を教えてくれたんだよ」
紘伊は意識せずままに手を腹に置いた。その手の上にエルの手が重なる。
「まだほんの小さな希望でしかないけどエルにはわかるよ」
「そう」
紘伊はエルの言葉が自然に受け入れられている。そういう自分の感覚に安堵を覚えた。
「ハーツに告げる?」
エルに首を振って見せた。
「まだ良いよ。様子をみて、エルじゃなくても分かるようになったら、自然にね、伝わったら良いと思うから」
「うん、わかった言わないよ。でもね、紘伊、エルはこの子とツガイになるよ、許してくれる? そうしたら紘伊とエルは本当の親子になれる。そうでしょう?」
「そうだね、エル。でも、この子がエルをツガイと認めたら、だからね」
エルの望むもの。紘伊との繋がりを確かなものにしたいという望み。
「楽しみだね、紘伊」
「そうだね」
微睡がやって来る。
眠いのは子が宿ったせいか、それとも昨夜のハーツのせいなのか。
「紘伊、眠るの?」
「うん、ごめん、眠い」
髪を撫でるエルの優しい動きに目を閉じる。
「いいよ、紘伊、ゆっくり眠って。次に目が覚めた時は、ハーツがいるから」
「うん、ありがとう」
微睡んで、微睡んで、夢を見た気がする。でも覚えていられないような緩い夢だ。ぼんやりとした視界の中、ゆるゆるとした緩慢な動きの中で、ただ意識だけがある。
「ヒロイ、目覚めたのか?」
名前を呼ばれて意識が浮上する。
「うん、ハーツ、もう少し……」
ハーツに抱きついて胸に顔を埋めた。
紘伊の額を撫でている手の薬指に硬い物がある。紘伊の薬指にある物と同じ。
ハーツが人の儀式を用いてしてくれたプロポーズ。紘伊は元々そういったものに夢はない。でもハーツの優しさが好きだ。
「ハーツ大好き」
胸の獣毛が好き。大きくて厚い体が好き。本当は鋭い爪があるのに優しい手が好き。
「今日はあまえんぼうなんだな」
あと少しだけハーツの腕に包まれた安全な場所で、温かな幸せにひたっていたい。
あの頃、大きな体に包まれてもふもふを堪能しながら抱かれたいと思っていた。対等でいられて信頼を築ける関係が好ましいと思っていた。
ハーツは紘伊の理想と願望そのものだ。あの日、出会えて本当に良かった。
「ゆっくりおやすみ」
額にキスされて頬を撫でられる。
「ありがとう、ハーツ」
おわり
◇◇◇
ここで終わりにしたいと思います。
途中でダラダラしてしまい反省いっぱいです。でも好き勝手に書けて楽しかったです。ありがとうございました。
16
お気に入りに追加
264
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。
食べて欲しいの
夏芽玉
BL
見世物小屋から誘拐された僕は、夜の森の中、フェンリルと呼ばれる大狼に捕まってしまう。
きっと、今から僕は食べられちゃうんだ。
だけど不思議と恐怖心はなく、むしろ彼に食べられたいと僕は願ってしまって……
Tectorum様主催、「夏だ!! 産卵!! 獣BL」企画参加作品です。
【大狼獣人】×【小鳥獣人】
他サイトにも掲載しています。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
読みやすくて一気読みでした!最初は、どうなることかと不思議な展開、結構残酷かもな流れで心配しつつ読み ましたが紘伊の語りが冷静で。かなりヤバイ状況でも落ち着いてる?麻痺してる?解離してる?って感じで、なんかわかる気がする!どうにもならないときに本当の性質でるよね?と思って読んでました。紘伊の性格は好きです。
想像もつかない展開だったのに、思っていた通りの結末にたどり着いてくれた気がします。
幸せなふたりが見れてよかったです。
ひえんさん
感想嬉しいです。
いつもありがとうございます。