獣人カフェで捕まりました

サクラギ

文字の大きさ
109 / 112

109 覚悟

しおりを挟む
 従者達が道を譲り、わきに控えた後、恨めしい気持ち込みの冷めた視線が紘伊の背中に集まる。それはハーツと働く者たちへの申し訳ない気持ちの裏返しで、紘伊が勝手に作った被害妄想かもしれないが。

 ハーツは何の躊躇いもなく紘伊を優先し、嬉々としてハーツ専用の部屋に連れ込み、誰の入室も禁じ、二人きりになる。それは紘伊も望むところなのだけど——ただ社会人経験者の紘伊だから、上司の身勝手な振る舞いによって被害を被る部下の苦悩もわかってしまう。

「ハーツありがとう。でももう逃げないから、ここで待ってるから、仕事を優先させて?」

 そう言いながらも会えた嬉しさと、会って分かった紘伊自身の決意を確かめた時間の後にしか言えなかったのだけど。

 久しぶりのハーツの胸の獣毛を匂ったり、抱きしめて、抱き返される強さに安心したり、見つめ合ってキスをして、求められるドキドキを確かめたり。そんな時間を経ての言葉だったから、ハーツも素直に受け止めてくれる。

「仕事など捨て置いてヒロイを抱いていたい」

 名残惜しそうにスリスリされる。首筋の匂いを嗅がれて甘噛みされる。くすぐったさに身を縮めるけど愛しさが溢れる。

「俺もだよ、でもハーツは王代理なんだから、頑張って行って来て」

「分かった、夕食までには戻る」

「ううん、ここで軽く取る程度で良いよ。派手な晩餐はいらない。二人きりで、ね」

 紘伊がそう言うとハーツがたまらないという表情をする。深く口付けられて眩暈がしそうだ。

「名残惜しいが行って来る」

「うん、行ってらっしゃい」

 頬にキスされてスリスリされてから、ギリギリまで視線を絡ませて、ドアを開ける。廊下で待つ従者に、仕事後の紘伊との部屋飲みを告げて、軽食と飲み物の手配までしている声が聞こえて、遠ざかって行く。すぐに従者により軽食と飲み物が運び込まれた。

 その様子をトマスが見ていたから、紘伊は要求を伝えた。

「エルが会いに来たがったら引き留めて欲しいんだ。今日明日はハーツ優先だって伝えて」

「承知いたしました」

 丁寧な態度で頭を下げるトマスは執事としての顔で本心を隠すのがうまい。本当は紘伊の存在を望んでおらず、ナナとか他の身分の高い者と婚姻して欲しいのだろうなと紘伊は思っている。紘伊は子を授かる道具。王となるような身分の者は何人も伴侶を持つ事が通常であるから、ハーツの後ろ盾の為にもと、紘伊の存在を心の内で否定している者が多い。エルではなくハーツを王と望む者もまだ多い情勢だ。

「ハーツが戻るまで休むから、誰も近づけないでくれ」

 それでも堂々と要求を言葉にする。望まれていない存在だとしても、紘伊はハーツの唯一の伴侶だ。認めてもらえなくても紘伊には覚悟がある。ハーツに寄り添い、ハーツと生きて行く強い想いが。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...