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107 不安

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 ハーツの産みの親は誰だかわからないらしい。兄弟それぞれの産みの親が同じかどうかも知らないという。

 ハーツの産みの親は獅子族の誰かで人ではない。強さこそが権力とされる獅子族だから、強い者に屈服させられて子を宿される事は不名誉でしかなく、その関係性にツガイはない。屈服させられた者は子を産むだけで育てない。育てるのは兄弟やツガイの相手や従者を雇うのだそうだ。

 獅子族などの強い獣人のツガイは他種族が多く、だけどそこに子は望めない。なんとも不自由なことわりである。

 だから獣人は人を求めたのだけど、どの世界にも変化を恐れ、新しいものを受け入れられない者がいる。

 ただ人と獣人との間に産まれた子が気性が優しく、ツガイとしての立場を拒まない傾向にあるようだ。

 紘伊が獣人と人について勉強をしたのは、マサキに子が出来たと報告を受けたからだ。

 以前もトオルが子を宿していた。ただ関係がうまくいかずに産む事は叶わなかったのだけど、現在はそれを気にしなくても良いと言ってくれる相手に恵まれている。相手はヴィルだ。ヴィルは現在、元爬虫類領で、現在は向こうから来た子たちを保護する施設がある地で働いていて、近くに家を持ち、トオルと暮らしている。

 一度、獣人の子を宿し、もう一度別の獣人の子を授かれるのか、保護施設にいるイヨカにお願いして診てもらっている所だ。

 マサキもトオルも自然に子を産む事を受け入れている。元々トオルは獣人の子を授かる事が使命であると育てられていた。だから逆に授かれないかもしれない事に不安を覚えている。

 マサキは好きな人が子を望んでいるのだから産んで当然らしい。

 紘伊に難しく思えるのは、二人よりも向こうで大人として生きた時間が長いからだろう。歳を取っているぶん頭が固いのかも。

 エルも紘伊の子を望んでいると言う。紘伊は獣人から見たら若いが、人としては中年でもおかしくない年齢だ。早くするに越した事はない。いっそ強引に儀式を済ませ、孕ませてくれたら——育てる覚悟がなければ望んではいけない。

「エルがよけいなことを言ったから?」

 紘伊が考え込んでいるのを見守っていたエルが心配そうに見ていた。

「違うよエル。早くハーツの仕事が落ち着いたら良いなって考えてた」

「そう?」

「うん、そうだよ。エルが心配するような事は何もないからね」

 髪を撫でれば嬉しそうにする。紘伊から産まれた子もエルみたいに早く成長するのだろうか。エルは手のひらに乗るくらいに小さな子で、カゴの中で寝ていた。鳥の雛のような姿だった名残は少しもない。エルの成長中は紘伊もいろんな事があって離れていた。それでも紘伊が親代わりだ。竜の子は最初に指定された者を親とするらしい。では獅子の子は? ユウは生みの親と一緒に暮らしている。人と変わらない生活だ。

 家族にもあまり縁のない紘伊には難しく思えている。
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