獣人カフェで捕まりました

サクラギ

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103 庇護欲

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 次の日の朝、ハーツが会議の為、部屋を出ると、それを待っていたように、反対側になる中庭の窓からエルが飛び込んで来て、まだベッドの上でうだうだしていた紘伊に抱きついて来た。

「おはようエル」

 ご機嫌斜めのエルは紘伊に抱きついたまま答えない。紘伊はそれを可愛いと思い、そういえばエルが紘伊をいずれ伴侶にしようという裏があるとハーツが気にしていた事を思い出す。それでもエルへの庇護欲は変わらないのだけど。

「一緒に寝てあげられなくてごめんね。オーギュと一緒にいた?」

 そう聞くとううんと首を振り、ビシッと中庭の方を指差した。

「……まってた」

「中庭で?」

 それは一晩中部屋の中を伺いながら中庭にいたって事? と言うことは中で何をしていたのか見ていたのか聞いていたのか——獣人の視力と聴力は人より優れている。紘伊は恥ずかしさに体温が上がる。

「紘伊とハーツがツガイなのは知ってる。でもエルを忘れたらダメ」

 必死にしがみついて来るエルの危機感を、紘伊は後頭部を撫でる事で宥めた。

「ハーツが紘伊をいじめるのなら、エルが紘伊をツガイにしても良いと思うけど、紘伊はハーツが好きなの知ってるから……がまんするから捨てないで」

 ぽろぽろと涙をこぼすエルの気持ちは親に見捨てられる子どものようだけど、その気持ちの中にある「ツガイ」というものに多少の不安を覚えるが、紘伊がハーツを求めているのを分かっていてくれるのなら——と聞かなかった事にする。

「捨てるなんてしないから大丈夫だ。でもどうしたってハーツが優先なんだよ、ごめんね。次からはちゃんお部屋で休んで待つんだよ?」

「捨てない?」

「捨てない、捨てない。俺はエルの親代わりだからね。成体になるのを楽しみにしてる」

 成体になったらエルは王になるのだろうか。それとも竜の王になるのだろうか。思っていたよりも遠くに行ってしまいそうな予感がある。

「紘伊が嫌なら王にはならない」

 涙を拭いてやる物がないから、袖で拭いてやる。綺麗な宝石のような瞳から流れる涙が陶器のような肌をすべると、御伽話のように涙がダイヤに変化しそうだが、残念ながらそこまでのファンタジー設定はないようだ。

「嫌ではないよ。俺はこの世界のことをよく知らないから、全部ハーツに任せてる。ハーツやほかのみんなとよく話し合って決めるんだよ。エルがいっぱい勉強して頑張るって言うのなら、俺も応援するから」

「ほんとう?」

「本当だよ。エルは向こうの子たちの事も大切に優しくしてた。あの子たちのこれからの事も考えて王になりたいと思ったんだろ? それは立派な考えだと思うよ」

「うん、ありがとう紘伊。大好きだよ」

 ぷっくりした唇が紘伊の頬に触れる。綺麗な宝石の目が細められて、女の子と見間違うような可憐な笑みを見せてくれる。紘伊はだらしなく相好を崩した。
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