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83 代償
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ハーツは紘伊と出会う前、高層マンションの最上階に住み、組織の代表として席を置いていた。
紘伊の通っていた添い寝店もハーツの手掛ける事業のひとつだったし、政府の奥に潜り込む為、ボディガードや警備員を派遣する会社や探偵事務所も持っていた。
こちらにおける協力者がギルベスターでありイヨカで、紘伊との出会いは偶然だったけど、一目惚れしたのはハーツだったらしい。
「紘伊が講師だった時に一度だけ会ってるよ、覚えていない?」
エルを伴って来た場所は、イヨカが所有する研究所の地下にある秘密の場所だ。
「ハーツの人化を見た事がないからわからないよ」
人カフェで出会う前に会っている話はハーツにも聞いている。その場所が大学構内であった事は初めて聞いたが、その時の接点といえば、獣人と関わりがありそうだと疑っていたイヨカしかいないから、なんとなく勘づいていた。
「ハーツの人化かぁ、私は獣人の姿を見た事がないからね、まぁあの頃は特に、紘伊は周囲に関心がなかったからね」
以前の紘伊を知っているイヨカに隠し事は難しい。
「別に関心が無かった訳じゃない。どちらかといえば、周りが俺に関心が無かったんだろ」
エルはギルベスターと一緒に、地下施設へ行き、施設内にいる産まれたばかりの子を見ている。
「いや違うね。紘伊の興味が獣人にしか無かったんだろう」
イヨカは当時を思い出したのか、口元を袖で隠しながら笑っている。紘伊はバツが悪い。イヨカと話していた内容は、ほとんどが獣人の事で、むしろ獣人の話ができるからイヨカの研究室に押しかけていた。
「ハーツが私の研究室に来たのは一度だけだ。私とハーツが会って話している所を見ている筈なんだ。でも紘伊の記憶には残らない些細な出来事だったのだろうね」
「本当に? 会ってる?」
イヨカとの付き合いは短い。大学を去ってからイヨカとは会っていない。確かに大学を追われたのがショックで、嫌な記憶の中だから、故意に忘れているのかもしれなかった。
「ハーツ自身も人に紛れるように努めていたからね、それでも女生徒や職員に言い寄られたりはしていたよ。ハイスペックなおじさま風だったし、イケメンボディガードを従えていてね、海外セレブっぽくもあったかな」
紘伊は不快な気持ちになる。獣人に女性はいない。だから人の女性には興味もないらしいけど、人を装っていたのだ。適当にでも相手をしていたのかと思えば嫉妬する。
「ああ、でも心配しなくて良いよ。ハーツは紘伊に一目惚れして、大学を去った後もどうにか手に入れる方法はないかと相談を受けていたからね」
「そうだった。イヨカだよね? 俺を添い寝店に行かせて、ハーツと出会わせたの」
あれは本当にどうかと思う。ハーツの身分や獣人を隠している状況から、堂々と紘伊の前に出られなかったんだとは思う。でもまるで罪人のような扱いにしなくても良かったのでは?
「そうだったね、私は添い寝店を紹介するまでしか協力していないんだよ。その後の事はハーツを恨んでくれ」
こちら側に来て初めてあの添い寝店がハーツの手掛けている店だと知った。情報収集や向こう側へ連れて行く人の選別に使っていたらしいが、人の扱いが酷くはないのか。
「だが人には獣人を騙していた過去があるんだよ。お互いに警戒が強くなるのも仕方がない話しだがね」
イヨカは獣人と人のハーフだ。立場の中央にいるように見えて、そうではなく、完全な獣人派だ。そう言われてしまえば紘伊には何も言えない。この施設の地下には、人が獣人を騙して行っていた実験の代償が息づいているのだから。
紘伊の通っていた添い寝店もハーツの手掛ける事業のひとつだったし、政府の奥に潜り込む為、ボディガードや警備員を派遣する会社や探偵事務所も持っていた。
こちらにおける協力者がギルベスターでありイヨカで、紘伊との出会いは偶然だったけど、一目惚れしたのはハーツだったらしい。
「紘伊が講師だった時に一度だけ会ってるよ、覚えていない?」
エルを伴って来た場所は、イヨカが所有する研究所の地下にある秘密の場所だ。
「ハーツの人化を見た事がないからわからないよ」
人カフェで出会う前に会っている話はハーツにも聞いている。その場所が大学構内であった事は初めて聞いたが、その時の接点といえば、獣人と関わりがありそうだと疑っていたイヨカしかいないから、なんとなく勘づいていた。
「ハーツの人化かぁ、私は獣人の姿を見た事がないからね、まぁあの頃は特に、紘伊は周囲に関心がなかったからね」
以前の紘伊を知っているイヨカに隠し事は難しい。
「別に関心が無かった訳じゃない。どちらかといえば、周りが俺に関心が無かったんだろ」
エルはギルベスターと一緒に、地下施設へ行き、施設内にいる産まれたばかりの子を見ている。
「いや違うね。紘伊の興味が獣人にしか無かったんだろう」
イヨカは当時を思い出したのか、口元を袖で隠しながら笑っている。紘伊はバツが悪い。イヨカと話していた内容は、ほとんどが獣人の事で、むしろ獣人の話ができるからイヨカの研究室に押しかけていた。
「ハーツが私の研究室に来たのは一度だけだ。私とハーツが会って話している所を見ている筈なんだ。でも紘伊の記憶には残らない些細な出来事だったのだろうね」
「本当に? 会ってる?」
イヨカとの付き合いは短い。大学を去ってからイヨカとは会っていない。確かに大学を追われたのがショックで、嫌な記憶の中だから、故意に忘れているのかもしれなかった。
「ハーツ自身も人に紛れるように努めていたからね、それでも女生徒や職員に言い寄られたりはしていたよ。ハイスペックなおじさま風だったし、イケメンボディガードを従えていてね、海外セレブっぽくもあったかな」
紘伊は不快な気持ちになる。獣人に女性はいない。だから人の女性には興味もないらしいけど、人を装っていたのだ。適当にでも相手をしていたのかと思えば嫉妬する。
「ああ、でも心配しなくて良いよ。ハーツは紘伊に一目惚れして、大学を去った後もどうにか手に入れる方法はないかと相談を受けていたからね」
「そうだった。イヨカだよね? 俺を添い寝店に行かせて、ハーツと出会わせたの」
あれは本当にどうかと思う。ハーツの身分や獣人を隠している状況から、堂々と紘伊の前に出られなかったんだとは思う。でもまるで罪人のような扱いにしなくても良かったのでは?
「そうだったね、私は添い寝店を紹介するまでしか協力していないんだよ。その後の事はハーツを恨んでくれ」
こちら側に来て初めてあの添い寝店がハーツの手掛けている店だと知った。情報収集や向こう側へ連れて行く人の選別に使っていたらしいが、人の扱いが酷くはないのか。
「だが人には獣人を騙していた過去があるんだよ。お互いに警戒が強くなるのも仕方がない話しだがね」
イヨカは獣人と人のハーフだ。立場の中央にいるように見えて、そうではなく、完全な獣人派だ。そう言われてしまえば紘伊には何も言えない。この施設の地下には、人が獣人を騙して行っていた実験の代償が息づいているのだから。
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