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 紘伊がいた世界から助け出された獣人は、20代から生まれたばかりの子どもまでいて、さらには受精した培養液に入っている生まれるのを待つ卵もあるという。

 それら全てが生まれたら、虎族の勢力が強大になり、全てがハーツに与する事を恐れた。それは実際に起こる事かは分からないのに、王はそれを恐れた。

「ハーツにそんな気はないよね?」

 紘伊がそう言うとハーツは紘伊の頬を撫でる。

「王子たちも育って来ているしな、俺が王城にいる必要もない。それに今後は紘伊と暮らしたいと思っているからな」

 ウェルズ領に建てられた学校の地下が紘伊の家だ。それは子ども達の要望で建てられたのだけど、ハーツの許可は得ている筈だから、紘伊は勝手にあの場所でハーツと暮らすと思っていて。ハーツから一緒に暮らしたいと言われて嬉しさに包まれる。

「普通の暮らしがしたいよ」

 元の世界に戻りたい。でもそれが許されないのなら、ハーツと一緒にいたい。ハーツの手を取って手のひらに口付ける。上を見上げてハーツと視線を合わせた。

「元の場所に戻るか?」

 ハーツの言葉に驚く。体勢を変えてハーツと向き合った。ハーツの真意を探る様に、じっと顔を見てしまった。

「戻っても良いのか?」

 胸がキュッとする。帰りたいと言ったら帰されてしまうのだろうか。何の躊躇いもなく。

 ハーツの手が頬に触れ、引き寄せられる様にキスをする。啄む様な軽いキスの意味は何だろう。

「秘密だが向こうに俺の家がある。偵察用に借りているマンションの一室なのだが、こちらが落ち着いたら一緒に戻るか?」

「いや、戻れるなら戻りたいけど、でも道が閉じてしまったんじゃないのか?」

「ジルベスターが向こうにいる」

 角度を変えてキスされる。

「可愛いキツネの子と浮気しないと約束出来るなら一緒に行っても良い」

 半分笑ってからかうハーツのキスを避けてムッとする。

「ちょっと待てよハーツ。いったいいつから俺の事知ってる?」

 あちらの世界に獣人が紛れて暮らしていると聞いた事があった。でも事実ではないと思っていた。

「極秘事項だ」

 真剣な表情をわざごらしく作っている。ハーツに会ったのは、あの店から施設へ連れて行かれてからだ。でも最初から馴れ馴れしいと思わなくもない。確か初日で手を握られた気がする。

「身寄りのない人を探して連れて行くって本当の事なのか? 人に紛れて獣人が監視してるって……」

 そうだ、大学の講師を疑ったんだ。獣人の研究資料を無造作に置いて興味のある者を探していたのではないかと疑った。

「俺の周りに獣人がいた?」

「不思議な事に俺たちが放つ強い気の様なものが、人界では発揮されない。だからギルベスターも紛れられるし、俺も暮らせる」

「もしかしてだけど、俺、ハーツと向こうで会ってた?」

 過去の記憶を辿る。でもハーツの完全な人化を見た事がない。ハーツは力が強いから、ほぼ人と同じ容姿をしている。でも体格が良いし背が高いから、絶対に目立つ筈だ。残念ながら紘伊の記憶の中にハーツらしき人物はいなかった。
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