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77 アリの巣
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竜の背からは瓦礫の街としか思えなかったが、実際に来て見たら崖の上の木々の間に入り口があって、崖の中に部屋があった。まるでアリの巣のように張り巡らされた道が続く。そこには多くの人の姿がある。虎族とのハーフなのかもしれない。
途中でマサキに会った。状況が落ち着いているからデュオンと一緒に竜族の領へ戻ると聞いた。また会う約束をして別れた。
道を奥へと進むとハーツ専用の部屋があった。入口は布で覆われているだけだし、部屋は四角くくり抜いた穴で壁は土が固められて、そこに布が掛けてあるだけだ。ベッドも分厚い敷布にシーツが掛けてあるだけで、テーブルは無くて木の板の上に果物や飲み物が置いてある。
外からは獣人語が聞こえて来るし、落ち着ける場所ではない。それでもハーツとふたりでいられるのは嬉しかった。
「なぜ王が虎族の人を処分しようなんて事にしたんだ?」
獅子族の中にも人と伴侶になっている者もいる。人がいるから子を成せる種族もいると聞いている。
「簡単に言えば兄弟喧嘩だ」
あまりに簡単な言い方に虚をつかれた。こめかみを押さえる。王と王弟と、確かに兄弟だが、規模が大きすぎる。
「国全体でする兄弟喧嘩?」
呆れてしまう。
「兄は王になって虎族を密偵として雇っているんだ。ギルベスターもそうだし、オーギュストもそうだ。虎族は領地を持たず個々に動いているように見えるが、長はギルベスターだ。今回の件は、ギルベスターの血を引く人が多くこちら側に保護された事が発端になっている」
紘伊はハーツの膝の間に座らされ、手を繋いだり、撫でられたりするのを好きにさせている。
「獅子族だって人との子がいるだろ? 虎族の人が増えた所で何か問題があるのか? しかも処分するほどの」
獣人よりも人の命の価値が低いとはいえ、ハーフであれば人とは違う立場だと思っていた。
「ギルベスターは人界から戻っていない。人界との道を全て閉した時、虎族は長を失った事になる。次の長が決まる前に、王は虎族の力を削いでおきたかったんだ」
紘伊には分からない。なぜ虎族の力を削ぐ手立てが虎族と人のハーフを排除する事に繋がるのか。
「人界から来た虎族の保護を俺が引き受けたからだろう。俺はヒロイに出会う前に人界でギルベスターに会っている。20年前にギルベスターが連れ去った子を引き受けていたのはウェルズ領だ。俺も世話をしていた。そのせいだろう。王は俺の勢力が強くなる事を懸念して処分という強行に出た」
「でも虎族は同族として保護したんだろ? そんな事したら虎族を敵に回す様なものだろ?」
紘伊がそう言うとハーツは頷いたが表情が暗い。
「獣人の中には一定数の人を拒否する者が根強く残っている。力の強さが位の高さだと勘違いしている者もまだまだ多い。人を虐げる事で愉悦を覚える者も」
紘伊が思うのは爬虫類たちだ。ああいう者も確かに存在した。でも獅子族はみんな優しく接してくれたのに。なぜ獅子族である王が否定派なのか。
途中でマサキに会った。状況が落ち着いているからデュオンと一緒に竜族の領へ戻ると聞いた。また会う約束をして別れた。
道を奥へと進むとハーツ専用の部屋があった。入口は布で覆われているだけだし、部屋は四角くくり抜いた穴で壁は土が固められて、そこに布が掛けてあるだけだ。ベッドも分厚い敷布にシーツが掛けてあるだけで、テーブルは無くて木の板の上に果物や飲み物が置いてある。
外からは獣人語が聞こえて来るし、落ち着ける場所ではない。それでもハーツとふたりでいられるのは嬉しかった。
「なぜ王が虎族の人を処分しようなんて事にしたんだ?」
獅子族の中にも人と伴侶になっている者もいる。人がいるから子を成せる種族もいると聞いている。
「簡単に言えば兄弟喧嘩だ」
あまりに簡単な言い方に虚をつかれた。こめかみを押さえる。王と王弟と、確かに兄弟だが、規模が大きすぎる。
「国全体でする兄弟喧嘩?」
呆れてしまう。
「兄は王になって虎族を密偵として雇っているんだ。ギルベスターもそうだし、オーギュストもそうだ。虎族は領地を持たず個々に動いているように見えるが、長はギルベスターだ。今回の件は、ギルベスターの血を引く人が多くこちら側に保護された事が発端になっている」
紘伊はハーツの膝の間に座らされ、手を繋いだり、撫でられたりするのを好きにさせている。
「獅子族だって人との子がいるだろ? 虎族の人が増えた所で何か問題があるのか? しかも処分するほどの」
獣人よりも人の命の価値が低いとはいえ、ハーフであれば人とは違う立場だと思っていた。
「ギルベスターは人界から戻っていない。人界との道を全て閉した時、虎族は長を失った事になる。次の長が決まる前に、王は虎族の力を削いでおきたかったんだ」
紘伊には分からない。なぜ虎族の力を削ぐ手立てが虎族と人のハーフを排除する事に繋がるのか。
「人界から来た虎族の保護を俺が引き受けたからだろう。俺はヒロイに出会う前に人界でギルベスターに会っている。20年前にギルベスターが連れ去った子を引き受けていたのはウェルズ領だ。俺も世話をしていた。そのせいだろう。王は俺の勢力が強くなる事を懸念して処分という強行に出た」
「でも虎族は同族として保護したんだろ? そんな事したら虎族を敵に回す様なものだろ?」
紘伊がそう言うとハーツは頷いたが表情が暗い。
「獣人の中には一定数の人を拒否する者が根強く残っている。力の強さが位の高さだと勘違いしている者もまだまだ多い。人を虐げる事で愉悦を覚える者も」
紘伊が思うのは爬虫類たちだ。ああいう者も確かに存在した。でも獅子族はみんな優しく接してくれたのに。なぜ獅子族である王が否定派なのか。
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