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69 罪人
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デュオンはトオルを連れて行きたかったようだが、自分を見て怯える姿に諦めたのか、マサキを抱き抱えて地を走り、風に乗る。
オーギュは紘伊を連れて行こうとしたが、紘伊がそれを拒否した。オーギュに甘える事は出来なかった。ハーツの側にいる為には、ハーツを裏切らない事しかできないからだ。
「トオル、ごめん。竜族は遠くに行ったから」
トオルを抱きしめて肩を撫でて落ち着かせる。
「マサキは行った?」
肩口でトオルが声を出した。とても冷静な声に驚いた紘伊は体を離してトオルを見た。そうするとトオルが笑む。まるで悪戯っ子のような笑みに拍子抜けする。
「トオル?」
「ありがとうヒロイ、ヒロイのおかげでマサキを送り出す事ができた」
「分かっててあの態度だったのか? 騙されたよ」
ホッとしてトオルを見る。最後に会った時よりやつれているが、支えもなくたてているし、感情を表情に表す事ができている。さっきの病的な態度は演技だったようだ。
「まだ働けるほど体を動かせないから、獣人相手に病人として振る舞っていただけだよ。あ、でも竜族は苦手だし怖いんだけどね」
そう言って笑ったトオルの態度に安堵した時、ドアから兵が入って来る。紘伊は咄嗟にトオルを背で庇った。
獣人語で捲し立てられる。言葉がわからないから答えられずにいると、兵がふたり入って来て、紘伊とトオルの手に枷を付けた。
「ヒロイ、ごめんなさい。マサキを逃したから、俺ら罪人になったみたいだ」
「俺は元々罪人だよ、気にするな。それより体は大丈夫なのか?」
「走ったり長時間立ってはいられないけど何とか」
腕の枷に繋がる鎖を引かれて歩かされている。まったく嫌なのは兵の中に爬虫類がいる事だ。中央区の兵は人化していない。身体にある獣の特徴で種族の見当がつく。
兵は獣人語しか話さない。紘伊にはそこにも人の身分の低さを感じる。普通だったら捕える前にせめて罪状くらいは告げるべきだろう。それもなくただ枷をつけられて連れて行かれている。理不尽さはこの国に来てからずっと付き纏っている。
壁の外に出ると騎馬兵が取り囲んでいて、中には獅子の獣人もいる。その中にも人化した獣人は見当たらない。
馬車の荷台の中の木製の檻の中に押し込まれる。四つん這いでやっと入れる入口は、紘伊とトオルを入れて閉じられ、外側から鍵を掛けられた。幌が掛けられ風景を見る事も許されない。目隠しや猿轡をされないだけマシだろうか。馬車の外では獣人語が行き交っている。やはり獣人語を覚えるべきだと思う。でももう必要ないかもしれないと、相反する思いもあった。
ハーツに見限られた紘伊は、この世界ではただの人で、紘伊もトオルも個の獣人の匂いが付いている。それは今後の待遇に大きく関わるのだろうという知識がある。
獣人は処女厨だと言ったマサキの声を覚えている。
オーギュは紘伊を連れて行こうとしたが、紘伊がそれを拒否した。オーギュに甘える事は出来なかった。ハーツの側にいる為には、ハーツを裏切らない事しかできないからだ。
「トオル、ごめん。竜族は遠くに行ったから」
トオルを抱きしめて肩を撫でて落ち着かせる。
「マサキは行った?」
肩口でトオルが声を出した。とても冷静な声に驚いた紘伊は体を離してトオルを見た。そうするとトオルが笑む。まるで悪戯っ子のような笑みに拍子抜けする。
「トオル?」
「ありがとうヒロイ、ヒロイのおかげでマサキを送り出す事ができた」
「分かっててあの態度だったのか? 騙されたよ」
ホッとしてトオルを見る。最後に会った時よりやつれているが、支えもなくたてているし、感情を表情に表す事ができている。さっきの病的な態度は演技だったようだ。
「まだ働けるほど体を動かせないから、獣人相手に病人として振る舞っていただけだよ。あ、でも竜族は苦手だし怖いんだけどね」
そう言って笑ったトオルの態度に安堵した時、ドアから兵が入って来る。紘伊は咄嗟にトオルを背で庇った。
獣人語で捲し立てられる。言葉がわからないから答えられずにいると、兵がふたり入って来て、紘伊とトオルの手に枷を付けた。
「ヒロイ、ごめんなさい。マサキを逃したから、俺ら罪人になったみたいだ」
「俺は元々罪人だよ、気にするな。それより体は大丈夫なのか?」
「走ったり長時間立ってはいられないけど何とか」
腕の枷に繋がる鎖を引かれて歩かされている。まったく嫌なのは兵の中に爬虫類がいる事だ。中央区の兵は人化していない。身体にある獣の特徴で種族の見当がつく。
兵は獣人語しか話さない。紘伊にはそこにも人の身分の低さを感じる。普通だったら捕える前にせめて罪状くらいは告げるべきだろう。それもなくただ枷をつけられて連れて行かれている。理不尽さはこの国に来てからずっと付き纏っている。
壁の外に出ると騎馬兵が取り囲んでいて、中には獅子の獣人もいる。その中にも人化した獣人は見当たらない。
馬車の荷台の中の木製の檻の中に押し込まれる。四つん這いでやっと入れる入口は、紘伊とトオルを入れて閉じられ、外側から鍵を掛けられた。幌が掛けられ風景を見る事も許されない。目隠しや猿轡をされないだけマシだろうか。馬車の外では獣人語が行き交っている。やはり獣人語を覚えるべきだと思う。でももう必要ないかもしれないと、相反する思いもあった。
ハーツに見限られた紘伊は、この世界ではただの人で、紘伊もトオルも個の獣人の匂いが付いている。それは今後の待遇に大きく関わるのだろうという知識がある。
獣人は処女厨だと言ったマサキの声を覚えている。
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