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59 信じるもの
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山肌に造られた道を登って行く。中腹の葉屋根に守られた場所で馬を降りて待機の状態だ。眼下の遠くで戦っているのが見える。紘伊の見ている反対側の方角から軍が加勢に来たのも見た。
「先陣は我が傭兵部隊で、援軍は王直属の部隊だ」
崖の一歩手前で寝そべって隠れながら事態を傍観している紘伊の後ろで、彼は馬に水と餌を与えて衣服を緩めて休憩を取っている。なにげなく後ろを振り返った紘伊の視界に入ったのは、彼のくつろげた衣服の胸元から覗く獣毛だった。
「虎族の方でしたか」
紘伊のつぶやきに似た小声に、彼は横目で紘伊を見て、興味もなく戻す。紘伊の表情に浮かれた興味本位なものを見つけたからかもしれなかった。
紘伊の虎族に対する評価は高い。紘伊の知る虎族といえば、20年前に映像の中に現れたヒーローであるからだ。
「種族が何であれ、おまえには何の関わりもないだろ」
紘伊の視線を興味というより好意と捉えたのだろう。彼の態度に距離を感じた。
「いえ、そうではなく——俺にとっての虎族は人の世界に現れたあの虎族でして……名前、なんだったかな? ハーツが教えてくれたのに……」
「ギルベスター?」
「そう、ギルベスター」
懐かしい想いを胸にする。幼い頃の紘伊のヒーローだ。名を呼んで身悶えた紘伊を彼は冷めた視線で見ている。忌々しいというように舌打ちまで聞かせて来た。
「俺ら虎族は人を許さねえ。お前が王弟の示した人で無ければこんな面倒事など引き受けなかった」
「ハーツ? ……ハーツは今どこにいる? 予定では迎えに来るって……」
「王弟だぜ?」
彼は皮肉に笑う。
「たかが人の為に城を空ける訳がねえ」
「そうか……思ってもみない事態になってしまったんだね」
紘伊がそう言うと彼はまた舌打ちをする。
「さあな、どこまでが真実でどこからが嘘なんだか」
吐き捨てるようにそう言うと、紘伊を見下ろして忌々しげに笑む。
「おまえさあ、本気でアイツを信じているのか? 最初から騙されて良い餌にされているとは思わねえの?」
紘伊の耳には悪態の声として届いている。獣人が日本語をマスターしただけで癖まで付けられるのかと、言われた内容とは違う事を考えてしまった。答えるまでに間があく。それを腑抜けと捉えられたようだ。
「おまえみたいな抜けたヤツ、騙されても仕方ねえか。どうせ一人じゃ生きて行けねえもんな」
馬鹿にした言い方をされたが、紘伊は自重気味な態度で受け止める。彼の言い分はもっともだからだ。この獣人が住まう世界へ来てからも、その前の段階でも、紘伊に出来た事など一つもない。何度も爬虫類の獣人に傷つけられたけど、抗う事さえできずに守られてばかり。虐げられている同胞を見つけても、紘伊は傍観者で、手を掛けてくれたのはいつでもハーツだった。
ハーツがいたから紘伊は何もせずとも生きて来られた。ハーツを疑った所でどうしようもない。騙されていたとしても仕方がない。相手がハーツであるのなら受け入れる覚悟だけはある。
「先陣は我が傭兵部隊で、援軍は王直属の部隊だ」
崖の一歩手前で寝そべって隠れながら事態を傍観している紘伊の後ろで、彼は馬に水と餌を与えて衣服を緩めて休憩を取っている。なにげなく後ろを振り返った紘伊の視界に入ったのは、彼のくつろげた衣服の胸元から覗く獣毛だった。
「虎族の方でしたか」
紘伊のつぶやきに似た小声に、彼は横目で紘伊を見て、興味もなく戻す。紘伊の表情に浮かれた興味本位なものを見つけたからかもしれなかった。
紘伊の虎族に対する評価は高い。紘伊の知る虎族といえば、20年前に映像の中に現れたヒーローであるからだ。
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紘伊の視線を興味というより好意と捉えたのだろう。彼の態度に距離を感じた。
「いえ、そうではなく——俺にとっての虎族は人の世界に現れたあの虎族でして……名前、なんだったかな? ハーツが教えてくれたのに……」
「ギルベスター?」
「そう、ギルベスター」
懐かしい想いを胸にする。幼い頃の紘伊のヒーローだ。名を呼んで身悶えた紘伊を彼は冷めた視線で見ている。忌々しいというように舌打ちまで聞かせて来た。
「俺ら虎族は人を許さねえ。お前が王弟の示した人で無ければこんな面倒事など引き受けなかった」
「ハーツ? ……ハーツは今どこにいる? 予定では迎えに来るって……」
「王弟だぜ?」
彼は皮肉に笑う。
「たかが人の為に城を空ける訳がねえ」
「そうか……思ってもみない事態になってしまったんだね」
紘伊がそう言うと彼はまた舌打ちをする。
「さあな、どこまでが真実でどこからが嘘なんだか」
吐き捨てるようにそう言うと、紘伊を見下ろして忌々しげに笑む。
「おまえさあ、本気でアイツを信じているのか? 最初から騙されて良い餌にされているとは思わねえの?」
紘伊の耳には悪態の声として届いている。獣人が日本語をマスターしただけで癖まで付けられるのかと、言われた内容とは違う事を考えてしまった。答えるまでに間があく。それを腑抜けと捉えられたようだ。
「おまえみたいな抜けたヤツ、騙されても仕方ねえか。どうせ一人じゃ生きて行けねえもんな」
馬鹿にした言い方をされたが、紘伊は自重気味な態度で受け止める。彼の言い分はもっともだからだ。この獣人が住まう世界へ来てからも、その前の段階でも、紘伊に出来た事など一つもない。何度も爬虫類の獣人に傷つけられたけど、抗う事さえできずに守られてばかり。虐げられている同胞を見つけても、紘伊は傍観者で、手を掛けてくれたのはいつでもハーツだった。
ハーツがいたから紘伊は何もせずとも生きて来られた。ハーツを疑った所でどうしようもない。騙されていたとしても仕方がない。相手がハーツであるのなら受け入れる覚悟だけはある。
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