50 / 112
50 交戦準備
しおりを挟む
「熊族は好意的だったけど、狼族はどんな感じ?」
そう聞くとハーツは嫌な顔をした。
「ヒロイは胸の獣毛が好きなんだろ?」
「好きだけど、触るのはハーツだけだよ」
そんなの当たり前だろ? と憤慨して見せれば、納得して許してくれたハーツが胸元に抱き込んでくれる。ふわふわの獣毛に頬を寄せて、その相手も許してくれて喜んでくれるなんて貴重だと思っている。
「狼族は人を必要としていないから、ヒロイに興味を持ったのは、単に好奇心からだと思うよ」
「人の伴侶は必要ないってこと?」
「狼族は基本同種と番う。よっぽどの事がないと人をテリトリーに入れない。群れがあるのは獅子族と似ているがな」
「そうか、狼も群れで行動するよね。狼の獣人は、群れと番を大事にするから、俺の世界でファンタジーの題材になる事が多いよ」
「獅子は?」
嫉妬だろうか。狼を褒めたから。顔を上げさせられて見つめ合った。
「獅子は強いイメージだから戦士の描写が多い気がする。けどハーツと出会ったから俺の中のイメージは、強くて優しくて情に厚い、世界一素敵な存在になってるよ」
テレ隠しでイタズラに笑って見せたら、ハーツも笑んで見せながらキスをくれた。
獣人はファンタジーで、会ったことのない狼族は想像の域を出ない。古城の月夜、男は狼に変化して獲物を襲い、その首筋に鋭い牙を刺して生き血を啜る……どうやら別の題材と混同させている。でもファンタジーだからそういう事があっても不思議ではない。
「今度はハーツも一緒に行くんだよね?」
ハーツと離れて、もう二度と会えないって思いながら居たあの時の辛さを思い出したくない。
「いや、竜族を欺かなければならない。20日後、我らは竜族の長を狙う」
「本気で竜族と戦うの?」
「竜族とまともに戦うような無謀な事はしない。4大種族が正面からぶつかったら、落ち着いている住民の暮らしが崩壊する」
竜は飛べるから、戦う範囲が広くなる。敵地に戦いを仕掛けている間に、自領が狙われたら元も子もない。紘伊はハーツの説明に納得する。
「竜族は大陸に領を持っているが、200年も居たら飽きて島へ渡って行く。他種族と関係を結んでも、同じ時を生きられない事に悲しむのだそうだ。だから代替わりは他種族と同時期になる。竜族はサザリンドを領長にすべきではなかった。他種族に貶められたという思いを捨てられずにいるからだ」
やはりサザリンドは王位を剥奪されたのだと思う。どんな事情かは分からないけど、納得していないのだろう事は分かった。でもだからといって権力で誰かを不幸にするのは許せないと思う。
「説得するの?」
「俺と他2大種族はサザリンドに意思を伝え、デュオンを次の領長に推す。もちろんデュオンの意思を確かめてからになるが——宰相であるデュオンの父がどう出るかだが」
「宰相も辞職させられるんだよね?」
ハーツが悲しそうな顔をする。
「サザリンドが王位にあった時よりの宰相だ。代替わりは必要だろう」
紘伊の中には不安がある。
サザリンドの訴えに、偽りの返答で時間稼ぎを申し出てくれた熊族と狼族には感謝をするし、サザリンドのやり方に否を唱える理由も頷けるけど、このタイミングでなくても良かったのでは? とも思う。緊張状態であった4大種族の均衡をやぶったのが紘伊であるのかと思うと気が重い。ハーツを矢面に立たせているという後ろめたさもある。考えれば考えるほど分からなくなる紘伊だった。
そう聞くとハーツは嫌な顔をした。
「ヒロイは胸の獣毛が好きなんだろ?」
「好きだけど、触るのはハーツだけだよ」
そんなの当たり前だろ? と憤慨して見せれば、納得して許してくれたハーツが胸元に抱き込んでくれる。ふわふわの獣毛に頬を寄せて、その相手も許してくれて喜んでくれるなんて貴重だと思っている。
「狼族は人を必要としていないから、ヒロイに興味を持ったのは、単に好奇心からだと思うよ」
「人の伴侶は必要ないってこと?」
「狼族は基本同種と番う。よっぽどの事がないと人をテリトリーに入れない。群れがあるのは獅子族と似ているがな」
「そうか、狼も群れで行動するよね。狼の獣人は、群れと番を大事にするから、俺の世界でファンタジーの題材になる事が多いよ」
「獅子は?」
嫉妬だろうか。狼を褒めたから。顔を上げさせられて見つめ合った。
「獅子は強いイメージだから戦士の描写が多い気がする。けどハーツと出会ったから俺の中のイメージは、強くて優しくて情に厚い、世界一素敵な存在になってるよ」
テレ隠しでイタズラに笑って見せたら、ハーツも笑んで見せながらキスをくれた。
獣人はファンタジーで、会ったことのない狼族は想像の域を出ない。古城の月夜、男は狼に変化して獲物を襲い、その首筋に鋭い牙を刺して生き血を啜る……どうやら別の題材と混同させている。でもファンタジーだからそういう事があっても不思議ではない。
「今度はハーツも一緒に行くんだよね?」
ハーツと離れて、もう二度と会えないって思いながら居たあの時の辛さを思い出したくない。
「いや、竜族を欺かなければならない。20日後、我らは竜族の長を狙う」
「本気で竜族と戦うの?」
「竜族とまともに戦うような無謀な事はしない。4大種族が正面からぶつかったら、落ち着いている住民の暮らしが崩壊する」
竜は飛べるから、戦う範囲が広くなる。敵地に戦いを仕掛けている間に、自領が狙われたら元も子もない。紘伊はハーツの説明に納得する。
「竜族は大陸に領を持っているが、200年も居たら飽きて島へ渡って行く。他種族と関係を結んでも、同じ時を生きられない事に悲しむのだそうだ。だから代替わりは他種族と同時期になる。竜族はサザリンドを領長にすべきではなかった。他種族に貶められたという思いを捨てられずにいるからだ」
やはりサザリンドは王位を剥奪されたのだと思う。どんな事情かは分からないけど、納得していないのだろう事は分かった。でもだからといって権力で誰かを不幸にするのは許せないと思う。
「説得するの?」
「俺と他2大種族はサザリンドに意思を伝え、デュオンを次の領長に推す。もちろんデュオンの意思を確かめてからになるが——宰相であるデュオンの父がどう出るかだが」
「宰相も辞職させられるんだよね?」
ハーツが悲しそうな顔をする。
「サザリンドが王位にあった時よりの宰相だ。代替わりは必要だろう」
紘伊の中には不安がある。
サザリンドの訴えに、偽りの返答で時間稼ぎを申し出てくれた熊族と狼族には感謝をするし、サザリンドのやり方に否を唱える理由も頷けるけど、このタイミングでなくても良かったのでは? とも思う。緊張状態であった4大種族の均衡をやぶったのが紘伊であるのかと思うと気が重い。ハーツを矢面に立たせているという後ろめたさもある。考えれば考えるほど分からなくなる紘伊だった。
2
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
【完結】かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
倉橋 玲
BL
**完結!**
スパダリ国王陛下×訳あり不幸体質少年。剣と魔法の世界で繰り広げられる、一風変わった厨二全開王道ファンタジーBL。
金の国の若き刺青師、天ヶ谷鏡哉は、ある事件をきっかけに、グランデル王国の国王陛下に見初められてしまう。愛情に臆病な少年が国王陛下に溺愛される様子と、様々な国家を巻き込んだ世界の存亡に関わる陰謀とをミックスした、本格ファンタジー×BL。
従来のBL小説の枠を越え、ストーリーに重きを置いた新しいBLです。がっつりとしたBLが読みたい方には不向きですが、緻密に練られた(※当社比)ストーリーの中に垣間見えるBL要素がお好きな方には、自信を持ってオススメできます。
宣伝動画を制作いたしました。なかなかの出来ですので、よろしければご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=IYNZQmQJ0bE&feature=youtu.be
※この作品は他サイトでも公開されています。
食べて欲しいの
夏芽玉
BL
見世物小屋から誘拐された僕は、夜の森の中、フェンリルと呼ばれる大狼に捕まってしまう。
きっと、今から僕は食べられちゃうんだ。
だけど不思議と恐怖心はなく、むしろ彼に食べられたいと僕は願ってしまって……
Tectorum様主催、「夏だ!! 産卵!! 獣BL」企画参加作品です。
【大狼獣人】×【小鳥獣人】
他サイトにも掲載しています。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる