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50 交戦準備

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「熊族は好意的だったけど、狼族はどんな感じ?」

 そう聞くとハーツは嫌な顔をした。

「ヒロイは胸の獣毛が好きなんだろ?」

「好きだけど、触るのはハーツだけだよ」

 そんなの当たり前だろ? と憤慨して見せれば、納得して許してくれたハーツが胸元に抱き込んでくれる。ふわふわの獣毛に頬を寄せて、その相手も許してくれて喜んでくれるなんて貴重だと思っている。

「狼族は人を必要としていないから、ヒロイに興味を持ったのは、単に好奇心からだと思うよ」

「人の伴侶は必要ないってこと?」

「狼族は基本同種とつがう。よっぽどの事がないと人をテリトリーに入れない。群れがあるのは獅子族と似ているがな」

「そうか、狼も群れで行動するよね。狼の獣人は、群れと番を大事にするから、俺の世界でファンタジーの題材になる事が多いよ」

「獅子は?」

 嫉妬だろうか。狼を褒めたから。顔を上げさせられて見つめ合った。

「獅子は強いイメージだから戦士の描写が多い気がする。けどハーツと出会ったから俺の中のイメージは、強くて優しくて情に厚い、世界一素敵な存在になってるよ」

 テレ隠しでイタズラに笑って見せたら、ハーツも笑んで見せながらキスをくれた。

 獣人はファンタジーで、会ったことのない狼族は想像の域を出ない。古城の月夜、男は狼に変化して獲物を襲い、その首筋に鋭い牙を刺して生き血を啜る……どうやら別の題材と混同させている。でもファンタジーだからそういう事があっても不思議ではない。

「今度はハーツも一緒に行くんだよね?」

 ハーツと離れて、もう二度と会えないって思いながら居たあの時の辛さを思い出したくない。

「いや、竜族を欺かなければならない。20日後、我らは竜族の長を狙う」

「本気で竜族と戦うの?」

「竜族とまともに戦うような無謀な事はしない。4大種族が正面からぶつかったら、落ち着いている住民の暮らしが崩壊する」

 竜は飛べるから、戦う範囲が広くなる。敵地に戦いを仕掛けている間に、自領が狙われたら元も子もない。紘伊はハーツの説明に納得する。

「竜族は大陸に領を持っているが、200年も居たら飽きて島へ渡って行く。他種族と関係を結んでも、同じ時を生きられない事に悲しむのだそうだ。だから代替わりは他種族と同時期になる。竜族はサザリンドを領長にすべきではなかった。他種族に貶められたという思いを捨てられずにいるからだ」

 やはりサザリンドは王位を剥奪されたのだと思う。どんな事情かは分からないけど、納得していないのだろう事は分かった。でもだからといって権力で誰かを不幸にするのは許せないと思う。

「説得するの?」

「俺と他2大種族はサザリンドに意思を伝え、デュオンを次の領長に推す。もちろんデュオンの意思を確かめてからになるが——宰相であるデュオンの父がどう出るかだが」

「宰相も辞職させられるんだよね?」

 ハーツが悲しそうな顔をする。

「サザリンドが王位にあった時よりの宰相だ。代替わりは必要だろう」

 紘伊の中には不安がある。

 サザリンドの訴えに、偽りの返答で時間稼ぎを申し出てくれた熊族と狼族には感謝をするし、サザリンドのやり方に否を唱える理由も頷けるけど、このタイミングでなくても良かったのでは? とも思う。緊張状態であった4大種族の均衡をやぶったのが紘伊であるのかと思うと気が重い。ハーツを矢面に立たせているという後ろめたさもある。考えれば考えるほど分からなくなる紘伊だった。
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