獣人カフェで捕まりました

サクラギ

文字の大きさ
上 下
47 / 112

47 ノイズ領

しおりを挟む
 山に入る前に乗り物が変わる。大きな熊に乗馬用の馬具と同じような物が乗せられていて、そこに乗れと言われた。

 馬車の中で受け取っていた防寒着をきる。もう拘束はされなかった。逃げた所で凍死するって分かるからだろう。

 熊は紘伊の知っている熊の2倍はある。四肢を折り曲げて乗るのを待ってくれているから、慣れている動物なんだと思うけど、こんな大きな熊が慣れているのも不思議に思った。

 熊の上に這い上がって登る。椅子に座ると従者が乗って来て、安全ベルトを付けてくれた。腹の前に掴まる所がある。手袋の分厚い手で必死に掴んでいると、のっそりと熊が立ち上がった。

 山の斜面をゆっくり登って行く。高度を上げて行くと雪が降って来て、途中から吹雪になった。コートの前を合わせていても風が入って寒い。後ろから支えてくれている兵士がマフラーを貸してくれた。ありがとうと言いたくても寒くて凍えて痛いくらいで、とても言える状況ではなかった。

 熊の領、ノイズは、高い壁に囲われていた。下から見上げると空に届きそうに見える。壁の一部が開き、中に入ると雪が一気に止んだ。

 嘘のようだった。痛いほどの寒さが消える。熊はまだ奥へと進んで行く。不思議な事に地面に草が生えて、雪が所々にしかない。暖かく感じる気もする。

「地熱があるのです」

 後ろの兵士が教えてくれる。

「先ほどはマフラーをありがとうございました」

 暖かくなったのでマフラーを返した。
 熊が歩みを止め、四肢を折る。安全ベルトを外してくれて、地面に降りた。

「こちらへ」

 トンネルのような入り口がある。入れば左右に門番がいて、それがとても大きな体で、熊の獣人だと分かる姿だ。

 奥へ進んで行く。後ろに乗っていた案内をしてくれる兵士は人化をしているのに、中では人化を見かけない。

 紘伊が通ると、熊族は立ち止まって敬礼をする。胸に拳を置くのが敬礼スタイルらしい。

 もう一つの扉を潜ると、コートを着ていると暑いくらいで、兵士が脱ぐのを示してくれて、通りかかった熊族に兵士と紘伊の防寒着を預けている。

「早々で申し訳ないのですが、領主が待っておりますので、ご案内致します」

 奥からきた熊族に礼をされた。紘伊は頷いて付いて行く。思ったよりも静かな環境で驚いている。もっと大きい体を想像していたけど、大きさはハーツと変わらない。少し猫背で毛が硬そうで、腕と太ももの筋肉がすごい。山登りとか雪かきとかをしているせいだろうか。

「こちらです」

 身なりを整える間もなく部屋に通される。二枚の扉が内側に開くと、中にたくさんの熊族がいるのが見えた。

 紘伊の入ったのは舞台を見て左後ろに当たる扉だ。一斉にこちらを見られ、緊張が走る。

 案内をしてくれた熊族の後ろに続いて入って行く。中央を空ける様に熊族が並んでいる。その中央の道を歩んで、舞台に座る領主の前に進む。

 音がない。紘伊が歩む音が響いている。誰かが咳払いをした。ビクッとはしたけど大丈夫。案内の示した場所に膝をついて座った。視線を下げる。心臓に手を当てて落ち着こうと思う。静けさが怖すぎる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

ふたりの距離

春夏
BL
【完結しました】 予備校で出会った2人が7年の時を経て両想いになるまでのお話です。全9話。

処理中です...