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45 代償

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 たった10日後、爬虫類の領を陥とした獅子軍が戻って来た。

 紘伊は部屋から出る事を禁じられ、やきもきした気分でハーツが戻るのを待っていた。

 軍が戻って来たのはお昼頃で、今はもう深夜を回っている。途中で経過報告くらいしてくれたって良いのに。と思っていたけど、もしかしたら怪我人が多いとか、戦況が良くないとか、そういう問題が起こっているのかもと心配になる。

 ドアを開けて覗いても、部屋を警護する兵は会話禁止らしく、早く部屋に戻れと態度で示す。

 それから数時間、ベッドに潜り込んで待っていると、やっとハーツが戻って来たけど、何やら考えている様子で、声を掛けられない。まるで流れ作業のように風呂に入って着替えて、紘伊のいるベッドに来て、紘伊を後ろから抱きしめ、肩口に顔を埋めて来た。

 これは最悪な予感がする。何もなければすぐに話してくれるだろうし。何が起これば最悪なんだろう。体の向きを変えてハーツの胸に頬を寄せた。

「王の退位を要求された」

 ポツンと告げられたハーツの言葉。思っていた事と全然違う内容で、理解するのに時間が掛かった。

 ハーツがふうっとため息を吐く。

「4大種族のうち何れかの当主が王の退位を要求した時、他領の同意がひとつでも得られれば、王位をかけた戦いをしなければならない」

 王位をかけて4大種族が争う。

「もしかして竜族が要求を?」

 それ以外に考えられない。

「今の王に何の落ち度もないのに、退位を要求できるものなの?」

「俺が竜族長の伴侶を盗み、ヒロイを無理矢理捕らえているというのが理由だそうだ。獅子族の不名誉を訴えられた」

 そんなのが通るもの? どう考えても言いがかりだ。

「幸い狼も熊も同意はしない。最悪の事態にはならずに済んだのだが……」

「何? まだ問題があるの?」

 ハーツが紘伊をぎゅっと抱きしめる。肩口にあるハーツが強く歯を噛み締める音が聞こえた。やり場のない怒りを抱えている。

「ヒロイを要求された」

 肩が濡れる。ハーツが涙を落としている。気づかれたくないと思うから、じっとされるがままになっているけど。ハーツが泣くなんてよっぽどの事だ。不安が胸に詰まって行く。

「差し出すの?」

「いや、簡単に差し出す訳じゃない。ヒロイの本心を知れば引くと告げられた。竜は除外だ、竜の所へは行かせない。それだけは約束させた。だが狼と熊の所へは——ヒロイが落ちなければ手を出さずに返すという条件だ。こんな、試す様な事になってすまない。こんな事になるのなら、人の世から連れ出さなければ良かった」

 ハーツが弱音を吐いている。

「戻ってこれるんでしょ? 俺が好きなのはハーツだよ。大丈夫、なんとかなる。戻って来るよ」

 怖くて震えてしまった。誤魔化す様にハーツを抱きしめる。元はと言えば紘伊の我儘のせいで起こっている事だ。こんなにたくさん迷惑を掛けているのに。こんなただの人なんて手放してしまえば良いのに。そう思うけど、本当にそうされたら心が死んでしまう。ハーツが信じて待ってくれていると分かるから、強くいようと思える。
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