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32 竜の棲家

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 連れて行かれたのは高級なホテルだ。
 竜の領は大陸の南に位置していて、竜の棲息場所は海の向こうの離れ島にあるらしい。竜の領長は城を持っていなくて、山の中の洞窟を利用した家を拠点としているらしい。それもまた素敵だと思う。

「竜族は普段からとても怠惰だ。なにせ長命で500年から1000年生きると言われている」

「その差はなに?」

 500年の差は大きいと思う。何がそうさせるのだろう。

「竜族はこの大陸の他に島も所有しているし、秘密が多い。我らは長くても200年生きるだけだからな、竜族が実際どれほど生きているか見届ける者がいない」

「なるほどね」

 海の見えるプールサイドで南国のフルーツの乗ったカクテルを飲んでいる。白いパラソルの下にいるけど、日差しがとても強い。ハーツの獣毛がとても暑そうだ。

「デュオンさんとは友達なの?」

「今の宰相がデュオンの父親でな、幼い頃からの馴染みだな」

「そうか、寿命が長いから後を継ぐのも難しいよな」

 いったい幾つで子を儲けるのかさえ分からない。種族によって寿命が違うのも不思議な感じだ。

「役職は世襲制ではないぞ。王も種族が決まっている訳ではないし、世襲制でもない。だから王弟と言われても今期限りだ。あってないような地位だと言っただろう?」

 確かに聞いた。なるほどそういう意味か。王といっても中世の王の意味合いではなく、大統領とか総理大臣とか、任期のある代表のようなものなのだろうか。

「それに竜族は怠惰だと言っただろう。宰相を引き受けた竜族など珍しいんだ。彼らは資金源が豊富だからな、無駄に働かなくても生きて行ける。大袈裟に言えば自然さえあれば生きて行ける種族だよ」

「いーなー竜族。老後の理想な生活を想像したよ」

 そう言うとハーツがヘソを曲げる。

「竜族の者に身請けされたかったか?」

「まさか! 違うよ。ハーツは俺の理想のど真ん中だって言っただろ? ハーツ以上に好きになれる相手なんている訳ない」

 離れた席に座っていたけど、ハーツの側に行って抱きついた。胸の獣毛に顔を埋める。これ以上の居心地の良さは他にない。そうしたらハーツが背中を撫でてくれる。

「おまえは本当に俺の獣毛が好きだな」

「ハーツが好き」

 そう言うと髪を優しく撫でられる。

「竜には獣毛がないし鱗が硬いからな、俺の方が添い寝には最適だろう」

 そうっと見上げたら嬉しそうに表情が緩んでいる。甘えると喜んでくれるハーツが可愛い。こんなに強そうなのに可愛いなんて。本当に理想の相手だと思う。

「今夜は酒の席に誘われている。族長とその伴侶も来るそうだ。おまえはどうする」

「行くよ。ハーツが婚約者って紹介してくれたから、ちゃんと行くよ。でもうまくやれるかは分からないよ」

 なにせ獣人のマナーも知らない。獣人語も話せない。獣人の婚約者って何をすれば良いのだろう。何もかもが分からない。

「大丈夫だヒロイ、普通は人の伴侶は出席しないものだ。言っただろう? 俺の前に立てる人族はいないと」

 何度も聞いているが信じられない。ハーツは最初、あの施設に来ていた。でもあそこの従業員が全て人化をした獣人であったのなら、ハーツは紘伊以外の人に会っていない事になる。

 でもあの施設は獣人の中でも高位の者しか通していないと言っていた。まぁあの爬虫類の獣人が高位というのなら、高位にもかなりの幅があるのだろう。

 見初めてくれたのがハーツで本当に良かったと思う。
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