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20 図書館

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 その日からハーツは戻らなくなった。執事が言うには急な仕事という事だ。それは仕方ない。仕事は大事だ。

 ハーツがいないから部屋で食事を取る。退屈だと言ったら執事に図書館を案内された。すごい荘厳な図書室。吹き抜けの空間で真ん中に螺旋階段があって、丸い施設の壁全体が本棚だ。3階分の高さに15段の棚。ぐるっと廊下が付いていて、細い階段で繋がっている。上部は十字の床が螺旋階段の踊り場に続き、最上階がくつろぎの場になっている。日の日差しの管理がされていて、本に日が当たらない設計は見事だと思った。

 濃い茶色の階段を登りながら本を選ぶ。日本語の本もたくさんあって、発売日当日の新書もあって驚く。予約すれば日本の本も手に入るらしい。どういうシステムか聞くのも怖い。とりあえず数冊手にして、一階の隅に身を寄せて手持ちのランプの火で本を読む。誰もいない静かな空間が心地良い。

 本に没頭していたから気づかなかったけど、足元に獣人の子がいる。絵本を広げて寝転んで頬杖を付いて足を交互にパタパタしている。可愛すぎる。うごいているけどぬいぐるみに近い。じっと見るのも悪いから、本に集中しようと思うけど、気になる。っていうか、こんな子どももいる場所だと知り、あの日の外での行為を思い出して恥ずかしい。絶対にダメ、教育に悪い。

「これ、よんで?」

 足を掴まれてゆすられた。日本語だ。
 子どもの指差す文字を見る。日本語だ。美女と野獣の絵本だった。なるほど、獣人に近いけど。迫害されるんじゃなかった? まあ良いのか?

「ばら、だよ。庭に咲いているのを見たよ。ここは今の季節にバラが咲くんだね」

「ばら、さいてる? いこう?」

「いや、だめだよ。おじさんはここから出られないんだ」

「おじさん?」

「ヒロイだよ、君は?」

「ユウ」

 可愛くにっこり笑んで見せてくれたけど、手を引かれてしまう。

「怒られるからダメだよ」

 親がいないか見回してみたけど誰もいない。最上階から下りて来たのか? と思うけど声を出す勇気はない。

「いこう、いこう」

 いやこれ誘拐犯に見えない?

「本を読もうよ。ここを出ると怒られるんだ。ごめんね、また今度行こう? お父さん? に許してもらってからね」

 膝をついてユウを宥める。泣きそうになってる。泣かせても怒られるのかな。

「ユウ! 大丈夫か?」

 上から声が降って来た。日本語だ。日常的に日本語が使われている不思議。上からユウより少し年上の獣人の子が下りて来る。機敏な動きにさすがだと思う。

 その子はユウを抱きしめて紘伊から隠すと強い視線で見上げて来た。

「だれ?」

「ヒロイ」

 とユウが言ってくれる。

「ヒロイ?」

「ハーツさまの所にいる紘伊です」

 そう言うとホッとしたようにユウを離した。

「俺はグラン、よろしくヒロイ」

 小さな手と握手をする。ユウも手を伸ばして来たから両手で握手になる。微笑ましくて笑顔になる。

「グラン、ばらみにいきたい」

 ユウがグランにねだっている。

「ダメだよ、お母様と一緒の時にね」

 頭を撫でられて、はーいというユウが可愛い。っていうかお母様か。女性はいないって聞いたから、産んだ方がお母様と呼ばれているのだろう。そう思って思いつく。もしかしてお母様って日本人なんだろう。だから日本語が上手なのか。妙に納得してしまった。
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