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13 夜の訪問者

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 酷い話だと思った。
 孤独な人を集めて獣人に身請けさせる意味が何かしらあるのだとは思っていた。だけどそれは奴隷のように扱われるか、娼婦のように扱われるか、くらいの想像しか持ち合わせていなかった。

 男には子が産めない。根本がそれだから想像にも上らなかった。

「エロゲか薄い本か」

 悪魔や獣人に孕まされる架空の話はある。男に種を植え付けて産ませる描写とか、はっきり言って気分が悪くなるから目を逸らしていた。それが自分の身に? と思うと恐ろしくなる。

 塾講仲間で奥さんが妊娠して、パパ教室に行って妊婦体験をした——なんて話しを聞かされた事はある。あんなに大変だとは思わなかった。お腹の中に命があるってすごい事だよね。そういう会話に奥さんを大事にしてやれよ。なんて白々しいセリフを言った覚えがある。あれを体験するのか? 自らの体で? いや、それは幸せの中の光景だ。愛されて子を産む。それなら100歩譲って良しとしよう。まさか家畜の様に産まされるとか——想像しそうになって打ち消した。状況がはっきりしていないうちから、想像で気が狂いそうだ。

 自室のドアがノックされる。時間は夜。そんなのは初めての事で困惑する。
 ドアが開く。鍵の意味は? と思う。

「失礼しまーす。白石さーん、おめでとうございまーす。あなたの身請け先が決まりましたよーぱちぱちぱち~」

 受付の子がドアを開けたまま話している。

「こちらのバッグに必要最低限の物を入れて下さい。それ以上の物は持ち込めませーん。服や日用品は獣人国の物を用意してもらえまーす。良かったですね~。では、数時間後にお迎えが来ますので、身支度を終えておいてくださいね~」

 手を振りながらドアが閉まる。ガチャンと鍵が閉まった。なんとなく内側からは開かないのではないかと思える。調べて失望したくないから試さなかった。

 シャワーを浴びに行く。身支度をして受け取った黒いカバンに数日分の服を入れる。下着と靴下なども。携帯は取り上げられているし、電化製品もない。着替え以外に入れる物もなく、すでに持ち物を制限されているのにと理不尽さに嫌気が指す。これで相手が爬虫類だったらどうするのか。幸運にもあのライオンだったら嬉しいけど、扱いが家畜だったらどちらも嫌だ。

 そう思っても紘伊に選ぶ権利はない。
 母方の親戚が探してくれないだろうかと思う。あれほど嫌っていた相手なのに。自分の甘さに笑えて来る。

 今まで散々嫌味を言われて過ごして来た幼少期でさえまだ甘かったのだと分かる。嫌味を言われて土下座させられる屈辱を受けても、それ相応のお金を受け取っていたし、成人するまでは戸籍の端に受け入れて貰っていた。

 親に捨てられ、誰にも顧みられず、寂しい幼少期だと思っていたけど、自由だけは手にしていたのだ。

 自由という権利の大きさを改めて噛み締めた。
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