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10 身請け
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10日間、紘伊は暴力に屈して暮らした。最初は同じトカゲだかワニだかに執着されて通われていると思っていたが、そのうち小さな違いを見つけて、同じ種族の別のヤツが日替わりで通っているのだと勘づいた。紘伊がイジメやすい相手だと触れ込んで、仲間内に回されている。それが紘伊の想像だった。
「大丈夫ですか? 鎮痛剤です」
案内係も日によって違うが対応は同じだ。出禁では? と聞くと、昨日の方は出禁にしましたよ、と言う。獣人族の管理はどうなっているのか。要は人の価値が低いのかと気づく。それはそうか。基本的な力が違う。獣人カフェにいる可愛い獣人ばかりではないのだ。最初のライオンだってたまたま良識のある方だっただけで、爬虫類らのやり方の方が多いのかもしれない。紘伊の夢はライオン獣人だったけど、夢は夢、現実は程遠い。
久しぶりに待機部屋に行けたと思ったら、マサキとトオルはいなかった。適当に食事を取って席に着く。周りを観察したけど紘伊のように怪我をしている人は見当たらない。どうやら紘伊の客当たりが不運だったらしい。
奥に行ってクッションを抱いて寝転がる。
「ずいぶん酷い扱いだね」
隣にいたゲッソリ痩せた男に話しかけられた。それに苦笑で返す。
「でもまだマシだよ。初日にやり殺された話も聞くからね」
ゾッとする。
「マサキとトオルは?」
「アイツらは別格。獣人国は王政で貴族社会らしいよ。種族によるらしいけどさ、アイツらは身分の高いヤツに見初められて身請けされた。それが良い事かどうかは知らないけどね」
「そう……死んでないなら良い」
ホッとする。理不尽な暴力は身体も痛むが心が壊れる。全ての気力が削ぎ落とされる。
「あなたは?」
そう聞くと諦めた様に笑む。
「気が狂うまでここにいるんじゃない? そうなると破棄されるか獣人の餌になるって噂だ」
「……そうですか」
夢は夢のままで終えた方が良い。
変に現実逃避したせいで理不尽なめにあっている。
「帰れませんかね?」
そう紘伊が言うと笑われた。
「最初から帰る場所も探してくれる相手もいない奴を選んでいるだろ? 聞かれなかったか? 身内や親しい友人はいるかって。いないから連れて来られた。そうだろ?」
あれはそういう事かと気づく。賠償金請求先を聞かれたんじゃない。死んでも探されない人を狙っているのか。
「実は人間社会に獣人が混じっているって噂、聞いた事ないか?」
「……いえ」
そうだったらどんなに良かったか。別に獣人カフェに通う必要もなかった。
「獣人の文明って意外に高いらしくてよ、というか政府とかお偉方が協力しているっていう噂もあるが、見目を人に変えてひっそり監視しているらしいぜ?」
「……そんな、まさか」
「あんたも俺も、身近な誰かに売られた可能性がある。それが隠れ獣人って事だよ」
「隠れ獣人? まさか……」
乾いた笑いが漏れる。そんな筈はないと思いながら、やけに獣人に詳しかった友人を思い出す。大学の講師になってから知り合った友人だ。獣人について話しをしたのはいつだったか。彼の準備室で獣人に関する本を見つけた時、獣人に興味があるのかと聞き、興味があるのかと聞き返された時か。
質問に質問で返された。あの時は何も思わなかった。世の中には少数だが獣人好きもいる。
あれがトラップだとしたら? 無造作に置かれた獣人の本に興味を示した者の調査をする。その者が孤独だと分かると獣人カフェへ送る。獣人に人となりを見られて、何らかの基準でここへ捕えさせる。
「どうやら当たりらしいな」
彼にクックと笑われた。
では獣人国においての人の役割は? 身分の高い獣人が人を身請けする意味は? 聞いたら答えてくれるのだろうか。
「大丈夫ですか? 鎮痛剤です」
案内係も日によって違うが対応は同じだ。出禁では? と聞くと、昨日の方は出禁にしましたよ、と言う。獣人族の管理はどうなっているのか。要は人の価値が低いのかと気づく。それはそうか。基本的な力が違う。獣人カフェにいる可愛い獣人ばかりではないのだ。最初のライオンだってたまたま良識のある方だっただけで、爬虫類らのやり方の方が多いのかもしれない。紘伊の夢はライオン獣人だったけど、夢は夢、現実は程遠い。
久しぶりに待機部屋に行けたと思ったら、マサキとトオルはいなかった。適当に食事を取って席に着く。周りを観察したけど紘伊のように怪我をしている人は見当たらない。どうやら紘伊の客当たりが不運だったらしい。
奥に行ってクッションを抱いて寝転がる。
「ずいぶん酷い扱いだね」
隣にいたゲッソリ痩せた男に話しかけられた。それに苦笑で返す。
「でもまだマシだよ。初日にやり殺された話も聞くからね」
ゾッとする。
「マサキとトオルは?」
「アイツらは別格。獣人国は王政で貴族社会らしいよ。種族によるらしいけどさ、アイツらは身分の高いヤツに見初められて身請けされた。それが良い事かどうかは知らないけどね」
「そう……死んでないなら良い」
ホッとする。理不尽な暴力は身体も痛むが心が壊れる。全ての気力が削ぎ落とされる。
「あなたは?」
そう聞くと諦めた様に笑む。
「気が狂うまでここにいるんじゃない? そうなると破棄されるか獣人の餌になるって噂だ」
「……そうですか」
夢は夢のままで終えた方が良い。
変に現実逃避したせいで理不尽なめにあっている。
「帰れませんかね?」
そう紘伊が言うと笑われた。
「最初から帰る場所も探してくれる相手もいない奴を選んでいるだろ? 聞かれなかったか? 身内や親しい友人はいるかって。いないから連れて来られた。そうだろ?」
あれはそういう事かと気づく。賠償金請求先を聞かれたんじゃない。死んでも探されない人を狙っているのか。
「実は人間社会に獣人が混じっているって噂、聞いた事ないか?」
「……いえ」
そうだったらどんなに良かったか。別に獣人カフェに通う必要もなかった。
「獣人の文明って意外に高いらしくてよ、というか政府とかお偉方が協力しているっていう噂もあるが、見目を人に変えてひっそり監視しているらしいぜ?」
「……そんな、まさか」
「あんたも俺も、身近な誰かに売られた可能性がある。それが隠れ獣人って事だよ」
「隠れ獣人? まさか……」
乾いた笑いが漏れる。そんな筈はないと思いながら、やけに獣人に詳しかった友人を思い出す。大学の講師になってから知り合った友人だ。獣人について話しをしたのはいつだったか。彼の準備室で獣人に関する本を見つけた時、獣人に興味があるのかと聞き、興味があるのかと聞き返された時か。
質問に質問で返された。あの時は何も思わなかった。世の中には少数だが獣人好きもいる。
あれがトラップだとしたら? 無造作に置かれた獣人の本に興味を示した者の調査をする。その者が孤独だと分かると獣人カフェへ送る。獣人に人となりを見られて、何らかの基準でここへ捕えさせる。
「どうやら当たりらしいな」
彼にクックと笑われた。
では獣人国においての人の役割は? 身分の高い獣人が人を身請けする意味は? 聞いたら答えてくれるのだろうか。
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