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2 塾講師

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「せんせーまた服に毛がいっぱい付いてるよ?」

 古いビルの三階にある寂れた塾の講師が白石紘伊いらいしひろいの職業だ。

 元々は有名大学の講師をしていたが、やる気のない態度が上層部の目についたらしく、学生からの評判は良かったのになぁと思うけど、簡単に首を切られた。表向きの理由は学生減少による人員削減。その実ただの嫌われ者だ。

「コロコロしたけどな~」

「せんせーんところペット不可のやっすーいマンションでしょ? どこで毛~付けて来るの?」

 学生は情報に長けているなと思いながら曖昧に笑む。

「公園のベンチだよ」

「うそだ~」

 女子高生は香水と化粧くさい。それが良いと言う男もいるが、紘伊は毛嫌いしている。最も対象が男だから、女が苦手だというのが根本にある。残念ながら女受けは悪くないが、男受けはすこぶる悪い。女子高生には軽い遊び上手だと映るらしく、塾講の高給取りっていうのも加味してかモテる。家バレしてるからマンション下で待たれた経験も数知れず。これが男子高生なら手は出さないまでも鼻の下くらいは伸ばすのになぁと思うのに。

「時間だよ、教室行って」

 シッシと蹴散らすと、隣の席の保科純也ほしなじゅんやが笑っている。

「相変わらずモテますね」

「乳臭いガキにモテてもねえ。それにあいつらは金ズルだし?」

 ニヤッと笑って見せたら興味を失せられた。どういうことだよ? ノッて来てくれよ。保科の容姿は割とタイプだ。この世に獣人という存在がなければ口説きのひとつくらいしたかもしれない。

 さっさと部屋を出て行く保科の背中を見送ってため息を吐く。

「あーあ、なんで日常に獣人はいないんだろうね? 普通に出会って口説きたいよ」

 教材を持って席を立ち、ため息混じりに言うと、通りかかった塾長に冷ややかな視線を向けられた。

 おっといけない。またクビになったら面倒だ。

「なんてね~冗談ですよ、冗談」

 大げさに笑って見せて、不信感たっぷりの塾長の視線から逃れた。

 獣人は日常にいない。
 獣人がこの世界に紛れ込んで来たのは、僅かに100年前だという。詳しくは解明されていないが、獣人の世界がどこかにあって、そことこの世界がどこかで繋がっているらしい。一般に明かされているのはここまでで、お偉いさんは事情を把握しているのだろうが、一般人には探りようもない。インターネット上に溢れる情報には嘘が多い。ごくたまにある獣人と触れ合える店は、獣人が外貨を稼ぐ為らしいという噂で、紘伊が知るのはあの添い寝店1店舗のみだ。

 獣人と触れ合ったのは、あの添い寝店に行った週2で8回。初めては黒猫の獣人を選んで30分間、隙間を空けて寝転んで、大人しく目を閉じていた。次は茶色い毛並みの犬の子で、手を繋いで寝てもらった。次の子はウサギの子で、寝ながら会話をしてもらった。次の子はキツネの子で、可愛らしく微笑む所と恥じらう仕草が可愛くて気に入った。次からの4回はキツネの子を指名して、指名料が500円かかるようになった。

 キツネの子は可愛いし毛並みが綺麗で、首筋から獣臭がして興奮する。熱い股間を押し付けるなんて違反行為だが、毎回指名していてそれ以上はしないと分かってくれているからか我慢して付き合ってくれている。いつも身請けしたいとねだるのだけどスルーされる。獣人と暮らす方法など知りもしないし、どうせ違法なのだろうけど。
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