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21 匂いでわかるって悔しいよ
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「ただいま」
って、明るく言ったのに、店の中がザワってなった。
「ユートおいで」
エルゼさんに手を引かれる。厨房の奥の準備室に連れて行かれて、奥で水を浴びるように言われた。
「ユート、どうする? 成人を迎えてから店に出るの、怖くない?」
わかった。
体にさっきの獣人のにおいが付いていて、店にいた獣人全員に、さっきあったことが知れ渡ったんだ。
恥ずかしいし、悔しいし、でもどうにも出来ない現実だった。
「怖いよ……でも、働かないと生きて行けないし、オレは人族で、それはもう、変えられないから」
水を浴びて、タオルを腰に巻いて、エルゼさんの前に立つ。
「背中と腕に痕がついているわね。匂いは薄くなったけど、まだわかるの。同じ獣人として最低だと思うわ」
エルゼさんに抱きしめられる。
ごめんねって言われて、驚く。
エルゼさんは悪くない。むしろオレが迷惑を掛けている。
「裏口から部屋へ上がりなさい。部屋に鍵をかけて。明日からのことは、マスターと相談しておくから」
「はい、ご迷惑をかけてすみません」
「いいえ、私が悪いのよ。ユートを買い物に行かせるなんて迂闊だった。ごめんなさい」
ううんって首を振って、脱いだ服を持って、裏口から部屋に戻った。
戻って、忘れていた。
「ユート?」
部屋にはウォルさんがいる。
新年を迎える行事を見る為、観光客が来ていて、部屋がいっぱいになり、またウォルさんはオレの部屋に来ていた。
「あ、ごめんね。すぐ服着るね」
棚から服を取り出していると、背中からウォルさんに抱きしめられた。
「ウォルさん?」
ビクって体が震えた。
さっき壁に押し付けられた感覚が戻って来る。
「ごめん、ウォルさん、離してくれる?」
「震えてる。どうして?」
「どうしてって、獣人は匂いでわかるんだろ? オレが何されたか、なんで震えるのか、わかってて———」
肩にキスされる。舐められて、噛まれる。犬歯が刺さって、血が出る。それも舐められてる。
笑いが起こる。冷めた笑いだ。人族の男には、勝手に何をしても良いってこと?
「ウォルさん、離して」
「嫌だよ」
こっちの方が嫌だと言っている。抱きしめられていたら、服も着られない。
この1年で、少し背が伸びた。
力仕事を手伝うこともあるから、腕と胸に筋肉がついて、腹筋も割れた。腰も引き締まって、子どもっぽさが少しだけ抜けた。でも獣人を相手にしたら、力なんて子どもと同じだ。
「ウォルさんも、オレを好きに扱うの? あと少し、7時間くらい? そうしたら好きにしても咎められないからね」
「本気でそう思うの?」
体を返されて、至近距離で目を見られた。思わず逸らす。本心じゃない。ウォルさんは絶対にそんなことをしない。そういう気持ちがあるから、逆のことが言える。甘えている。恥ずかしい。
「ごめんなさい」
オレからウォルさんに抱きついた。人型のウォルさんはもふもふじゃないけど、優しさが伝わって来る。
「ユートはどうしたい?」
「どうって?」
服が着たい。でもきっと違う問い。
「7時間後、俺に抱かれる覚悟はある?」
聞き間違いかと思った。
真っ赤になる。
途端に動悸が激しくなって、狼狽えた。
ウォルさんがフッて笑う。
からかっているのか? って思って睨んだら、口にチュッてされた。
「裸で部屋に入って来るなんて、ユートは迂闊すぎる」
「忘れてたんだよ!」
また笑われて、キスされた。今度は少しだけ長く。
「7時間、話をしよう」
「7時間も?」
「あっという間だよ」
耳元で言われて、ゾクッてする。
でもあの時のような嫌悪感はない。
ウォルさんが離れて行って、ベッドに座ったから、素早く服を着て、ベッドの向かいに置いてある、丸椅子に座った。
って、明るく言ったのに、店の中がザワってなった。
「ユートおいで」
エルゼさんに手を引かれる。厨房の奥の準備室に連れて行かれて、奥で水を浴びるように言われた。
「ユート、どうする? 成人を迎えてから店に出るの、怖くない?」
わかった。
体にさっきの獣人のにおいが付いていて、店にいた獣人全員に、さっきあったことが知れ渡ったんだ。
恥ずかしいし、悔しいし、でもどうにも出来ない現実だった。
「怖いよ……でも、働かないと生きて行けないし、オレは人族で、それはもう、変えられないから」
水を浴びて、タオルを腰に巻いて、エルゼさんの前に立つ。
「背中と腕に痕がついているわね。匂いは薄くなったけど、まだわかるの。同じ獣人として最低だと思うわ」
エルゼさんに抱きしめられる。
ごめんねって言われて、驚く。
エルゼさんは悪くない。むしろオレが迷惑を掛けている。
「裏口から部屋へ上がりなさい。部屋に鍵をかけて。明日からのことは、マスターと相談しておくから」
「はい、ご迷惑をかけてすみません」
「いいえ、私が悪いのよ。ユートを買い物に行かせるなんて迂闊だった。ごめんなさい」
ううんって首を振って、脱いだ服を持って、裏口から部屋に戻った。
戻って、忘れていた。
「ユート?」
部屋にはウォルさんがいる。
新年を迎える行事を見る為、観光客が来ていて、部屋がいっぱいになり、またウォルさんはオレの部屋に来ていた。
「あ、ごめんね。すぐ服着るね」
棚から服を取り出していると、背中からウォルさんに抱きしめられた。
「ウォルさん?」
ビクって体が震えた。
さっき壁に押し付けられた感覚が戻って来る。
「ごめん、ウォルさん、離してくれる?」
「震えてる。どうして?」
「どうしてって、獣人は匂いでわかるんだろ? オレが何されたか、なんで震えるのか、わかってて———」
肩にキスされる。舐められて、噛まれる。犬歯が刺さって、血が出る。それも舐められてる。
笑いが起こる。冷めた笑いだ。人族の男には、勝手に何をしても良いってこと?
「ウォルさん、離して」
「嫌だよ」
こっちの方が嫌だと言っている。抱きしめられていたら、服も着られない。
この1年で、少し背が伸びた。
力仕事を手伝うこともあるから、腕と胸に筋肉がついて、腹筋も割れた。腰も引き締まって、子どもっぽさが少しだけ抜けた。でも獣人を相手にしたら、力なんて子どもと同じだ。
「ウォルさんも、オレを好きに扱うの? あと少し、7時間くらい? そうしたら好きにしても咎められないからね」
「本気でそう思うの?」
体を返されて、至近距離で目を見られた。思わず逸らす。本心じゃない。ウォルさんは絶対にそんなことをしない。そういう気持ちがあるから、逆のことが言える。甘えている。恥ずかしい。
「ごめんなさい」
オレからウォルさんに抱きついた。人型のウォルさんはもふもふじゃないけど、優しさが伝わって来る。
「ユートはどうしたい?」
「どうって?」
服が着たい。でもきっと違う問い。
「7時間後、俺に抱かれる覚悟はある?」
聞き間違いかと思った。
真っ赤になる。
途端に動悸が激しくなって、狼狽えた。
ウォルさんがフッて笑う。
からかっているのか? って思って睨んだら、口にチュッてされた。
「裸で部屋に入って来るなんて、ユートは迂闊すぎる」
「忘れてたんだよ!」
また笑われて、キスされた。今度は少しだけ長く。
「7時間、話をしよう」
「7時間も?」
「あっという間だよ」
耳元で言われて、ゾクッてする。
でもあの時のような嫌悪感はない。
ウォルさんが離れて行って、ベッドに座ったから、素早く服を着て、ベッドの向かいに置いてある、丸椅子に座った。
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