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本編
15 転生の理由
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国境の門を初めて見た。身近な物に例えると、万里の長城だろうか。石を組んだ高い塀が続き、等間隔に柱があり、柱の中は階段で、その上は見張り台になっている。
アイザックの領に近い東門は、現在、通行の制限がされていて、大門は閉じられている。戦時下にあるから仕方がない。アイザックの領は東門に一番近い。隣の領はもう少し行った、といっても馬車で30分はかかる距離にあるのだけど、そこの方が街が発展していて、宿や飲食店がたくさんあるから人気らしく、旅人は隣の領を目指して通り過ぎるから、アイザックの領に入るのは、本当に何かに困っている人か、逃げて来た子だけらしい。
アイザックの領は小さい。日本で言ったら町くらいだろう。領民は5000人ほど。あとは他領から働きに来ている人と孤児がいる。
でも敷地は広い。畑にはいろんな野菜と葡萄。牧草地には羊と牛と馬がいる。
領の門に近づくと、見張り台にいた人がアイザックに向けて手を振っている。アイザックも大きく手を振り、笑っている。門は何も言わなくても開いて、俺たちをすんなり通してくれた。
領に入るとすぐに商業施設と宿が並んでいる。みんなレンガで出来た建物で、一応、外からのお客様を迎え入れる為の施設らしいが、ほとんどの店が閉まっている。戦時下であるからなのか、いつもなのか。
くねくねした道を行くと、中央に大きな建物がある。そこが中央城で、前面は様々な手続きをする役所みたいな役割をしていて、中央に噴水のある庭があり、入場規制をする柵の奥が領主家族の住まいだ。
さらに奥に行くと、孤児院があり、その奥、領の反対側に農地と牧草地、それに関わる建物がある。
アイザックは中央城の裏側に馬車を停め、馬を従者に任せていたが、シュヴァルツは誰にも触れさせず、自分から勝手に牧草地へ駆けて行った。ちゃんと人を避けて行くんだけど、領民は馬が走って行くことに驚いているのではなく、黒い馬に驚いていた。やっぱり馬も黒が綺麗で、貴重な存在らしい。
それに関しては俺も同じ。馬車の荷台にいたのだけど、アイザックの手を取って降りた瞬間、周りの動きが止まった。アイザックは領主の息子だから、領民が集まって「おかえり」って、ムードだったのに、明るい声がしーんってなって、俺の周りに空間が空いた。
アイザックは俺を見て苦笑いをすると、とにかくまずは領主に挨拶だと言って、中央城の中へ入った。
領民はすごく明るく普通の生活をしていたけど、中央城へ入ったら空気が変わった。みんな真剣な顔をして忙しそうに仕事をしている。本当に市役所っていった感じ。
「アイク、おかえり」
仕事をしている人たちの間から、ひとりの男性がこちらに来る。
「リヒト、ただいま。おやじは?」
「上にいるけど、それよりおまえさ、中央区の話、聞いてるか?」
リヒトと呼ばれた人は、俺なんていないというように、アイザックに近づき、真剣な顔で話し始めた。アイザックもまた、真剣に話し始めたけど、中央区というのは王城と神殿のある場所のことだとわかるから、俺はアイザックから少し下がったところで話を聞いてた。
「自治領から獣が出て行ったから、最終局面なんだろうといった程度だが?」
「各領に自治領の人と獣が現れている。どんな基準かわからないが、殺害されて食われる領主も出ているらしい」
「それは本当か?」
俺は話を聞いて、思わず想像して気分が悪くなる。現実なのか? あの獣たちが? 俺を連れに来ると言ったあの人が?
「王もすでに殺害されているという噂だ。この国は自治領に食われた。ウチもそのうち食われる」
「にしてはずいぶん平和な光景を通って来たが?」
領民は何も知らないのだろう。徹底して秘密にしている。その代わり、中央城の中は情報を得る為に動き、情報を整理し、今後の対策を練っているのだろう。
「うちの領が獣に対抗できると思うか? 隣の領だって一瞬だったと聞いたが、領民や家畜には手を出さなかったと聞いたからな、殺害されるのは領主とその家族だけらしい」
リヒトは渋い顔だ。でもそこに恐怖は見えない。
「とりあえず、ちびたちは避難させた。いくらなんでもちび達に咎はないからな。俺とお前と領主だけで許してもらおうっていう結論だ、覚悟を決めておいてくれ」
「簡単に言うなぁ」
アイザックは大きくため息を吐いて額に手を置く。俺は怖くなってアイザックの腕に掴まった。アイザックが俺の頭をガシガシ撫でる。大丈夫だって言うように。
「おい、その可愛いの、なに?」
リヒトが今気づいたっていう表情で言った。
「シン、リヒトは俺の長兄だ。父のところにも案内する」
「シンです。しばらくお世話になります」
「は? しばらく? ずっと俺といるんだろ?」
アイザックに肩を組まれる。それはそうなんだけど、本当にそうできるのかわからないから避けたのに。
「アイクの恋人か? そんな貴重種の美人、どこで見つけて来たんだ?」
「驚くのはまだ早いと思うぜ? なにせ牧場に王の馬がいる。シンの愛馬だ」
アイザックはなぜか得意げにそう言った。
「は? 幻の馬だろ? それがなんでウチの領に? 見て来る」
リヒトは俺なんかよりもシュヴァルツによっぽど興味があるのだろう。すごい勢いで外に出て行った。
俺はアイザックと一緒に二階へ行く。階段の感じは学校のようだ。15段ほど上がって踊り場があり、反対側にまた15段といった造りで、あがってすぐに二枚の大きな扉があった。その前には警備員が立っていて、すでにアイザックが帰っている報告がなされていたのだろう。行けば歩調に合わせて扉が開かれた。
「おかえり、アイク」
大きな窓から日差しが入っていて、声の主は逆光になっていて良く見えない。でも声はアイザックと似ているなと思った。
「ただいま、遅くなってすみません」
アイザックは俺を領主の近くまで案内して、領主とハグをしている。それから俺をソファに座らせて、隣にアイザック、向かいに領主という位置で座った。
「情報は?」
と、アイザックが言うと、領主は渋い顔になる。領主は本当にアイザックと似ている。少し小柄にして、髪の色を薄くした感じだ。
「王と領主を粛正し、自治領が国を乗っ取っている」
「それは事実か?」
ふたりは身を乗り出し、小声で話している。とても重い話だし、恐ろしい。
「おまえはこれの理由を知りはしないか?」
領主は現状を把握はしているが、それがなぜ起こったのかまでは知らないらしい。
アイザックは考えている。それは知っているが、話して良いものかどうかを思案しているのだろう。アイザックが俺を見た。俺はアイザックを見て、俺に関することなのかと思う。
「話して」
俺はアイザックの腕に触れ、アイザックを見た。アイザックと視線を合わせる。もうここまで来たら、何もかも知らなければいけないと思う。とても辛い話だとしても、恐ろしい話だとしても。
「奴隷制度が問題なのだろう」
アイザックが絞り出すようにそう言った。
「奴隷制度? 我が国は5年前、自治領との協定時に廃止したはずだが?」
「良かった」
アイザックはホッとした表情で言う。領主は、何が? といった表情だ。
「おやじが知らないということは、おやじは関わっていないということだろ? まぁそれはわかっていたんだけどな」
「まさか、水面下で奴隷制度が横行していたというのか?」
「水面下じゃねえよ、王が主犯だからな。いや、俺も噂だけで事実とは思いたくなかったが、事実、王が殺害されたというのなら、そういうことかという程度だが。殺害された領主も関わっていたのだろう。なにせこの反乱の首謀者は副神殿長だ」
アイザックが俺を見る。何があるのかとアイザックを見ると、アイザックは俺の髪を指ですく。
領主はアイザックの行動を見て、納得したように頷いた。
「なに?」
「そうか、副神殿長も昔は黒髪黒い瞳の美形だった」
領主が言う。俺は驚いてアイザックを見る。
「そうなんだよ、シン。あの人もおまえと同じ場所から来ている。しかも奴隷制度のあるこの国で長く囚われ、拷問された過去がある」
「副神殿長が反乱を企てた理由はわかるが、なぜ自治領が出て来る。ブラッドが副神殿長の護衛をしているといっても、副神殿長に同調する理由がわからん」
領主は複雑な顔だ。アイザックは俺の肩を叩いた。
「シンが主な原因だ。シンは新たな奴隷として神殿長が呼び出した。副神殿長も前神殿長に呼ばれ、囚われたからな、これは決まりだろう。だが先にブラッドがシンを保護したことで事態が急変した。奴隷制度がまだ横行していることはブラッドも気づいていたが、シンを奴隷にしようとしていたことを知り、我慢の限界を超えたんだろう。なにせシンはブラッドにとって特別な存在だ」
神殿長には会ったことがないけど、異世界転生の理由を知った。本当に奴隷にしようとしていたのだ。でももう良い。俺はここで生きて行かなければならない。もう戻れないことは理解している。副神殿長が反乱を起こした理由が、奴隷の開放だとしたら、やり方は恐ろしすぎるけど、理解はできる。副神殿長の苦しみも。
「だが、獣がここに来るのは避けられない。襲いに来るのか、迎えに来るのか、それはわからねえけど、シンがここにいる。それは確実だ」
「俺、やっぱり迷惑だ。領の外で待つよ?」
「いや、ここにいて欲しい」
そう言ったのは領主だ。
「どのみち我々は自治領の審判を受けなければならない。あなたがいれば、アイザックは助かるかもしれない。利用するようで申し訳ないが、できれば私の命ひとつで許して貰えないか、頼んでもらえないだろうか」
領主が胸に手を当て、懇願する。アイザックにはそんな意志はない。領主をひとり犠牲にして逃げる人ではないことを、俺はもう知っている。
「せめて、領民を驚かせるのは嫌だから、どこか別のところで待つっていうのはどう? 俺のタグを頼りに来るって言ってたから、できるよね?」
そう言うと、アイザックは笑ってくれる。
「おやじ、俺はおやじも兄貴も犠牲にしたくねえよ。俺ひとりで済むのなら、そうさせてもらう。なにせ俺はブラッドの敵になっているからな」
そんなつもりで言ったんじゃない。恐ろしいことを言わないで欲しい。俺は甘いんだろう。ぬくぬくと戦争のない国で暮らしていたから、危機が迫っていると言われても、遠い場所のことで、関りがないように思えてしまう。
「嫌だよ、アイザックは俺が守るよ」
すごく抱き着きたくなったけど、我慢した。
アイザックもたぶんそうだ。ソファに置いた手の小指が触れ合っている。それだけなのに熱を感じた。
アイザックの領に近い東門は、現在、通行の制限がされていて、大門は閉じられている。戦時下にあるから仕方がない。アイザックの領は東門に一番近い。隣の領はもう少し行った、といっても馬車で30分はかかる距離にあるのだけど、そこの方が街が発展していて、宿や飲食店がたくさんあるから人気らしく、旅人は隣の領を目指して通り過ぎるから、アイザックの領に入るのは、本当に何かに困っている人か、逃げて来た子だけらしい。
アイザックの領は小さい。日本で言ったら町くらいだろう。領民は5000人ほど。あとは他領から働きに来ている人と孤児がいる。
でも敷地は広い。畑にはいろんな野菜と葡萄。牧草地には羊と牛と馬がいる。
領の門に近づくと、見張り台にいた人がアイザックに向けて手を振っている。アイザックも大きく手を振り、笑っている。門は何も言わなくても開いて、俺たちをすんなり通してくれた。
領に入るとすぐに商業施設と宿が並んでいる。みんなレンガで出来た建物で、一応、外からのお客様を迎え入れる為の施設らしいが、ほとんどの店が閉まっている。戦時下であるからなのか、いつもなのか。
くねくねした道を行くと、中央に大きな建物がある。そこが中央城で、前面は様々な手続きをする役所みたいな役割をしていて、中央に噴水のある庭があり、入場規制をする柵の奥が領主家族の住まいだ。
さらに奥に行くと、孤児院があり、その奥、領の反対側に農地と牧草地、それに関わる建物がある。
アイザックは中央城の裏側に馬車を停め、馬を従者に任せていたが、シュヴァルツは誰にも触れさせず、自分から勝手に牧草地へ駆けて行った。ちゃんと人を避けて行くんだけど、領民は馬が走って行くことに驚いているのではなく、黒い馬に驚いていた。やっぱり馬も黒が綺麗で、貴重な存在らしい。
それに関しては俺も同じ。馬車の荷台にいたのだけど、アイザックの手を取って降りた瞬間、周りの動きが止まった。アイザックは領主の息子だから、領民が集まって「おかえり」って、ムードだったのに、明るい声がしーんってなって、俺の周りに空間が空いた。
アイザックは俺を見て苦笑いをすると、とにかくまずは領主に挨拶だと言って、中央城の中へ入った。
領民はすごく明るく普通の生活をしていたけど、中央城へ入ったら空気が変わった。みんな真剣な顔をして忙しそうに仕事をしている。本当に市役所っていった感じ。
「アイク、おかえり」
仕事をしている人たちの間から、ひとりの男性がこちらに来る。
「リヒト、ただいま。おやじは?」
「上にいるけど、それよりおまえさ、中央区の話、聞いてるか?」
リヒトと呼ばれた人は、俺なんていないというように、アイザックに近づき、真剣な顔で話し始めた。アイザックもまた、真剣に話し始めたけど、中央区というのは王城と神殿のある場所のことだとわかるから、俺はアイザックから少し下がったところで話を聞いてた。
「自治領から獣が出て行ったから、最終局面なんだろうといった程度だが?」
「各領に自治領の人と獣が現れている。どんな基準かわからないが、殺害されて食われる領主も出ているらしい」
「それは本当か?」
俺は話を聞いて、思わず想像して気分が悪くなる。現実なのか? あの獣たちが? 俺を連れに来ると言ったあの人が?
「王もすでに殺害されているという噂だ。この国は自治領に食われた。ウチもそのうち食われる」
「にしてはずいぶん平和な光景を通って来たが?」
領民は何も知らないのだろう。徹底して秘密にしている。その代わり、中央城の中は情報を得る為に動き、情報を整理し、今後の対策を練っているのだろう。
「うちの領が獣に対抗できると思うか? 隣の領だって一瞬だったと聞いたが、領民や家畜には手を出さなかったと聞いたからな、殺害されるのは領主とその家族だけらしい」
リヒトは渋い顔だ。でもそこに恐怖は見えない。
「とりあえず、ちびたちは避難させた。いくらなんでもちび達に咎はないからな。俺とお前と領主だけで許してもらおうっていう結論だ、覚悟を決めておいてくれ」
「簡単に言うなぁ」
アイザックは大きくため息を吐いて額に手を置く。俺は怖くなってアイザックの腕に掴まった。アイザックが俺の頭をガシガシ撫でる。大丈夫だって言うように。
「おい、その可愛いの、なに?」
リヒトが今気づいたっていう表情で言った。
「シン、リヒトは俺の長兄だ。父のところにも案内する」
「シンです。しばらくお世話になります」
「は? しばらく? ずっと俺といるんだろ?」
アイザックに肩を組まれる。それはそうなんだけど、本当にそうできるのかわからないから避けたのに。
「アイクの恋人か? そんな貴重種の美人、どこで見つけて来たんだ?」
「驚くのはまだ早いと思うぜ? なにせ牧場に王の馬がいる。シンの愛馬だ」
アイザックはなぜか得意げにそう言った。
「は? 幻の馬だろ? それがなんでウチの領に? 見て来る」
リヒトは俺なんかよりもシュヴァルツによっぽど興味があるのだろう。すごい勢いで外に出て行った。
俺はアイザックと一緒に二階へ行く。階段の感じは学校のようだ。15段ほど上がって踊り場があり、反対側にまた15段といった造りで、あがってすぐに二枚の大きな扉があった。その前には警備員が立っていて、すでにアイザックが帰っている報告がなされていたのだろう。行けば歩調に合わせて扉が開かれた。
「おかえり、アイク」
大きな窓から日差しが入っていて、声の主は逆光になっていて良く見えない。でも声はアイザックと似ているなと思った。
「ただいま、遅くなってすみません」
アイザックは俺を領主の近くまで案内して、領主とハグをしている。それから俺をソファに座らせて、隣にアイザック、向かいに領主という位置で座った。
「情報は?」
と、アイザックが言うと、領主は渋い顔になる。領主は本当にアイザックと似ている。少し小柄にして、髪の色を薄くした感じだ。
「王と領主を粛正し、自治領が国を乗っ取っている」
「それは事実か?」
ふたりは身を乗り出し、小声で話している。とても重い話だし、恐ろしい。
「おまえはこれの理由を知りはしないか?」
領主は現状を把握はしているが、それがなぜ起こったのかまでは知らないらしい。
アイザックは考えている。それは知っているが、話して良いものかどうかを思案しているのだろう。アイザックが俺を見た。俺はアイザックを見て、俺に関することなのかと思う。
「話して」
俺はアイザックの腕に触れ、アイザックを見た。アイザックと視線を合わせる。もうここまで来たら、何もかも知らなければいけないと思う。とても辛い話だとしても、恐ろしい話だとしても。
「奴隷制度が問題なのだろう」
アイザックが絞り出すようにそう言った。
「奴隷制度? 我が国は5年前、自治領との協定時に廃止したはずだが?」
「良かった」
アイザックはホッとした表情で言う。領主は、何が? といった表情だ。
「おやじが知らないということは、おやじは関わっていないということだろ? まぁそれはわかっていたんだけどな」
「まさか、水面下で奴隷制度が横行していたというのか?」
「水面下じゃねえよ、王が主犯だからな。いや、俺も噂だけで事実とは思いたくなかったが、事実、王が殺害されたというのなら、そういうことかという程度だが。殺害された領主も関わっていたのだろう。なにせこの反乱の首謀者は副神殿長だ」
アイザックが俺を見る。何があるのかとアイザックを見ると、アイザックは俺の髪を指ですく。
領主はアイザックの行動を見て、納得したように頷いた。
「なに?」
「そうか、副神殿長も昔は黒髪黒い瞳の美形だった」
領主が言う。俺は驚いてアイザックを見る。
「そうなんだよ、シン。あの人もおまえと同じ場所から来ている。しかも奴隷制度のあるこの国で長く囚われ、拷問された過去がある」
「副神殿長が反乱を企てた理由はわかるが、なぜ自治領が出て来る。ブラッドが副神殿長の護衛をしているといっても、副神殿長に同調する理由がわからん」
領主は複雑な顔だ。アイザックは俺の肩を叩いた。
「シンが主な原因だ。シンは新たな奴隷として神殿長が呼び出した。副神殿長も前神殿長に呼ばれ、囚われたからな、これは決まりだろう。だが先にブラッドがシンを保護したことで事態が急変した。奴隷制度がまだ横行していることはブラッドも気づいていたが、シンを奴隷にしようとしていたことを知り、我慢の限界を超えたんだろう。なにせシンはブラッドにとって特別な存在だ」
神殿長には会ったことがないけど、異世界転生の理由を知った。本当に奴隷にしようとしていたのだ。でももう良い。俺はここで生きて行かなければならない。もう戻れないことは理解している。副神殿長が反乱を起こした理由が、奴隷の開放だとしたら、やり方は恐ろしすぎるけど、理解はできる。副神殿長の苦しみも。
「だが、獣がここに来るのは避けられない。襲いに来るのか、迎えに来るのか、それはわからねえけど、シンがここにいる。それは確実だ」
「俺、やっぱり迷惑だ。領の外で待つよ?」
「いや、ここにいて欲しい」
そう言ったのは領主だ。
「どのみち我々は自治領の審判を受けなければならない。あなたがいれば、アイザックは助かるかもしれない。利用するようで申し訳ないが、できれば私の命ひとつで許して貰えないか、頼んでもらえないだろうか」
領主が胸に手を当て、懇願する。アイザックにはそんな意志はない。領主をひとり犠牲にして逃げる人ではないことを、俺はもう知っている。
「せめて、領民を驚かせるのは嫌だから、どこか別のところで待つっていうのはどう? 俺のタグを頼りに来るって言ってたから、できるよね?」
そう言うと、アイザックは笑ってくれる。
「おやじ、俺はおやじも兄貴も犠牲にしたくねえよ。俺ひとりで済むのなら、そうさせてもらう。なにせ俺はブラッドの敵になっているからな」
そんなつもりで言ったんじゃない。恐ろしいことを言わないで欲しい。俺は甘いんだろう。ぬくぬくと戦争のない国で暮らしていたから、危機が迫っていると言われても、遠い場所のことで、関りがないように思えてしまう。
「嫌だよ、アイザックは俺が守るよ」
すごく抱き着きたくなったけど、我慢した。
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