普通の男子高校生ですが異世界転生したらイケメンに口説かれてますが誰を選べば良いですか?

サクラギ

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本編

7 タグの付加

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 ゲイを隠して生きていくのは辛いと思っていたけど、気持ちの伴わないセックスがしたかった訳じゃない。
 このままだとアイザックにキスされる。抵抗しようと体を押すけど少しも距離を取ることができない。

「あー悪い。なんもしねえから。ちょっと確かめさせて」

 首筋に手を這わされて背中がゾクッとした。

「や、やだ」

「違うって」

 胸元からタグが引き出され、楕円の板部分がアイザックの手にある。

「おまえやっぱブラッドの物なんだな」

「え? ……保護先がそうなだけで」

「いやいや嘘はいけないね、誘われるような匂いと同時に薔薇の匂いがするんだよ、さっきから。完全におまえ、ブラッドの手に落ちてるだろ。これ、付けてる時にセックスできねえように付加がつけられているぜ? 知っているのか?」

 アイザックの手からタグを取り戻し、文字を読む。でも名前と保護人、保護先以外には何も書いていない。

「見てもわかんねえよ。お前に邪な気を起こして触れたヤツだけわかる仕組みだ。腹黒ブラッドは抜かりがねえな」

「……どういうことですか?」

 タグから視線をアイザックへと移す。驚いているのは俺だけで、アイザックは呆れた顔だ。

「言ってるままだけど? これを付けている時はセックスできねえんだよ。自分から外さねえとな」

 要するに俺の合意でなければセックスが出来ないということだ。それはとても合理的な付加の仕方だと思う。

 考えてみればブラッドとしたのはタグをもらう前だ。さらに考えてみたけど、セックスをしたい相手と出会ったら、自分からタグを外さなければならない。それってすっごく恥ずかしいんじゃ? やりたいですって宣言しないと出来ないのと、好き勝手に奪われるのとでは断絶恥ずかしい方がマシだけど。

「じゃあ、もしかして、黒髪黒い目でいても襲われる心配はない?」

 俺がぶつぶつ言っていると、アイザックが大きくため息を吐いた。みんな俺と話すとため息を吐く。

「セックスはできねえけど、監禁して従わせることはできるし、従わせたらそれ外させるのも簡単だろ。おまえ俺の手も振り払えねえし、弱いからな」

 アイザックの言葉を聞いてゾッとした。監禁と聞いて青ざめる。変な薬を使われたり、弱みを握られたり。タグを外したら元も子もない。

「髪色と目の色を変える薬を下さい!」

 アイザックに詰め寄り、胸に手を置いてアイザックを見上げた。

 肩を押され、ドアに押し付けられ、顎を上げさせられ、キスされる。驚く間もなく舌を入れられ、蹂躙された。

「ん、んんんっやぁあっ」

 ドンドンと胸を叩く。タグの効力は嘘なのか? 息を奪われ、頭が痺れる。

「悪い、おまえがあんまり可愛い顔して見上げるから、つい」

「ついって、タグの付加は? 嘘なんですか?」

 袖で唇を拭う。涙目でアイザックを睨めば、それもやべえと呟かれた。

「いや、嘘じゃねえよ。すっげえ抵抗して奪ったからな。どこまで耐えられるか挑戦したくなるぜ」

「やめてください。ここにもいられなくなる」

「ってことはやっぱりブラッドのヤツに奪われ済みってことかよ」

「っ違います、違いますよ」

「嘘つけ」

 アイザックの大きな手が頭を撫でる。犬にでもなった気分だ。

「ブラッドに狙われて落ちねえヤツはいねえから、しかもこんな上等品をヤツが手放すわけねえし」

「……嫌なんです」

「何が? アイツ下手だったか? 痛くされたとか?」

 発言を茶化されてまた睨む。今度は悪いって感じで困った表情だ。

「奥さんがいるんでしょ? そういうの、俺は嫌だから」

「あーなるほど、独り占めできねえからか」

「もういいです、帰ります」

「いやいや待て、薬いいのか? 必要なんだろ?」

 手を引かれ、体の位置を替えられる。アイザックは背でドアを塞ぐという位置に移動して、俺を逃さないようにした。

「ヤツはさ、存在が特殊なんだよ」

 ドアにもたれ、両手をポケットに突っ込んで、俺を見て皮肉に笑う。

「それ、クロードも言っていました」

 アイザックはドアから離れ、俺の手を引き、窓へ近づく。窓から見える景色は、月明かりに照らされた山の輪郭だ。

「ここから見える山とその向こう側がブラッドの自治領だ。ブラッドは領主で、5年前、この国の王女に見染められて婚姻した。だから王族の一員だが、実際はこの国の者じゃない。しかもこの婚姻は国と領との駆け引きに使われた」

「駆け引き?」

 言葉を繰り返すと、アイザックは俺を見て苦く笑う。

「ブラッドの領には獣がいる。この婚姻が決まる前は、山から獣が降りて来て、人や家畜を襲っていたんだ。昔はそれで揉めて戦争ってこともあったらしいが、ブラッドの代になってからは、ブラッドの施す結界が強くて、こちら側からの介入が出来なくなっていた。ウチは襲われ放題って訳だ」

 アイザックは手を広げて肩を竦める。

「でも今は違うんですよね?」

「婚姻による協定が結ばれた。ウチはブラッドに地位を与え、自治領を認める。定期的に餌を提供するから、ウチに獣を入れないっていう約束」

「ずいぶんブラッドが有利に思える」

 ブラッドは何一つ奪われていない。

「そうでもない。国民の命が最優先だろ? しかもブラッドは婚姻することで自由を奪われている。おまえに嫌われる原因だと知ったら、離縁して領に戻ると言い出しそうだ」

「ブラッドが特殊な存在っていうのはわかった。でもやっぱり奥さんのいる人とは付き合えない。愛人なんて絶対に嫌だ」

 俺は断言して窓に背を向ける。ドアを出て行こうとしたら、電子音が響いた。出て行こうとした所だったから驚いた。

 アイザックを見れば壁に付けられている電子版に話しかけていた。

「なに?」

『クロード様がおみえです』

「了解、そっち行く」

「クロード?」

 クロードが来たのなら用事は俺にだ。すぐにドアを開けて飛び出そうとした所をアイザックに止められる。

「頭隠せ」

 アイザックにタオルを手渡され、警備員がいることを思い出した。

 タオルを受け取り部屋を出て階段を降りる。後ろにアイザックが付いて来ている。棟を出るとクロードの馬車が停まっていて、その横にクロードが立っていた。

 ちなみに警備室にいるはずの警備員は2人とも入り口のドアに張り付いていて、クロードを見てソワソワしてた。格好いいとかつぶやいて。それを見たアイザックは手でシッシッて追い払って、国の騎士団は美形揃いで人気があるんだと教えてくれた。

「シン、居心地はどうですか? やって行けそうですか?」

 クロードはどうやら心配して見に来てくれたらしい。

「まだわからないけど、ありがとう。頑張るつもりだよ」

 って言ったら抱きしめられた。この国の人はスキンシップが激しい。

「ああ、すみません、つい」

「クロードおまえもか」

 後ろにいたアイザックが大きく嘆息する。

「シンは反則的に可愛いですからね。これはどうしたんです? っというより黒に戻ってますね。ブラッドの言う通りだ」

「ブラッド?」

 質問の内容より名前に反応してしまった。罰が悪い気持ちのまま、頬を見せる。

「フェイクで作ってもらった。痣があった方が良いって言われたから」

「そうですね、自衛は大切です」

 クロードはそう言いながら馬車のドアを開けて中から箱を取り出した。

「ブラッドにシンの行方を散々聞かれましたが、シンがブラッドから離れたいと言ったと伝えました。無理矢理探されても厄介ですので」

「うん、いいよ。もう会う気、ないから」

「それでこちらを預かったのです。今夜必要になるだろうと言うので、届けに来ました」

 クロードから箱を受け取り中を見ると、髪と瞳の色を変える薬剤と薔薇の花が一輪入っていた。血のような深紅の薔薇。ブラッドの香り。

「ありがとう。これが欲しくてアイザックのところに来てたんだ」

「そういう事ですか。こんな夜更けにアイザックと共に出て来るので、少し疑ってしまいました」

 クロードがそう言うと、アイザックが鼻で笑う。

「間違いではねえな。タグの付加が無きゃ呼び出しに応じられなかっただろうよ」

「付加ですか?」

 クロードは不思議そうな声を出す。

「おいおい、まさか知らねえのか? タグ製作は神殿の仕事だろ? っていうか初めからヤツの企みかよ」

 アイザックがそう言うと、クロードが考え込む。そうしてため息を吐いた。

「最初から神殿を利用しようとしたのでしょうね。身元のわからないシンを手に入れるだけなら、わざわざ神殿の保護などいらない。屋敷に監禁してしまえば良いのですから」

 俺はクロードの言葉を聞いて青ざめる。そういう可能性があったのだ。

「シンに神殿の保護を付ければ、タグが簡単に作成出来る。王族の肩書を使えば、タグに特殊な付加がつけられ、保護人になれば、怪しまれず手に入れられるってところか?」

 アイザックがそう言って笑う。低く暗い笑みだった。

「私達は良いように利用されたのですね」

「っていうか一瞬の計算だろ。腹黒ブラッド健在だな」

 アイザックとクロードがわかり合ったように頷く。

「すみませんシン。ブラッドをもっと疑うべきでした」

 クロードが謝っている。でも俺が悪いのだ。ブラッドの香りに、姿に、態度に、全てに惹かれて体を許してしまった。

「皆さんには感謝しています。ブラッドが悪いわけじゃない。ただ俺がここのやり方について行けないだけだから」

 受け取った箱を抱えて、努めて笑う。

「シン、覚えておけよ? 俺もクロードも貴族だ。一度の決まりが適応される」

「私を一緒にしないで下さい。私はパートナー一筋です」

 クロードは憤慨している。
 アイザックは俺との距離を詰め、手を伸ばし、俺の胸元を指で押す。そこは服の中のタグの位置だ。

「これ外してお願いしてくれても良いんだぜ?」

 かあっと頬が熱くなる。一度のルールの為にタグを外す気はない。

「絶対に外さないから大丈夫です! クロードありがとう。部屋に戻って鍵かけて、アイザックには近づかないから」

 クロードにお礼を言って踵を返す。早く髪と目の色を変えようと決める。好き勝手にされるのは嫌だ。しばらくここに慣れるまでは、目立たず静かに暮らしたい。
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