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 図書館を出て早足で歩く。でも思い出すと震えて足が止まる。でもひとりでいるのも怖い。だってさっきのアプリを利用していてこの辺りでONにしていた人は、さっきの俺に似たレイプ希望の人の着信を持っている。とすれば、また狙われてもおかしくない。

 世の中には変わった人がいる。あんな画像なんて当てにはならないから、少し似ているだけで間違われる事もある。社会勉強と言ったら聞こえは良いけど。二度と遭遇したくない。

「大丈夫か?」

 道の途中で立ち止まっていたら声をかけられて、驚いて顔を上げたら隼也だった。

「顔色が悪い……」

 マジマジと顔を見られたと思うと微妙な顔つきになる。なんだろうと思った瞬間、手首を掴まれた。思わず「痛っ」と声をあげたら、舌打ちをして手を離されて、肩を組まれて連れて行かれる。

「なに? どこへ行くの?」

「車あるから送って行く、帰るだけだろ?」

「そうだけど、何か用事があって来たんじゃないの?」

 図書館の向かいの駐車場に停まっている車の助手席に押し込まれた。運転席に回って隼也が乗り込んで来る。俺は車種に詳しくないけど、黒いスタイリッシュな形で、エンジン音が太くて低くて格好いい。

 たぶん駐車したばかりなんだろう。料金も掛からずに駐車場を出て行く。

「おまえさぁ、図書館に行ってたんじゃねえの?」

「行ってたよ。メールしたよね? すごく綺麗で静かな場所で気に入ったよ」

 そう言いながらゾクッとした。思わず右手で左の腕を掴む。震えるの知られたくなかったし、何も問われたくなかった。

「俺の家で良い?」

「え? なんで? 家に帰りたいけど」

「それでひとりで泣くのか?」

「え? なんで?」

 ギュッと腕を掴む。男に掴まれていた手首が赤くなっている。という事はもしかして押さえられていた顔も赤くなっているのかも。さっきは青ざめた顔色だったから気づかなかったけど。

「泣くな、今泣かれても抱きしめてやれねえだろ」

 え? と思って隼也を見る。いつの間にかサングラスをかけていてわかりにくいけど、テレたようなそぶりを見せている。勘違いだよね? 隼也は俺に興味なんてないよね? むしろ煩わしいって思ってて、ひとりだけ俺を佐倉って呼んでる。そこに距離を感じていたんだけど。

「どういう意味?」

 信号待ちになると手を取られた。

「さっきつかんだところ、痛かったか?」

 腕を見られる。赤い跡がついていて、明らかに手形だ。でも隼也のせいじゃない。でもそう言ったら誰? って話になってしまう。こわばる頬に動けと思いながら笑って見せた。

「なんでもないよ、大丈夫」

 信号がかわる。手を離されてホッとする。

「嫌でも俺の家に連れて行くから」

 低い声で言われて嫌だと言えなかった。この手首の痕の理由を追求されるのだろうか。なんて答えたら良いのだろう。人間違いで連れて行かれそうになっただけ? でも顔にも痕があったら? 顔に手形なんて尋常じゃないよね。どうした良いのかで思考がぐるぐる回る。
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