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「碧? 久しぶり、今良い?」

「うん、久しぶり、大丈夫だよ」

 久しぶりに聞く賢吾の声だ。一瞬にして高校の時の気分に変わる。

「玲に聞いた?」

「うん、夏季休暇中にこっちに来る話し? 聞いたけどいまいち意味がわかってないんだけど」

 玲は俺の為に賢吾と会って欲しいと言ったけど、その詳細を聞いていない。賢吾から本当に連絡があると思っていなかったから、深く追及もしなかった。

「玲に聞いてないの? あいつうちの大学で連ドラの撮影があるって知ってエキストラに応募したんだ。期間がちょうど夏季休暇中の数日で、部屋に泊めろって言うから、じゃあ俺はおまえの部屋に泊まるって事になって」

「こっちに来ても何もないよ? 玲がそっちに行くなら、そっちの方が行く場所たくさんあると思うけど」

 話を遮るように言ってしまった。シーンと話しに間が空く。思わずしまったと心の中で叫んだ。これでは来て欲しくないって言っているようなものだ。もっと上手く話すべきだったのに。

「おまえがいるだろ?」

「いるけど……そうだ、隼也もいるよ? いつ都合が良いか聞いておくから——」

「隼也はバイトとサッカーで忙しいって。家の手伝いもあるって言ってた」

「あーそうか……そうだったね」

 隼也の母方の家が老舗の鰻屋をやっている。繁盛期には毎年手伝いに行っていると聞いた事があった。

「なに? おまえ嫌なのかよ」

「ううん、そうじゃないよ、ちがうくて……」

「日程は玲に聞いておけよ? 楽しみにしてるから」

「うん、うん、わかった。俺も楽しみにしてるから、じゃあまた」

 OKしてしまった。押し切られてしまった。玲も隼也もいないのに、俺ひとりで賢吾と会うの不安でしかない。

 賢吾との通話が切れると、さっきまで見ていたアプリ画面に戻った。男達のプロフィールが載っている。友達募集とかセフレ希望とか、タチとかネコとかリバOKとか——爽やかと明るさが売りのような賢吾とは正反対の後ろ暗さ。アングラな気分が足元から這い上って来るようだ。

 ため息をつく。
 別に悪い事じゃない。少数派なだけでこんなにもたくさんの仲間がいるじゃないか。たかが一個人の好みの問題なだけで、たまたま周りにそういう人がいないだけだ。

 大学生になったら勇気を出して新しい一歩を踏み出そうと思っていたのに、踏み出す前の世界がまだ滞っている。

 俺の好みは明るくて優しくてみんなのリーダーになるような人で——でも実際にそういう人と一緒にいると、明るさに当てられて自分の暗い部分が浮き彫りになって、よりつらくなってしまう。

 理想と現実の狭間で膝を抱えて小さくなっている自分を想像して、落ち込んでしまった。
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