アプリで恋人探してみました

3 追跡アプリ

　講義室に入って窓側中央付近の席に座る。もちろん隣には玲がいる。ひとつ間の席を空けるルールになっているから、少しでも離れた距離が今は特に有難い。

　玲がこっちを見ていないのを隠れて確認して、起動させたままだったアプリの追跡機能をOFFにした。

　講義室内は講義時間10分前なので賑やかしい。昼休みの余韻を引きずっているのだろう。輪になって話している集団もいる。玲はあまり集団行動を好まない方だ。物腰が柔らかくてすらっとした美形なんだけど、言いたい事はハッキリ言う自分をちゃんと持っている人っていうのが俺の印象で、賢吾とは主に頭の良さそうな高度な会話をしていた印象だ。だから俺と行動を共にしているのも不思議なんだけど、俺としては話が弾まなくても会話が途切れても、なぜか玲にはあせったりしなくて良くて。俺には多くを期待していないからだろうなとも思うのだけど。

　通知を切ったついでに、さっきのエンカウント情報を見る。

　顔を隠した画像を載せている人もいれば、いくつか用意されているイラストを使用する人もいる。名前も人それぞれだけど本名だろうなと思うものは見た事がない。範囲は半径1キロだから大学構内と周辺だろうか。もちろん相手もアプリを入れていて、探す機能をONにしていなければダメだから、日中はほとんど繋がらない。だからあのタイミングのヒットは神様の嫌がらせかと思ってしまう。

　そういえばさっきの起動で何人とすれ違えたのか。気になってこっそりアプリを開けばプロフィールが並んでいる。こういう時アプリの信用度が落ちる。画面をスクロールできるくらいの数があるからだ。

　この大学と近辺とでは数が多すぎる。絶対、適当に範囲を広げていたり、サクラ(スタッフとかバイトとか)が混じっていたりするのだろう。

　それでも中には本物もいるかもしれないと画像を見ているけど、どれが本物かわからないし、後ろ姿や顔を隠した自撮り写真だって、大学内の人数から割り出すのは難しすぎる。そう思っていてもつい好みのタイプを探してしまう。

　好きなのは身長が高くて細身に見えて筋肉質で肩幅が広くて腰高で堂々と胸を張って明るい印象を持つ人。髪は長めが良くてふわふわしてて触り心地が良くて髭や体毛は薄い方が良いけど、全て処理済みは嫌だ。服装は爽やかでシンプルが良い——分かってる。全て理想であって現実とは程遠い。しかもそんな王子様が俺を選んでくれる、たとえ一晩の相手だって難しいって分かってる。

　スマホを置いて講義の用意をする。しながら周囲を観察するけどみんな自分の事に忙しそうで、こんな健全な場で煩悩に耽っていた俺のことなんて眼中にない。それは隣に座っている玲も同じ。玲に至っては耳にイアホンがあるから音楽を聴いているのだろう。少しリズムを取っている指先がなんだか玲らしくて良い。