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「アンリエッタ、ずっとボクの側にいてね」

 なんて口にする殿下は可愛らしかった。

 私がレインハルト王子殿下と初めてお会いしたのは、彼が八歳のときである。金色のふわふわとしている綿毛のような髪と、クリスタルのように輝く青い瞳、ふっくらとした頬にぷっくりとした唇は、一目見た時には「ここに天使がいる」と思ったほど。
 背中に羽根がついていないのか確認しようとしたら、くすりと笑われた。笑い方すら天使だった。

 私は騎士学校時代の成績と家柄によって、学校卒業後は騎士団に入団し、近衛騎士隊に配属された。大変、名誉なことである。
 と思っていた一か月後、異動の話があって、レインハルト王子殿下の専属騎士となった。

 専属騎士とはその名の通り、守るべき主一人と契約をする。つまり、何があっても命に代えてでもレインハルト殿下を守るのが私の使命となる。
 たとえ、この国の王を敵にしてもレインハルト殿下を守り、レインハルト殿下が悪だとわかっていても彼を守る。自分には白に見えても、彼が黒といえば白も黒になる。それが専属騎士というもの。

 そして今、私は彼によって寝台の上に押し倒されていた。

「アンリ。そんなに僕の側から離れたいのか?」

 熱がこもった目で見下ろされている。彼の身体の下から逃げたいのに、私の肩はしっかりと寝台に押さえつけられているため、逃げられない。
 仕事のために一つに結わえていた亜麻色の髪は解かれ、シーツの上に波を打って広がっていた。

「なあ。僕がどれだけこの日を待ったか、わかっているのか?」

 そう問われてもまったくわからない。
 なんでこんな状況になっているのかもさっぱりわからない。

 今日はレインハルト殿下の婚約者選びのパーティーがあった。ようするに、一対複数人のお見合いである。
 思えば、このパーティーが始まろうとしていたときから、彼の機嫌は悪かった。

『アンリ。お前はなぜそのような格好をしている?』
『私はレインハルト殿下の専属騎士ですから』

 いつもと同じように、それでも華やかな場に相応しいように、金の刺繍が施された白い騎士服を身に着けて、彼の側にいた。

 でも、今日はお見合いパーティー。私は邪魔にならないように、それでもレインハルト殿下を守ることができる場所で周囲に気を配っていたのだ。
 彼はあきらかに不満そうにしていたが、この場に集められたご令嬢たちは、レインハルト殿下にうっとりとしている。

 権力ある親を持つ幾人かの彼女たちはレインハルト殿下と踊り、私はその様子を見ながら、不審な輩や物がないかと気を張り巡らせる。
 たった数時間かもしれないけれど、ただ突っ立ているように見えるかもしれないこちらとしては、気の抜けない状況なのだ。

 レインハルト殿下も、なんとかお目当てのご令嬢たちと一通り時を過ごしたようで、パーティーはお開きとなった。

 はずなのに――。
 この展開。なんてこったい。
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