1 / 18
1.
しおりを挟む
「アンリエッタ、ずっとボクの側にいてね」
なんて口にする殿下は可愛らしかった。
私がレインハルト王子殿下と初めてお会いしたのは、彼が八歳のときである。金色のふわふわとしている綿毛のような髪と、クリスタルのように輝く青い瞳、ふっくらとした頬にぷっくりとした唇は、一目見た時には「ここに天使がいる」と思ったほど。
背中に羽根がついていないのか確認しようとしたら、くすりと笑われた。笑い方すら天使だった。
私は騎士学校時代の成績と家柄によって、学校卒業後は騎士団に入団し、近衛騎士隊に配属された。大変、名誉なことである。
と思っていた一か月後、異動の話があって、レインハルト王子殿下の専属騎士となった。
専属騎士とはその名の通り、守るべき主一人と契約をする。つまり、何があっても命に代えてでもレインハルト殿下を守るのが私の使命となる。
たとえ、この国の王を敵にしてもレインハルト殿下を守り、レインハルト殿下が悪だとわかっていても彼を守る。自分には白に見えても、彼が黒といえば白も黒になる。それが専属騎士というもの。
そして今、私は彼によって寝台の上に押し倒されていた。
「アンリ。そんなに僕の側から離れたいのか?」
熱がこもった目で見下ろされている。彼の身体の下から逃げたいのに、私の肩はしっかりと寝台に押さえつけられているため、逃げられない。
仕事のために一つに結わえていた亜麻色の髪は解かれ、シーツの上に波を打って広がっていた。
「なあ。僕がどれだけこの日を待ったか、わかっているのか?」
そう問われてもまったくわからない。
なんでこんな状況になっているのかもさっぱりわからない。
今日はレインハルト殿下の婚約者選びのパーティーがあった。ようするに、一対複数人のお見合いである。
思えば、このパーティーが始まろうとしていたときから、彼の機嫌は悪かった。
『アンリ。お前はなぜそのような格好をしている?』
『私はレインハルト殿下の専属騎士ですから』
いつもと同じように、それでも華やかな場に相応しいように、金の刺繍が施された白い騎士服を身に着けて、彼の側にいた。
でも、今日はお見合いパーティー。私は邪魔にならないように、それでもレインハルト殿下を守ることができる場所で周囲に気を配っていたのだ。
彼はあきらかに不満そうにしていたが、この場に集められたご令嬢たちは、レインハルト殿下にうっとりとしている。
権力ある親を持つ幾人かの彼女たちはレインハルト殿下と踊り、私はその様子を見ながら、不審な輩や物がないかと気を張り巡らせる。
たった数時間かもしれないけれど、ただ突っ立ているように見えるかもしれないこちらとしては、気の抜けない状況なのだ。
レインハルト殿下も、なんとかお目当てのご令嬢たちと一通り時を過ごしたようで、パーティーはお開きとなった。
はずなのに――。
この展開。なんてこったい。
なんて口にする殿下は可愛らしかった。
私がレインハルト王子殿下と初めてお会いしたのは、彼が八歳のときである。金色のふわふわとしている綿毛のような髪と、クリスタルのように輝く青い瞳、ふっくらとした頬にぷっくりとした唇は、一目見た時には「ここに天使がいる」と思ったほど。
背中に羽根がついていないのか確認しようとしたら、くすりと笑われた。笑い方すら天使だった。
私は騎士学校時代の成績と家柄によって、学校卒業後は騎士団に入団し、近衛騎士隊に配属された。大変、名誉なことである。
と思っていた一か月後、異動の話があって、レインハルト王子殿下の専属騎士となった。
専属騎士とはその名の通り、守るべき主一人と契約をする。つまり、何があっても命に代えてでもレインハルト殿下を守るのが私の使命となる。
たとえ、この国の王を敵にしてもレインハルト殿下を守り、レインハルト殿下が悪だとわかっていても彼を守る。自分には白に見えても、彼が黒といえば白も黒になる。それが専属騎士というもの。
そして今、私は彼によって寝台の上に押し倒されていた。
「アンリ。そんなに僕の側から離れたいのか?」
熱がこもった目で見下ろされている。彼の身体の下から逃げたいのに、私の肩はしっかりと寝台に押さえつけられているため、逃げられない。
仕事のために一つに結わえていた亜麻色の髪は解かれ、シーツの上に波を打って広がっていた。
「なあ。僕がどれだけこの日を待ったか、わかっているのか?」
そう問われてもまったくわからない。
なんでこんな状況になっているのかもさっぱりわからない。
今日はレインハルト殿下の婚約者選びのパーティーがあった。ようするに、一対複数人のお見合いである。
思えば、このパーティーが始まろうとしていたときから、彼の機嫌は悪かった。
『アンリ。お前はなぜそのような格好をしている?』
『私はレインハルト殿下の専属騎士ですから』
いつもと同じように、それでも華やかな場に相応しいように、金の刺繍が施された白い騎士服を身に着けて、彼の側にいた。
でも、今日はお見合いパーティー。私は邪魔にならないように、それでもレインハルト殿下を守ることができる場所で周囲に気を配っていたのだ。
彼はあきらかに不満そうにしていたが、この場に集められたご令嬢たちは、レインハルト殿下にうっとりとしている。
権力ある親を持つ幾人かの彼女たちはレインハルト殿下と踊り、私はその様子を見ながら、不審な輩や物がないかと気を張り巡らせる。
たった数時間かもしれないけれど、ただ突っ立ているように見えるかもしれないこちらとしては、気の抜けない状況なのだ。
レインハルト殿下も、なんとかお目当てのご令嬢たちと一通り時を過ごしたようで、パーティーはお開きとなった。
はずなのに――。
この展開。なんてこったい。
11
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます
スケキヨ
恋愛
媚薬を盛られたミアを救けてくれたのは学生時代からのライバルで公爵家の次男坊・リアムだった。ほっとしたのも束の間、なんと今度はリアムのほうが異国の王女に媚薬を盛られて絶体絶命!?
「弟を救けてやってくれないか?」――リアムの兄の策略で、発情したリアムと同じ部屋に閉じ込められてしまったミア。気が付くと、頬を上気させ目元を潤ませたリアムの顔がすぐそばにあって……!!
『媚薬を盛られた私をいろんな意味で救けてくれたのは、大嫌いなアイツでした』という作品の続編になります。前作は読んでいなくてもそんなに支障ありませんので、気楽にご覧ください。
・R18描写のある話には※を付けています。
・別サイトにも掲載しています。
〈短編版〉騎士団長との淫らな秘め事~箱入り王女は性的に目覚めてしまった~
二階堂まや
恋愛
王国の第三王女ルイーセは、女きょうだいばかりの環境で育ったせいで男が苦手であった。そんな彼女は王立騎士団長のウェンデと結婚するが、逞しく威風堂々とした風貌の彼ともどう接したら良いか分からず、遠慮のある関係が続いていた。
そんなある日、ルイーセは森に散歩に行き、ウェンデが放尿している姿を偶然目撃してしまう。そしてそれは、彼女にとって性の目覚めのきっかけとなってしまったのだった。
+性的に目覚めたヒロインを器の大きい旦那様(騎士団長)が全面協力して最終的にらぶえっちするというエロに振り切った作品なので、気軽にお楽しみいただければと思います。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
黒豹の騎士団長様に美味しく食べられました
Adria
恋愛
子供の時に傷を負った獣人であるリグニスを助けてから、彼は事あるごとにクリスティアーナに会いにきた。だが、人の姿の時は会ってくれない。
そのことに不満を感じ、ついにクリスティアーナは別れを切り出した。すると、豹のままの彼に押し倒されて――
イラスト:日室千種様(@ChiguHimu)
【R-18】嫁ぎ相手は氷の鬼畜王子と聞いていたのですが……?【完結】
千紘コウ
恋愛
公爵令嬢のブランシュはその性格の悪さから“冷血令嬢”と呼ばれている。そんなブランシュに縁談が届く。相手は“氷の鬼畜王子”との二つ名がある隣国の王太子フェリクス。
──S気の強い公爵令嬢が隣国のMっぽい鬼畜王子(疑惑)に嫁いでアレコレするけど勝てる気がしない話。
【注】女性主導でヒーローに乳○責めや自○強制、手○キする描写が2〜3話に集中しているので苦手な方はご自衛ください。挿入シーンは一瞬。
※4話以降ギャグコメディ調強め
※他サイトにも掲載(こちらに掲載の分は少しだけ加筆修正等しています)、全8話(後日談含む)
初めてのパーティプレイで魔導師様と修道士様に昼も夜も教え込まれる話
トリイチ
恋愛
新人魔法使いのエルフ娘、ミア。冒険者が集まる酒場で出会った魔導師ライデットと修道士ゼノスのパーティに誘われ加入することに。
ベテランのふたりに付いていくだけで精いっぱいのミアだったが、夜宿屋で高額の報酬を貰い喜びつつも戸惑う。
自分にはふたりに何のメリットなくも恩も返せてないと。
そんな時ゼノスから告げられる。
「…あるよ。ミアちゃんが俺たちに出来ること――」
pixiv、ムーンライトノベルズ、Fantia(続編有)にも投稿しております。
【https://fantia.jp/fanclubs/501495】
憧れだった騎士団長に特別な特訓を受ける女騎士ちゃんのお話
下菊みこと
恋愛
珍しく一切病んでないむっつりヒーロー。
流されるアホの子ヒロイン。
書きたいところだけ書いたSS。
ムーンライトノベルズ 様でも投稿しています。
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる