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【第三部】堅物騎士団長に溺愛されている変装令嬢は今日もその役を演じます

8.報告します

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 学院が休みの日は、第零騎士団の方へ足を運ぶ。よくよく考えたら、学院に通うか騎士団の方に行くかの毎日では、休みが無いのではないか、とエレオノーラは思う。
「久しぶりだな、レオン」

 第零騎士団諜報部長室に入ると、ダニエルが書類にペンを走らせているところだった。

「ダニエル部長、お茶でも淹れましょうか」

「ああ、頼む。そろそろ休憩したいと思っていたところだったんだ」

 カランと机の上にペンを転がして、ダニエルはソファの方へと移動してきた。エレオノーラはお茶を準備する。

「あれ、このお菓子はどうした?」
 ダニエルは見慣れないお茶菓子に反応した。

「あ、はい。お義母様からいただきました」

「そう。うまくいっているみたいで何よりだね」

 エレオノーラはカップをダニエルの前に置くと、彼の向かい側に座った。

「とりあえず、現在の報告書です」

「ありがとう。すでにいい子がいたのかな」

「そうですね。とりあえず、広報部候補生が一人、諜報部候補生が三人ってとこですかね」

「へぇ、諜報部に三人もね」

 ダニエルは一口お茶を飲むと、その報告書に目を通した。
 広報部候補生、ドロシー・ラワット。王立学院第二学年。生徒会役員兼新聞部部長。
「ああ、ラワット伯爵家の御令嬢か」

「ご存知でしたか?」

「まあね。フレディとまではいかないけれど、それなりに関係者は頭に叩き込んでいるつもりだ。人選としては悪くない」

「こちらがそのドロシーが所属する新聞部が作成した学院新聞になります」
 ダニエルは、空いている手でそれを受け取った。

「なんだ、フレッドのやつ。取材受けたのか」
 新聞を見ながら、ダニエルはつぶやいた。取材といっても、名前、生年月日、趣味、特技などが記載されているだけ。フレディのことだから、その辺は真面目に書いているのだろう。笑うポイントが一つも無い。

「そうなんですよね。フレッドお兄さまのことがその新聞に載っていまして、そして私もアンケートを書く羽目になりました」
 エレオノーラがそう言うと、ダニエルは幾枚かの新聞をめくって、妹の記事を探す。

「おい、エレン。なんだよ、特技が朗読って。お前の特技は回し蹴りだろ?」
 ダニエルは右手の親指と人差し指で零の形を作るとそれを二度ほど崩しながら、ぽんぽんと新聞を叩いた。

「そんなところで本当の私を晒してどうするんですか。可憐なお嬢様を演じておかないといけないですよね」

「なんだよ、可憐なお嬢様って」
 ダニエルのそれは聞かなかったことにしておこう。

 ちなみに、バーデールからの留学生のエレンの生年月日は、かなり適当な数字になっている。その辺を決めたのはダニエルだから、どのような法則があって決めたのかはわからない。とりあえず、学院上の書類は全てダニエル作だ。

「演じるも何も。ほとんど素だろ? フレッドから聞いている。しかもリガウン団長が好きなツインテールで」

 ツインテールまでバレている。それはけしてジルベルトからのリクエストなのではなく、気付くと勝手にパメラがそのように髪を結っているのだ。どう見ても、パメラの趣味だと思う。

「ええと、髪型の件はおいといて、ですね。フレッドお兄さまに見られていることなんて、全然気づいておりませんでした」

「ああ。フレッドも三日に一日は学院の方には行っているぞ? 気付いていないのか?」

 ええ、とエレオノーラは頷く。「フレッドお兄さまの授業は受けておりませんので」

「可哀そうなフレッド。学院でお前のことを見かけるたびに、家で嬉しそうに話をしてくれているのに。フレッドの一方的な片思いか。そういえば、エレン、演劇部に入ったんだって?」

「え、それもフレッドお兄さま情報ですか?」

「そうだ」

「私の学院生活だだ洩れじゃないですか」
 そこでエレオノーラは両手で顔を覆った。あの制服を着て、なぜかツインテールに赤いリボンという恰好で学院に通っているという事実だけでも恥ずかしいというのに。
「あ、そうだ」
 エレオノーラは、そこで思い出したかのように顔を上げる。

「相変わらず切り替えが早いな」

「その演劇部の部員から、諜報部候補生を三人推薦しておきました」

「どれ」
 ダニエルは学院新聞をテーブルの上に置き、報告書の続きに目を通す。
 諜報部候補生、クリス・トーレス。王立学院第二学年。演劇部部長
 諜報部候補生、キャシー・ミラー。王立学院第二学年。演劇部員。
 諜報部候補生、ジェイミ・タイラー。王立学院第二学年。演劇部員。

「このクリスは、トーレス侯爵家の御令息だな。あとはミラー子爵、タイラー子爵家の娘か。悪くない人選だな」

「さすがダンお兄さまです。そんなにすらすらと家柄が出てくるなんて」

「もしかしてエレン。知らないで付き合っていたのか?」

「はい」
 そんな自信満々で返事をされても困るのだが。
「学院の生徒であるエレンは留学生ですので、こちらのことはさっぱりわかっていません」

 ダニエルは苦笑を浮かべる。
「まあ、いい。引き続き頼む」

「承知いたしました」
 そこでエレオノーラはお茶を一口飲んだ。
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