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【第二部】堅物騎士団長と新婚の変装令嬢は今日もその役を演じます
13.パーティです
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視察の最終日はちょっとしたパーティが開かれる。招待客はこのバーデールの貴族が主。そこに、クラレンスも参加することになっていた。護衛の騎士が二人付き、ドミニクが通訳としてついたが、パーティであるためそれなりの恰好をさせられるらしい。
「めんどくさいなぁ」とドミニクが言っていたので「交代しましょうか?」とエレオノーラが提案したところ。
「そっちの方がめんどくさいから我慢する」と言われてしまった。
そしてこちらはパーティ会場へ向かう馬車の中。その馬車の中にはなぜかフレドリックとマリアの姿があった。
「緊張してる?」
フレドリックが尋ねると、マリアは「ええ、少しだけ」とはにかんで答える。
「こんなに素敵なドレスをありがとう」
「よく似合ってる」
フレドリックは膝の上で頬杖をつき、上目遣いでマリアを見た。出会ったときのような妖艶なマリアも素敵だが、こういったドレスに身を包んだマリアは、どこかの貴族令嬢にも見える。
声も落ち着いているし、仕草だって上品だ。間違いなく彼女のことを好む男性だっているはずだ。
静かに馬車が止まった。
「素敵なお嬢様、お手を」
フレドリックのエスコートで、マリアは会場へと向かった。
さて、護衛からはずれたジルベルトと通訳からはずれたエレオノーラ。誰の差し金かはわからなくはない、ドミニクだ。せっかくだから、パーティに参加してきてよ、という彼の軽い提案によって、ジルベルトは正装してエレオノーラもそれなりの恰好でパーティに参加していた。
「私が通訳を担当して、ドムお兄さまがパーティに参加してもよろしいのですよ」
エレオノーラが提案すると、それも却下。ドミニクがパーティに参加するとエスコートの相手がいないらしい。エレオノーラが参加すると、漏れなくジルベルトをつけることができるらしい。
それが、誰からの命令かは聞かないことにしておこう、とエレオノーラは思った。
パーティ参加、それはむしろ。
「ジル様の。このような格好は珍しいですね。とても素敵です。ちょっと得した気分です」
うふふ、とエレオノーラは笑みを浮かべた。
彼女が言う通りジルベルトの正装は珍しい。しかも、騎士団の式典用の正装ではない、一人の貴族としての正装だ。いつもはオールバックにしている髪型も、今日は前髪を少し垂らしている。一目見ただけでは、あのリガウン団長であるということに、団員たちも気付かないだろう。髪型一つで変わるものだ、と思う。
「今日は、騎士団としての参加ではないからな。その、エレンは相変わらずだな」
右手の人差し指で頬をかきながら、ジルベルトはまじまじとエレオノーラの恰好を見た。
彼が相変わらずと評した格好は、ドミニクから好みではないと言われてしまったあの格好。
「ええ。さすがに、エレオノーラとして参加するわけにもいきませんし、だからといってセレナというわけにもいきませんので。第三の人物になってみました。ですが、ドムお兄さまからは大不評です。ジル様は、この恰好、いかがですか?」
ジルベルトは中身がエレオノーラであればなんでもいい人なので、どうですかと言われても返答に困る。だが、やはり普段のエレオノーラの方が好きだ。
「そういった格好も似合うが、やはりそのままのエレンが好きだ」
「ですよね。ジル様ならそうおっしゃると思いました」
うふふと、エレオノーラはジルベルトを見上げた。よくわからないけど、なんか心がほわほわした。
「ところで、エレン。これは何のパーティか知っているか?」
「さあ? よくわかっておりません。ですが、うまく参加できたから、よかったのではないでしょうか」
「そうだな」
周囲には正装して、きらきらとした男女がたくさんいて、それなりに歓談に耽っている。
昨日、ドミニクから王都の外れの屋敷でパーティがあると聞き。なぜか招待状もあるよと言われ。さらに、二人ともその日のその時間は空いているよ、と言われ。なし崩し的に参加する羽目になってしまった。つまり、厳密にいえば潜入調査だった。
ドミニクの軽い言動や提案も、他の第一騎士団のメンバーがいるうえでの建前であり、そのドミニクの軽い提案を聞いていたジャックが「僕がセレナさんと参加したかったのに」と小さくぼやいていたのも記憶に新しい。残念ながら、ジャックはクラレンスの護衛についている。
結局、ドミニクのやる気のなさは、ジルベルトとエレオノーラを第一のメンバーに気付かれないように、こちらのパーティに参加させるための演技だった、ということだ。
広報部やめて、諜報部にくればいいのに、とエレオノーラは思い始めているのだが、当の本人は、それは絶対に嫌だと言っている。変装の才能もあるのにもったいない。
むしろ、広報部で仕事をしているドミニクの言動なんて、普段のドミニクからは想像ができない。諜報部の潜入班並みの演技力だ。
それを指摘したら「仕事だからね」と軽く言われた。
エレオノーラは給仕を呼び止め、飲み物をもらった。
「こうやって、ジル様とこのようなパーティに参加するのも、不思議な感じですね」
向こうの言葉で喋っているため、会話の内容には配慮していない。
「そうだな」
ジルベルトも目を細めて嬉しそうに頷いた。潜入調査でなければ、もう少し心から楽しむことができたことだろう。
そしてそんな二人を見つめている視線があった。しかも、複数。
「ジル様。ちょっと、その。お手洗いにいってきてもよろしいでしょうか」
知った仲、むしろ知り過ぎた仲であるため、配慮は無い。
「ああ。私はここで待っている」
エレオノーラがそのホールから出ていくと、彼女を追うように出ていく男の姿があった。どうやら、三人。
さて、どうすべきか。
ジルベルトは腕を組んだまま、その彼らの後姿を見送った。
「めんどくさいなぁ」とドミニクが言っていたので「交代しましょうか?」とエレオノーラが提案したところ。
「そっちの方がめんどくさいから我慢する」と言われてしまった。
そしてこちらはパーティ会場へ向かう馬車の中。その馬車の中にはなぜかフレドリックとマリアの姿があった。
「緊張してる?」
フレドリックが尋ねると、マリアは「ええ、少しだけ」とはにかんで答える。
「こんなに素敵なドレスをありがとう」
「よく似合ってる」
フレドリックは膝の上で頬杖をつき、上目遣いでマリアを見た。出会ったときのような妖艶なマリアも素敵だが、こういったドレスに身を包んだマリアは、どこかの貴族令嬢にも見える。
声も落ち着いているし、仕草だって上品だ。間違いなく彼女のことを好む男性だっているはずだ。
静かに馬車が止まった。
「素敵なお嬢様、お手を」
フレドリックのエスコートで、マリアは会場へと向かった。
さて、護衛からはずれたジルベルトと通訳からはずれたエレオノーラ。誰の差し金かはわからなくはない、ドミニクだ。せっかくだから、パーティに参加してきてよ、という彼の軽い提案によって、ジルベルトは正装してエレオノーラもそれなりの恰好でパーティに参加していた。
「私が通訳を担当して、ドムお兄さまがパーティに参加してもよろしいのですよ」
エレオノーラが提案すると、それも却下。ドミニクがパーティに参加するとエスコートの相手がいないらしい。エレオノーラが参加すると、漏れなくジルベルトをつけることができるらしい。
それが、誰からの命令かは聞かないことにしておこう、とエレオノーラは思った。
パーティ参加、それはむしろ。
「ジル様の。このような格好は珍しいですね。とても素敵です。ちょっと得した気分です」
うふふ、とエレオノーラは笑みを浮かべた。
彼女が言う通りジルベルトの正装は珍しい。しかも、騎士団の式典用の正装ではない、一人の貴族としての正装だ。いつもはオールバックにしている髪型も、今日は前髪を少し垂らしている。一目見ただけでは、あのリガウン団長であるということに、団員たちも気付かないだろう。髪型一つで変わるものだ、と思う。
「今日は、騎士団としての参加ではないからな。その、エレンは相変わらずだな」
右手の人差し指で頬をかきながら、ジルベルトはまじまじとエレオノーラの恰好を見た。
彼が相変わらずと評した格好は、ドミニクから好みではないと言われてしまったあの格好。
「ええ。さすがに、エレオノーラとして参加するわけにもいきませんし、だからといってセレナというわけにもいきませんので。第三の人物になってみました。ですが、ドムお兄さまからは大不評です。ジル様は、この恰好、いかがですか?」
ジルベルトは中身がエレオノーラであればなんでもいい人なので、どうですかと言われても返答に困る。だが、やはり普段のエレオノーラの方が好きだ。
「そういった格好も似合うが、やはりそのままのエレンが好きだ」
「ですよね。ジル様ならそうおっしゃると思いました」
うふふと、エレオノーラはジルベルトを見上げた。よくわからないけど、なんか心がほわほわした。
「ところで、エレン。これは何のパーティか知っているか?」
「さあ? よくわかっておりません。ですが、うまく参加できたから、よかったのではないでしょうか」
「そうだな」
周囲には正装して、きらきらとした男女がたくさんいて、それなりに歓談に耽っている。
昨日、ドミニクから王都の外れの屋敷でパーティがあると聞き。なぜか招待状もあるよと言われ。さらに、二人ともその日のその時間は空いているよ、と言われ。なし崩し的に参加する羽目になってしまった。つまり、厳密にいえば潜入調査だった。
ドミニクの軽い言動や提案も、他の第一騎士団のメンバーがいるうえでの建前であり、そのドミニクの軽い提案を聞いていたジャックが「僕がセレナさんと参加したかったのに」と小さくぼやいていたのも記憶に新しい。残念ながら、ジャックはクラレンスの護衛についている。
結局、ドミニクのやる気のなさは、ジルベルトとエレオノーラを第一のメンバーに気付かれないように、こちらのパーティに参加させるための演技だった、ということだ。
広報部やめて、諜報部にくればいいのに、とエレオノーラは思い始めているのだが、当の本人は、それは絶対に嫌だと言っている。変装の才能もあるのにもったいない。
むしろ、広報部で仕事をしているドミニクの言動なんて、普段のドミニクからは想像ができない。諜報部の潜入班並みの演技力だ。
それを指摘したら「仕事だからね」と軽く言われた。
エレオノーラは給仕を呼び止め、飲み物をもらった。
「こうやって、ジル様とこのようなパーティに参加するのも、不思議な感じですね」
向こうの言葉で喋っているため、会話の内容には配慮していない。
「そうだな」
ジルベルトも目を細めて嬉しそうに頷いた。潜入調査でなければ、もう少し心から楽しむことができたことだろう。
そしてそんな二人を見つめている視線があった。しかも、複数。
「ジル様。ちょっと、その。お手洗いにいってきてもよろしいでしょうか」
知った仲、むしろ知り過ぎた仲であるため、配慮は無い。
「ああ。私はここで待っている」
エレオノーラがそのホールから出ていくと、彼女を追うように出ていく男の姿があった。どうやら、三人。
さて、どうすべきか。
ジルベルトは腕を組んだまま、その彼らの後姿を見送った。
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