BでLなゲームに転生したモブ令嬢のはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

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39.結局スパダリと元腐女子ですか(5)

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 ジーニアが連れていかれた先は、クラレンスの寝室であった。落ち着いたダークブラウンで統一された室内。天蓋付きの寝台に、見るからにふかふかのソファ。
 だがそれらをジーニアが感じる術は無い。

「ジーニア嬢」
 寝台にゆっくりと仰向けに寝かせられたジーニアは、じっとクラレンスから見下ろされていた。もちろんジーニアは、それにすら気付かない。
 彼女は今、一人で真っ暗な世界にいる。聞こえるのは、クラレンスの物悲しい声。

 ――クラレンス様……。どうしてそんな悲しい声をしているのかしら。

 彼が悲しいから、ジーニアも悲しくなるし不安にもなる。できることならば、この手を伸ばして「大丈夫、怖くない」と伝えてあげたい。

「ジーニア嬢、泣いているのか?」

 ――泣いている? 私が? 一体、なぜ……。

 目尻に触れる体温を感じた。そしてそれがジーニアの心を勇気づけてくれる。

 ――クラレンス様の手だわ。

 クラシリクラシリと目の保養を求めていたジーニアであったが、三月みつきも彼と共に時間を過ごしていると、情が沸いてくるし、信頼関係も生まれてくる。
 むしろ、クラレンスという人物がジーニアの心の支えになっていたといっても過言ではない程に。さらに、目の保養のクラシリも忘れてはならない。

 ――結局。クラシリクラシリと叫んで、クラレンス様から逃げていただけなのよね……。

 ジーニア自身も、クラレンスに対して何かしら沸き起こる気持ちはあった。だが、彼はシリルのものであると、そう思っていたのだ。
 クラレンスを助けたのも、自分の命を守るため。クラシリのためだったはずなのに――。

「ジーニア嬢……。私の声は聞こえているのか? 君に、口づけをしてもいいだろうか……」

 クラレンスはいつだってジーニアを気遣ってくれた。ジーニアを気にかけてくれた。そして、誰よりも優しく触れてくる。
 ジーニアは認めたくなかった。ジーニア自身が、クラレンスに惹かれ始めていることを。
 だからこそ、クラシリクラシリで誤魔化していたのだ。

 彼の熱い吐息が頬に触れる。指が頬をなぞり上げ、顎をとらえた。唇に触れる柔らかい感触。

 ――もしかして私、クラレンス様と……。

 くちゅっと音を立てて、唇が解放された。

「ジーニア嬢……。どうか、私の名を呼んで……。その目に私を映して……」

 ――私もクラレンス様のお顔を見たい……。

 再び、唇を塞がれる。くちゅ、くちゅ、という淫らな音が聞こえてきた。ジーニアにとって誰かと触れ合あっている事実が、この暗闇の中で一人ではないことの証。

「んっ……、はぁ……」

 呼吸を求めるかのように、ジーニアの口が開く。恐らくクラレンスは気付いたのだろう。ぱっと唇が自由になった。

「ジ、ジーニア嬢……」

「クラレンス、さま……」
 絞るかのような弱弱しい声色で、ジーニアは彼の名を口にした。

 ――声が出た。身体はまだ重いけれど。

 ジーニアは瞼をゆっくりと開けようと力を込める。

「ジーニア嬢」

 ジーニアはやっと眩しい光を感じることができた。目の前にはクラレンスの端正でありながらも、切なそうな顔がある。

「クラレンス様……。ご迷惑を、おかけして、申し訳、ありません……」

「ジーニア嬢。私がわかるのか? 見えているのか? それに言葉も」

 まだ頷くことはできない。動かせるのは唇と視線のみ。「はい」と小さく答える。なぜにその二つが動くようになったのかジーニアはわからない。だけど、暗闇の世界から戻された安堵感は大きい。

「私はこれから君の呪いを解くために、君を抱く」

「はい……」

 怖いけれど、不思議と嫌だという気持ちは無かった。ただ、身体を動かせないことだけがもどかしい。
 微笑むクラレンスはどことなく苦しそうに見える。

「君に触れてもいいか?」

「はい」

 クラレンスの手が、胸元に伸びてきた。今ジーニアが着ているドレスも、彼が準備してくれたもの。
 だが、どうでもいいことにジーニアは気付いた。

 ――クラレンス様、ドレスを脱がせるのが上手なのでは……。

 クラレンスは、自由の利かないジーニアの身体を少しずつずらしながら、器用にドレスを脱がせていく。まるで着せ替え人形のようなジーニアであるが、これはこれで恥ずかしいし、鼓動が速くなってしまう。
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