BでLなゲームに転生したモブ令嬢のはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
上 下
33 / 46

33.それはメガネ攻めと健気受けですね(7)

しおりを挟む
 死の宣告をされてから五日が経った。ということは、残り五日。ジュードは毎朝、ジーニアの部屋を訪れる。そして顔色を確認し、矢がぷすっと刺さった箇所の傷口、いや、呪いの進行状況を確認してから、彼女に術をかけていく。呪いの症状を抑える術だ。
 だが、ジュードがやってくると、すぐにクラレンスもやってきて、なんともいたたまれない空気感が漂ってくる。この二人は仲が悪いのだろうか、とさえジーニアが思ってしまうほど。
 ジュードは、やるべきことを終えるとすぐさま部屋を出ていく。だが、このクラレンスが曲者だった。シリルが呼びに来るまで、ジーニアの部屋に居座っているという始末。本人が言うには、ここがシリルに邪魔をされずに唯一休める場所と口にするのだが、結局、最終的にはシリルに見つかってしまうため、その言葉の真偽は問い質したいところ。
 そして、死の宣告を受けているジーニアは、何をするわけでもなく部屋にいた。呪いが発動している状態で王城内をうろうろするな、というのがジュードの意見。そんな状態でうろうろしたら、他の魔導士たちが興味を持ってジーニアに群がってきてしまうから。それは人間的に魅力があって興味を持つのではなく、クラレンスを庇ったせいで変な呪いを受けてしまった女である、という興味。

 それでも、昼食後の時間、クラレンスが庭の散歩に誘い出してくれる。それが唯一のこの部屋から出る時間であり、手段である。恐らく、気が滅入らないように、という彼なりの心遣いのようだが、もう、ここまできてしまうとどうでもいい、というのがジーニアの本音でもある。つまり、投げやり。そもそも一回死んじゃってるしね、とさえ思えてきてしまうのが、投げやりの証拠。

「どうかしたのか?」
 ジーニアがぼんやりと庭園を歩いていると、クラレンスは辛そうに顔を歪めながらそう声をかけてくる。

「あ、いえ。どうもしません」

「そうか。このようなことしかできなくて、申し訳ないな」

「いえ。クラレンス様が気になさるようなことではございませんから」

 クラレンスが近くにいるからだろう。先ほどからちらちらと感じる視線は魔導士たちのものなのだが、ある一定の距離を保ったまま、それ以上ジーニアに近づこうとしないのは。

「それに。クラレンス様がいらっしゃらなかったら、私はあの部屋に閉じこもったままです。ジュード様がおっしゃっていたのですが、どうやら私、魔導士たちに狙われているようなんですよね」

 狙われている、という表現はいささか物騒であるが、間違いではないはず。

「狙われている、だと?」

「はい。皆さん、私の受けた呪いに興味津々と言いますか……」

「ああ、なるほどな。それは仕方ないな。それも含めて、申し訳ない」

 クラレンスは謝ってばかりだ。

「クラレンス様。何度も申し上げておりますが、もう謝るのはやめてください。なんか、それって私が可哀そうな女のように思えてならないのです。私、可愛そうではありませんから。自らの意思でクラレンス様をお守りすることができて、誇りに思っております」
 と、何度口にしたことだろうか。クラレンスが謝罪するたびに、そう言ってきたような気がするから、何度なのかもうわからない。

「そう、そうだな……すまな」
 と言いかけて、クラレンスはそこで口を噤んだ。恐らく、すまなかったと言いたかったのだろう。

「悪いがそろそろ時間だ。またあの口うるさいシリルが来たら、君と過ごしている穏やかな時間が全てぶち壊されてしまう」

 ――あれ? クラレンス様ってこういうキャラだったのかしら? もっとこう、シリル様とラブラブというか。そんな感じを期待していたのだけれど。

 先ほどからクラレンスの口から出てくるのは、シリルを疎ましく思っているような言葉ばかり。

 ――私としては、クラレンス様とシリル様の絡みを見ることができるだけで、もう充分なのだけれど。

 クラレンスに連れられて部屋に戻る途中、シリルに見つかってしまった。

「クラレンス様。早く執務にお戻りください」

「なんだ。食後の散歩も満足に楽しむこともできないのか」

「ジュード様が研究室にこもりっぱなしで、ジュード様の分の執務もたまっているのです。それをミック殿経由でジュード様に確認していただいたところ、全てクラレンス様の判断にお任せする、という回答をいただきました」

「あのヤロー」

 関係のないジーニアが聞いても、ジュードがクラレンスに仕事を丸投げしたということはわかる。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

悪役令嬢は追いかけられて囚われる。

入海月子
恋愛
侯爵令嬢のセフィリアは、濡衣で王太子から婚約破棄を命じられる。失意のうちに座り込んでいると、近衛騎士のラギリスが追いかけてきた。今までなんの接点もなかったのに、熱い瞳で見つめられて……。

当て馬令嬢からの転身

歪有 絵緖
恋愛
当て馬のように婚約破棄された令嬢、クラーラ。国内での幸せな結婚は絶望的だと思っていたら、父が見つけてきたのは獣人の国の貴族とのお見合いだった。そして出会ったヴィンツェンツは、見た目は大きな熊。けれど、クラーラはその声や見た目にきゅんときてしまう。    幸せを諦めようと思った令嬢が、国を出たことで幸せになれる話。 ムーンライトノベルズからの転載です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...