25 / 46
25.それはワンコ系攻めとツンデレ受けですね(7)
しおりを挟む
ジーニアが部屋に戻るまで付き添ってくれたのはグレアムだ。むしろ彼の隣にいるべき人間は自分ではないとジーニアは思っている。そんな彼の正当な相手であるジェレミーは今、ジーニアから聞いた話を報告書としてまとめているようだ。もちろん、ジーニアの名前は外部に漏れないようにして報告するらしい。
「ジーニア嬢、どうかされましたか? 傷口が痛みますか?」
ワンコ系攻めとツンデレ受けを考えていたジーニアであるが、隣にいる彼からツンは感じられなかった。もしかして、ジーニアがジェレミーの関係者だから、ツンな部分を隠しているのだろうか。むしろ、もっとツンツンしてくれても構わないのに、そして兄の前だけでデレてくれればいいのに、と、そんなくだらないことを考えていた矢先だった。
「あ、いえ。なんでもありません」
「そうですか。まだ、傷も治りきっていないのに、部屋から連れ出してしまって申し訳ありませんでした」
「いえ、グレアム様。大丈夫です。その、頭をあげてください」
突然立ち止まってピシッと腰から九十度に頭を下げたグレアムに、ジーニアは慌ててしまう。そのジーニアの動きはまるで小動物のよう。ふるふると手を振って、挙動不審な小動物。
「……っ」
そんな小動物のような動きのせいか、傷口が引き攣れた。
「ジーニア嬢、大丈夫ですか? やはり傷口が痛むのですね」
ジーニアの身体がふわりと浮いたような気がしたのは、グレアムが彼女の身体を持ち上げたから。乱暴に持ち上げたのではない。背中と太腿に手を入れて、優しくふわりと。いわゆる横抱きというもの。
「え、ええっ」
急に横抱きされてしまったジーニアとしては驚くことしかできない。しかも相手はあのグレアム。
「グレアム様。その、恥ずかしいのでおろしてください」
ジーニアが恥ずかしいと口をするにも理由がある。ここは人通りがある場所だから。そしてこの廊下を進み、突き当りを右へ、さらに進んで突き当りを左側に進めば、ジーニアが与えられた部屋で、その部屋の付近まで行けば人の行き交いも減るのだが。
「ですが。ジーニア嬢は怪我をされているし、今も痛む様子。無理をされては怪我の治りが遅くなります。そうなれば隊長も心配されるので。今はこうして私を頼ってください」
そんなツンデレ受けにそんな言葉をかけられて、断ることなどできるだろうか。いや、できない。できるわけがない。断ったら罰が当たるというもの。
「はい……」
消え入るような声で、恥ずかしそうにジーニアは返事をした。実際、本当に恥ずかしいのだ。抱かれながらも、ジーニアは顔を伏せるようにして頭をグレアムの胸元に預ける。それは不安定でそこに頭を預けなければ落ちそうになってしまうからであって、不可抗力であると思っていただきたい。そして、絶対に兄であるジェレミーには見られたくない、と。そう思っていた。
グレアムはジーニアを抱いたまま、廊下を進み、突き当りを右に曲がって、さらに進み、その突き当りで左へと曲がった。ここまで来れば人も少ない。グレアムの表情を確認するかのように、ジーニアは顔をあげた。
――やっぱり、かっこいいかも……。
「ジーニア嬢の部屋は、こちらで合っておりますか?」
部屋へと入る前に、グレアムは部屋の確認までしてくれた。はい、と俯きながらジーニアは答える。
グレアムはジーニアを抱きかかえたまま、器用に扉を開けて部屋へと入っていく。
「あ」
とグレアムが、気の抜けた声を出したのは、ジーニアの部屋のソファに一人の男が足を組んで腕を組んで座っていたからだ。
「クラレンス殿下……」
というグレアムの呟きで、クラレンスがそこにいたことにジーニアは気付く。
「どうかされましたか?」
「彼女を待っていた。私も、あのときの事件の話を聞きたいからな。ジェレミーに同席させて欲しいと頼んだら、騎士団以外は駄目だと断られてね」
「そうでしたか。こちらで聞いた話は、いくら殿下であっても、調査のために公にすることができないのです。申し訳ありません」
「ああ。それはジェレミーからも聞いている。だから、私が個人的に彼女から話を聞き出すつもりで待っていた。それは問題ないと、ジェレミーに言われたからな」
「なるほど」
「ところでグレアム。なぜ君は彼女を抱いているのだ?」
そこでクラレンスの右の眉尻がピクリと動いた。これに気付いた者は誰もいない。クラレンスでさえも。
「どうやら傷口が痛むようで。それでこちらまで連れてきました。ジーニア嬢、どちらにおろしましょうか?」
グレアムがにっこりと微笑みながら尋ねてくれるので、ジーニアはドキリと頬を赤くしてしまう。
「寝台の……」
上にと言いたかったのだが、それを遮ったのはクラレンスが答えたからだ。
「これから私が彼女から話を聞き出す。だから、私の隣におろせ」
「承知しました」
グレアムにとって、クラレンスの言葉は絶対だ。いくらそれが白くても彼が黒と言えば黒になるくらいに。だからクラレンスの隣にと言われれば、グレアムはそれに従うだけ。例え、ジーニアが嫌がっている素振りを見せたとしても。
「ジーニア嬢、どうかされましたか? 傷口が痛みますか?」
ワンコ系攻めとツンデレ受けを考えていたジーニアであるが、隣にいる彼からツンは感じられなかった。もしかして、ジーニアがジェレミーの関係者だから、ツンな部分を隠しているのだろうか。むしろ、もっとツンツンしてくれても構わないのに、そして兄の前だけでデレてくれればいいのに、と、そんなくだらないことを考えていた矢先だった。
「あ、いえ。なんでもありません」
「そうですか。まだ、傷も治りきっていないのに、部屋から連れ出してしまって申し訳ありませんでした」
「いえ、グレアム様。大丈夫です。その、頭をあげてください」
突然立ち止まってピシッと腰から九十度に頭を下げたグレアムに、ジーニアは慌ててしまう。そのジーニアの動きはまるで小動物のよう。ふるふると手を振って、挙動不審な小動物。
「……っ」
そんな小動物のような動きのせいか、傷口が引き攣れた。
「ジーニア嬢、大丈夫ですか? やはり傷口が痛むのですね」
ジーニアの身体がふわりと浮いたような気がしたのは、グレアムが彼女の身体を持ち上げたから。乱暴に持ち上げたのではない。背中と太腿に手を入れて、優しくふわりと。いわゆる横抱きというもの。
「え、ええっ」
急に横抱きされてしまったジーニアとしては驚くことしかできない。しかも相手はあのグレアム。
「グレアム様。その、恥ずかしいのでおろしてください」
ジーニアが恥ずかしいと口をするにも理由がある。ここは人通りがある場所だから。そしてこの廊下を進み、突き当りを右へ、さらに進んで突き当りを左側に進めば、ジーニアが与えられた部屋で、その部屋の付近まで行けば人の行き交いも減るのだが。
「ですが。ジーニア嬢は怪我をされているし、今も痛む様子。無理をされては怪我の治りが遅くなります。そうなれば隊長も心配されるので。今はこうして私を頼ってください」
そんなツンデレ受けにそんな言葉をかけられて、断ることなどできるだろうか。いや、できない。できるわけがない。断ったら罰が当たるというもの。
「はい……」
消え入るような声で、恥ずかしそうにジーニアは返事をした。実際、本当に恥ずかしいのだ。抱かれながらも、ジーニアは顔を伏せるようにして頭をグレアムの胸元に預ける。それは不安定でそこに頭を預けなければ落ちそうになってしまうからであって、不可抗力であると思っていただきたい。そして、絶対に兄であるジェレミーには見られたくない、と。そう思っていた。
グレアムはジーニアを抱いたまま、廊下を進み、突き当りを右に曲がって、さらに進み、その突き当りで左へと曲がった。ここまで来れば人も少ない。グレアムの表情を確認するかのように、ジーニアは顔をあげた。
――やっぱり、かっこいいかも……。
「ジーニア嬢の部屋は、こちらで合っておりますか?」
部屋へと入る前に、グレアムは部屋の確認までしてくれた。はい、と俯きながらジーニアは答える。
グレアムはジーニアを抱きかかえたまま、器用に扉を開けて部屋へと入っていく。
「あ」
とグレアムが、気の抜けた声を出したのは、ジーニアの部屋のソファに一人の男が足を組んで腕を組んで座っていたからだ。
「クラレンス殿下……」
というグレアムの呟きで、クラレンスがそこにいたことにジーニアは気付く。
「どうかされましたか?」
「彼女を待っていた。私も、あのときの事件の話を聞きたいからな。ジェレミーに同席させて欲しいと頼んだら、騎士団以外は駄目だと断られてね」
「そうでしたか。こちらで聞いた話は、いくら殿下であっても、調査のために公にすることができないのです。申し訳ありません」
「ああ。それはジェレミーからも聞いている。だから、私が個人的に彼女から話を聞き出すつもりで待っていた。それは問題ないと、ジェレミーに言われたからな」
「なるほど」
「ところでグレアム。なぜ君は彼女を抱いているのだ?」
そこでクラレンスの右の眉尻がピクリと動いた。これに気付いた者は誰もいない。クラレンスでさえも。
「どうやら傷口が痛むようで。それでこちらまで連れてきました。ジーニア嬢、どちらにおろしましょうか?」
グレアムがにっこりと微笑みながら尋ねてくれるので、ジーニアはドキリと頬を赤くしてしまう。
「寝台の……」
上にと言いたかったのだが、それを遮ったのはクラレンスが答えたからだ。
「これから私が彼女から話を聞き出す。だから、私の隣におろせ」
「承知しました」
グレアムにとって、クラレンスの言葉は絶対だ。いくらそれが白くても彼が黒と言えば黒になるくらいに。だからクラレンスの隣にと言われれば、グレアムはそれに従うだけ。例え、ジーニアが嫌がっている素振りを見せたとしても。
30
お気に入りに追加
1,456
あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
悪役令嬢は追いかけられて囚われる。
入海月子
恋愛
侯爵令嬢のセフィリアは、濡衣で王太子から婚約破棄を命じられる。失意のうちに座り込んでいると、近衛騎士のラギリスが追いかけてきた。今までなんの接点もなかったのに、熱い瞳で見つめられて……。
当て馬令嬢からの転身
歪有 絵緖
恋愛
当て馬のように婚約破棄された令嬢、クラーラ。国内での幸せな結婚は絶望的だと思っていたら、父が見つけてきたのは獣人の国の貴族とのお見合いだった。そして出会ったヴィンツェンツは、見た目は大きな熊。けれど、クラーラはその声や見た目にきゅんときてしまう。
幸せを諦めようと思った令嬢が、国を出たことで幸せになれる話。
ムーンライトノベルズからの転載です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる