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23.それはワンコ系攻めとツンデレ受けですね(5)
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ジーニアは兄であるジェレミーに呼ばれた。それはもちろん、あの事件の詳細を聞きたいとジェレミーが言っていたからで。呼び出された先は、騎士団が所有する取調室。こんな場所に呼び出されてしまったら、容疑者にでもなったような気分になってしまう。
「悪いな、ジーン。怪我の具合はどうだ?」
「あ、はい。おかげさまで、なんとか」
少し引き攣るような痛みが出るときもあるが、今では普通に動けるようになるまで回復していた。
「ま、あまり緊張せずに、いつものように話してくれ」
目の前のジェレミーはにこやかに笑っているけれど、このような部屋に押し込められたら「お前がやったことはわかってんだ、吐けよ、吐いちまえよ」と警察、この場合は騎士団から言われ、灯りを顔に向けられて追い詰められる犯人の映像しか浮かんでこない。
ことっとジーニアの目の前に紅茶の入っているカップが置かれた。驚いて顔をあげれば、グレアムである。目が合えば、彼はジーニアを安心させるかのように、ニッコリと微笑んでくれる。
――あわわわわわ。尊い……。
「ここには俺とグレアムしかいないから。あのとき起こったこと、思い出したこと、なんでもいいんだ。気軽に話してくれ」
――お兄さまとグレアム様しかいらっしゃらない?!
ジーニアの中の人は、また鼻血を噴いて卒倒しそうになる。だが、心の中で踏ん張った。
そのような昂る気持ちを抑えるために、紅茶の入ったカップに手を伸ばし、一口飲む。芳醇な香りが、身体中へと広がっていく。
「あ、美味しいです」
てっきりこういう場ではかつ丼が出てくるものと思い込んでいたジーニア。残念ながらこの世界にかつ丼というメニューは無いため、密にジーニアが流行らせようとも思っていた。
「それは、良かった。で、ジーン。あのときのこと、何が起こったのかを教えてくれないだろうか」
ジェレミーの優しい笑みに誘導されるように、ジーニアは「はい」と小さく返事をする。
――あのとき。あの卒業パーティ。私、クラレンス様に見惚れていたんだわ。むしろクラシリを拝むために、とは言えないから……。
「お兄さま。これから私が言うこと、絶対に他の人には言わないでくださいよ」
「言わない、が、大事なところは記録を取らせてもらうよ」
「じゃ、どうでもいいところです」
「うーん、判断に悩むところだが。事件と直接関係ないところは、誰にも言わない。グレアムも、口が堅い男だから安心しろ」
ちらりとグレアムに視線を向ければ、再び、ジーニアを安心させるかのようにニッコリと微笑んでいる。
――尊い……。って、だめだめ。今日は、あの事件のことを言いにきたのだから。
ふぅ、と軽く息を吐いて、ジーニアは続ける。
「では、あのときのパーティ。何があったのか、覚えているかぎりのことを言いますが。でも、なんか、大した情報じゃないようにも思えるんですよね」
「大抵、みんなそんなことを口走るから、気にするな」
「はぁ……。では」
ジーニアは大きく息を吸ってから、あのときのパーティで見たことを口にした。乾杯の儀のとき、クラレンスをじっと見つめていたこと(これが、誰にも言わないでと口走ったこと)。だから気付いたのだ、クラレンスに近づく怪しい人物を。
「怪しい人物って、財務大臣のペトル・マコヴィか?」
「お兄さま、残念ながら私はその怪しい人物の名前を存じ上げていないのです。とにかく、怪しいもさっとした親父、ではなく男性がですね、何やらちらちらとバルコニーの方を見ていたのです」
「お前、そんなことにまで気付いたのか? すごいな」
と感心するジェレミーの隣で、グレアムは必死に記録を取っている。
「悪いな、ジーン。怪我の具合はどうだ?」
「あ、はい。おかげさまで、なんとか」
少し引き攣るような痛みが出るときもあるが、今では普通に動けるようになるまで回復していた。
「ま、あまり緊張せずに、いつものように話してくれ」
目の前のジェレミーはにこやかに笑っているけれど、このような部屋に押し込められたら「お前がやったことはわかってんだ、吐けよ、吐いちまえよ」と警察、この場合は騎士団から言われ、灯りを顔に向けられて追い詰められる犯人の映像しか浮かんでこない。
ことっとジーニアの目の前に紅茶の入っているカップが置かれた。驚いて顔をあげれば、グレアムである。目が合えば、彼はジーニアを安心させるかのように、ニッコリと微笑んでくれる。
――あわわわわわ。尊い……。
「ここには俺とグレアムしかいないから。あのとき起こったこと、思い出したこと、なんでもいいんだ。気軽に話してくれ」
――お兄さまとグレアム様しかいらっしゃらない?!
ジーニアの中の人は、また鼻血を噴いて卒倒しそうになる。だが、心の中で踏ん張った。
そのような昂る気持ちを抑えるために、紅茶の入ったカップに手を伸ばし、一口飲む。芳醇な香りが、身体中へと広がっていく。
「あ、美味しいです」
てっきりこういう場ではかつ丼が出てくるものと思い込んでいたジーニア。残念ながらこの世界にかつ丼というメニューは無いため、密にジーニアが流行らせようとも思っていた。
「それは、良かった。で、ジーン。あのときのこと、何が起こったのかを教えてくれないだろうか」
ジェレミーの優しい笑みに誘導されるように、ジーニアは「はい」と小さく返事をする。
――あのとき。あの卒業パーティ。私、クラレンス様に見惚れていたんだわ。むしろクラシリを拝むために、とは言えないから……。
「お兄さま。これから私が言うこと、絶対に他の人には言わないでくださいよ」
「言わない、が、大事なところは記録を取らせてもらうよ」
「じゃ、どうでもいいところです」
「うーん、判断に悩むところだが。事件と直接関係ないところは、誰にも言わない。グレアムも、口が堅い男だから安心しろ」
ちらりとグレアムに視線を向ければ、再び、ジーニアを安心させるかのようにニッコリと微笑んでいる。
――尊い……。って、だめだめ。今日は、あの事件のことを言いにきたのだから。
ふぅ、と軽く息を吐いて、ジーニアは続ける。
「では、あのときのパーティ。何があったのか、覚えているかぎりのことを言いますが。でも、なんか、大した情報じゃないようにも思えるんですよね」
「大抵、みんなそんなことを口走るから、気にするな」
「はぁ……。では」
ジーニアは大きく息を吸ってから、あのときのパーティで見たことを口にした。乾杯の儀のとき、クラレンスをじっと見つめていたこと(これが、誰にも言わないでと口走ったこと)。だから気付いたのだ、クラレンスに近づく怪しい人物を。
「怪しい人物って、財務大臣のペトル・マコヴィか?」
「お兄さま、残念ながら私はその怪しい人物の名前を存じ上げていないのです。とにかく、怪しいもさっとした親父、ではなく男性がですね、何やらちらちらとバルコニーの方を見ていたのです」
「お前、そんなことにまで気付いたのか? すごいな」
と感心するジェレミーの隣で、グレアムは必死に記録を取っている。
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