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22.それはワンコ系攻めとツンデレ受けですね(4)
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初めて触れたクラレンスの髪は、兄であるジェレミーの髪よりも柔らかかった。と、そこまで感じた時に、なんて大胆な行動に出てしまったのかと気付き、手を下げようとしたところ、その手首をクラレンスに掴まれた。
「撫でられる側も悪くない。もう少し、そうしていろ」
ちょうどジーニアの太ももの上に頭がくるように、クラレンスは身体を折る。
――ちょっと待って、なんなのこの展開。
すっかりとクラレンスはジーニアの膝枕を堪能している様子。しかも頭を撫でろとまで言う。いくらクラレンスを励ますためとは言え、どうやら間違えた発言をしてしまったらしい。今になって後悔をする。それでもじっと優しく彼の頭を撫で続けているのは、それによって彼の力が抜けていくことを感じ取ったからだ。
――そうか、いくら助かったとはいえ、命を狙われているんですもの。ずっと、気が張り詰めていらっしゃったのね。
そう思えば、自然と撫でる手が優しくなる。そして、どうやらクラレンスは眠ってしまったようだ。撫でる手を止め、ジーニアは近くにあった本を一冊手に取った。しばらくの間、この場から動くのは難しいだろう。だったら、本でも読んで時間を潰そう、というのがジーニアの考えだった。
本というのは、当たりと思えるような出会いがあるからやめられない。そしてジーニアが今読んでいる本は、まさしく当たりの本だったのだ。クラレンスが適当に持ってきた本ではあるが、その適当の中に紛れ込んでいた当たり本。彼女は夢中になってそれを読み、どっぷりと本の世界へと旅立っていた時、部屋の扉を叩く音で現実へと引き戻された。
「はい」
クラレンスを起こさないようにと気を遣いながら返事をすれば、扉の向こうから現れたのはシリル。
「ジーニア嬢。お休みのところ、申し訳ありません。クラレンス殿下の姿が見えなくて、こうして探しております。殿下の行き先に心当たりはありませんでしょうか」
そこでジーニアはしぃっと、右手の人差し指を口元の前で立てた。
「クラレンス様はこちらでお休みになられております。起こしてしまうと可哀そうですので、お静かにお願いします」
ジーニアが指し示すこちらに視線を向けたシリルも、思わず目を見開く。
――あ、まずい。もしかして、シリル様。お怒りになられたかしら。
他の人間の上で無防備に寝ている姿を見せつけられたシリルが、平静を保てるとは思わないジーニア。今、彼女は心の中で大量の汗をかいていた。だからといって、クラレンスを起こして、無理矢理引きはがすのもわざとらしい。
「ジーニア嬢。騙されてはなりません。殿下は、眠ってなどおりませんよ」
――え、えぇっ。な、なんだってぇえええ?
「シリル。ネタをばらすのが早い。私は今、休憩中だ。あと十分ほど休憩したら、お前の元に向かおうとしていた」
「殿下。休憩するなら普通に休憩してください」
シリルが困った様に、短く息を吐いた。
それよりも困っているのはジーニアである。まだ彼女の足にはクラレンスの頭が乗せられたまま。起きているのであれば、さっさとそこから退いていただきたい。
「クラレンス様、ジーニア嬢も困っております。そろそろ身体を起こしてください」
「ちっ。お前さえこなければ、もう少し堪能できたものを。これだから優秀な部下がいると困るんだよ」
クラレンスはしぶしぶといった様子で、身体を起こした。
「撫でられる側も悪くない。もう少し、そうしていろ」
ちょうどジーニアの太ももの上に頭がくるように、クラレンスは身体を折る。
――ちょっと待って、なんなのこの展開。
すっかりとクラレンスはジーニアの膝枕を堪能している様子。しかも頭を撫でろとまで言う。いくらクラレンスを励ますためとは言え、どうやら間違えた発言をしてしまったらしい。今になって後悔をする。それでもじっと優しく彼の頭を撫で続けているのは、それによって彼の力が抜けていくことを感じ取ったからだ。
――そうか、いくら助かったとはいえ、命を狙われているんですもの。ずっと、気が張り詰めていらっしゃったのね。
そう思えば、自然と撫でる手が優しくなる。そして、どうやらクラレンスは眠ってしまったようだ。撫でる手を止め、ジーニアは近くにあった本を一冊手に取った。しばらくの間、この場から動くのは難しいだろう。だったら、本でも読んで時間を潰そう、というのがジーニアの考えだった。
本というのは、当たりと思えるような出会いがあるからやめられない。そしてジーニアが今読んでいる本は、まさしく当たりの本だったのだ。クラレンスが適当に持ってきた本ではあるが、その適当の中に紛れ込んでいた当たり本。彼女は夢中になってそれを読み、どっぷりと本の世界へと旅立っていた時、部屋の扉を叩く音で現実へと引き戻された。
「はい」
クラレンスを起こさないようにと気を遣いながら返事をすれば、扉の向こうから現れたのはシリル。
「ジーニア嬢。お休みのところ、申し訳ありません。クラレンス殿下の姿が見えなくて、こうして探しております。殿下の行き先に心当たりはありませんでしょうか」
そこでジーニアはしぃっと、右手の人差し指を口元の前で立てた。
「クラレンス様はこちらでお休みになられております。起こしてしまうと可哀そうですので、お静かにお願いします」
ジーニアが指し示すこちらに視線を向けたシリルも、思わず目を見開く。
――あ、まずい。もしかして、シリル様。お怒りになられたかしら。
他の人間の上で無防備に寝ている姿を見せつけられたシリルが、平静を保てるとは思わないジーニア。今、彼女は心の中で大量の汗をかいていた。だからといって、クラレンスを起こして、無理矢理引きはがすのもわざとらしい。
「ジーニア嬢。騙されてはなりません。殿下は、眠ってなどおりませんよ」
――え、えぇっ。な、なんだってぇえええ?
「シリル。ネタをばらすのが早い。私は今、休憩中だ。あと十分ほど休憩したら、お前の元に向かおうとしていた」
「殿下。休憩するなら普通に休憩してください」
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「クラレンス様、ジーニア嬢も困っております。そろそろ身体を起こしてください」
「ちっ。お前さえこなければ、もう少し堪能できたものを。これだから優秀な部下がいると困るんだよ」
クラレンスはしぶしぶといった様子で、身体を起こした。
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