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20.それはワンコ系攻めとツンデレ受けですね(2)
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「クラレンス殿下」
驚いたジェレミーはすっと立ち上がろうとしたのだが、それをクラレンス本人に制される。そしてなぜか、クラレンス自身もジェレミーの隣に座る。
「ジーニア嬢。怪我の具合はどうだ?」
「はい。痛みも引いてきましたので、一人で歩くこともできるようになりました。ですのでそろそろ、屋敷の方に……」
帰りたい、と言いたかったのだが、最後まで言葉を続けられなかったのは、クラレンスが物凄い形相でジーニアを睨みつけてきたから。
「君は、学院卒業後はここで働くことになっているのだろう? だったら、ここにいた方がいいのではないか?」
――おっと、そんなところまで調査済ですか。って、あのアマリエ様付きの侍女だから、クラレンス様がご存知でもおかしくはないわね。
「ですが、この怪我ですので。すぐに仕事に就くのは無理かと思いまして。ですので、辞退をしたほうがよろしいのではないかと思っているところです」
ジェレミーも妹の言葉を聞くと、顔をしかめるしかない。このような状態の妹が、侍女として仕事をこなすのは難しいだろうと、そう思っているから。
「ああ、それは心配に及ばない。君はアマリエ付きではなく、私付きの侍女となったから」
何か今、変なことが聞こえたぞとジーニアは思う。
「殿下……」
ジーニアより先に言葉に出たのがジェレミーだ。今日はこの兄がいてよかったと思った。
「ジーニアを殿下付きの侍女として、ですか?」
「ああ、そうだ。何か問題でも?」
「い、いえ……」
ジェレミーがクラレンスの迫力に負けた。兄よ、情けない。
「その。あの、そのような簡単に、変更してよろしいのでしょうか?」
しばらくここにいて、少し肝も据わってきたジーニア。言葉を選びながらも思ったことは口にできるようになった。
「まあ、簡単かと言えば簡単では無いな。私に付いていた侍女との交換だからな。アマリエは少し我儘なところがあってね。それで侍女の手も足りていない」
「そ、そうなのですか」
侍女の手が足りないくらいの我儘さとは、どんな我儘具合なのか気になるところだが。
「でしたら、その、交換された侍女の方に申し訳なく思います」
「ああ、それは気にしないで。彼女は大ベテランだから。元々私とアマリエと、両方の世話をしていたんだ。だけどね、少し手のかかるアマリエの専属になってもらうことにしただけだから。それに、ジーニア嬢、君だって行儀見習いでここで働くのだろう? あまり長い期間いるとは思っていない」
「え、とまあ。そうですね。結婚が決まれば出ていくことになるかと……」
だが、残念ながら相手がいない。
「もしかしてジーニア嬢は、そういった相手がすでにいるのか?」
兄よ、助けてくれという意味をこめて、ジェレミーに視線を送ったが、彼は軽く首を横に振るばかり。つまり、助けられない、ということなのだろう。
「いえ、残念ながら……」
「そう。だったら、少なくとも一年はここで働く予定、ということで合っているな」
「そ、そうですね」
それは婚約をしてから一年してから結婚、というのが主流だからだ。つまり、今、婚約者のいないジーニアは、結婚をするとしても一年先、ということ。
「だったら、これから一年、世話になる」
ジェレミーも困った様に二人の様子を見ていた。ジーニアは必死に兄に助けを求めるが、兄は気付いているのかいないのか。
「殿下。妹を、ジーニアを少しお借りしたいのですが、それは問題ありませんか?」
ジェレミーは会話の流れを探っていたのだろう。その件を切り出すために。
クラレンスの眉間に皺が寄る。それは楽しい時間を邪魔されたという子供のような表情だ。
「何のために?」
「あのときの話を聞きたいのです。騎士団として。当時、あの場の護衛を担当していたのは、私たち第五騎士隊ですから。あれの動きに気付くことができなかった。だが、妹は気付いた。それを詳しく聞きたいのです」
「うむ」
クラレンスは腕を組み、頷く。
あら、とジーニアは思った。ここにいる二人、攻め攻めだけど、こうやって並べば絵になるのでは。
驚いたジェレミーはすっと立ち上がろうとしたのだが、それをクラレンス本人に制される。そしてなぜか、クラレンス自身もジェレミーの隣に座る。
「ジーニア嬢。怪我の具合はどうだ?」
「はい。痛みも引いてきましたので、一人で歩くこともできるようになりました。ですのでそろそろ、屋敷の方に……」
帰りたい、と言いたかったのだが、最後まで言葉を続けられなかったのは、クラレンスが物凄い形相でジーニアを睨みつけてきたから。
「君は、学院卒業後はここで働くことになっているのだろう? だったら、ここにいた方がいいのではないか?」
――おっと、そんなところまで調査済ですか。って、あのアマリエ様付きの侍女だから、クラレンス様がご存知でもおかしくはないわね。
「ですが、この怪我ですので。すぐに仕事に就くのは無理かと思いまして。ですので、辞退をしたほうがよろしいのではないかと思っているところです」
ジェレミーも妹の言葉を聞くと、顔をしかめるしかない。このような状態の妹が、侍女として仕事をこなすのは難しいだろうと、そう思っているから。
「ああ、それは心配に及ばない。君はアマリエ付きではなく、私付きの侍女となったから」
何か今、変なことが聞こえたぞとジーニアは思う。
「殿下……」
ジーニアより先に言葉に出たのがジェレミーだ。今日はこの兄がいてよかったと思った。
「ジーニアを殿下付きの侍女として、ですか?」
「ああ、そうだ。何か問題でも?」
「い、いえ……」
ジェレミーがクラレンスの迫力に負けた。兄よ、情けない。
「その。あの、そのような簡単に、変更してよろしいのでしょうか?」
しばらくここにいて、少し肝も据わってきたジーニア。言葉を選びながらも思ったことは口にできるようになった。
「まあ、簡単かと言えば簡単では無いな。私に付いていた侍女との交換だからな。アマリエは少し我儘なところがあってね。それで侍女の手も足りていない」
「そ、そうなのですか」
侍女の手が足りないくらいの我儘さとは、どんな我儘具合なのか気になるところだが。
「でしたら、その、交換された侍女の方に申し訳なく思います」
「ああ、それは気にしないで。彼女は大ベテランだから。元々私とアマリエと、両方の世話をしていたんだ。だけどね、少し手のかかるアマリエの専属になってもらうことにしただけだから。それに、ジーニア嬢、君だって行儀見習いでここで働くのだろう? あまり長い期間いるとは思っていない」
「え、とまあ。そうですね。結婚が決まれば出ていくことになるかと……」
だが、残念ながら相手がいない。
「もしかしてジーニア嬢は、そういった相手がすでにいるのか?」
兄よ、助けてくれという意味をこめて、ジェレミーに視線を送ったが、彼は軽く首を横に振るばかり。つまり、助けられない、ということなのだろう。
「いえ、残念ながら……」
「そう。だったら、少なくとも一年はここで働く予定、ということで合っているな」
「そ、そうですね」
それは婚約をしてから一年してから結婚、というのが主流だからだ。つまり、今、婚約者のいないジーニアは、結婚をするとしても一年先、ということ。
「だったら、これから一年、世話になる」
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ジェレミーは会話の流れを探っていたのだろう。その件を切り出すために。
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「何のために?」
「あのときの話を聞きたいのです。騎士団として。当時、あの場の護衛を担当していたのは、私たち第五騎士隊ですから。あれの動きに気付くことができなかった。だが、妹は気付いた。それを詳しく聞きたいのです」
「うむ」
クラレンスは腕を組み、頷く。
あら、とジーニアは思った。ここにいる二人、攻め攻めだけど、こうやって並べば絵になるのでは。
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