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12.それはスパダリ攻めと誘い受けですね(2)
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「ひっ」
とヘレナが変な声を出した。
「隊長。そろそろ始まりますので、指揮を」
「あぁ、すまない。グレアム」
「ところで、隊長。こちらの方は?」
じろりとジーニアとヘレナは鋭い視線を投げつけられた。
「俺の妹のジーニアだ。そして、こちらがあの噂のヘレナ嬢」
「隊長にこのような可愛らしい妹さんがいらしたのですね。お初にお目にかかります。私、王立騎士団第五騎士隊の副隊長を務めておりますグレアム・アシュトンと申します」
鋭い視線を投げつけられたとしても、ジーニアもヘレナも、ぽーっと頬を赤らめて見つめていたのだろう、グレアムを。ではなく、ジェレグレを。グレアムの声で我に返った二人は、ドレスの裾を持ち上げ令嬢としての挨拶を行う。
「是非とも一曲、お相手を願いたいものですね」
社交辞令だとしても、あのグレアムからそんなことを言われてしまったら、二人は余計に頬を赤らめてしまう。
ツンデレのくせにツンツンしていないではないか。それは、ジェレミーがいるからか。どうなんだ。ジーニアの心の中は歓喜で溢れている。
「おいおい、ジーン。グレイに惚れるなよ? こう見えてもこいつ、婚約者がいるんだから」
「隊長。こう見えても、というところが余計なところです」
「そうかぁ?」
ジェレミーとグレアムが二人でじゃれ合っている。ジーニアの心の中は「尊し」という言葉で溢れ返っていた。
「ジーン、ヘレナ嬢。君たちがパーティを楽しめるように、俺たちがしっかり警備を担当するからな」
「隊長。せっかくですから、合間に妹君と踊ってきたらいかがですか? その間は、私が責任を持って任務につかせていただきますので」
「お前の優しさに裏を感じる」
そうそう、グレアムはジーニアにさえ嫉妬する男。それにも関わらず兄妹で踊ってこいと口にするとは、裏しか感じない。
「ええ。裏心は満載ですから」
どんな心だよ、とジェレミーが笑顔でツッコミを入れている。それでもそろそろ時間なのだろう。
「じゃ、ジーン。また後でな」
ひらひらと片手を振って他の隊員たちの元へと向かう。グレアムも、二人に頭を下げて、ジェレミーの後を追う。
「ジーン。あなたの言いたいことはなんとなくわかるわ。あの二人を見せつけられて、あの二人を推したいと思う気持ちも。だけど、その邪な心は捨てなさい。あなたの命のためにも、あの二人には犠牲になってもらうしかないの」
ヘレナの決意は固い。それよりもあのジェレミーは気になるところを、ぼろぼろと口にしていた。
「ねえねえ、ヘレナ。あなた、第一騎士隊に配属なの?」
「ジェレミー様がおっしゃるには、そうみたいね。一応、希望は第五にしたんだけど。アマリエ様付きというのも、悪くは無いんだけど。ジーンもアマリエ様付きでしょ? だからクラシリはジーンにお任せしようと思ったのよ。私はジェレグレを見守りたいな、と」
「そうなのね。優秀すぎるのも大変なのね」
「でも、まだ正式に決まったわけではないと思うのよ。だから、ジーンの方からもジェレミー様に伝えておいてね。私が第五を希望しているということを」
ヘレナのその言葉にジーニアは頷く。だが、ジーニアの言葉がどれだけの効果があるのかはわからない。
「ジーン、そろそろ中に入りましょう」
もちろん、ジーニアとヘレナのように会場の外で談笑に耽っている者もまだいるが、そろそろパーティが始まる。
二人は顔を見合わせて頷き合えば、会場の中へと足を踏み入れた。
この世にこのような華やかな場所が存在するのか、と、ジーニアの中の人は思っていた。キラキラと重厚なシャンデリラが輝き、誰が降りてくるのかわからないような螺旋階段。テーブルが置かれている場所と、楽団が控えている場所と。恐らく、あそこのスペースがダンススペースなのだろう。そして謎の雛壇とでっぷりとした豪勢な椅子。
「いよいよね」
ヘレナの言葉にジーニアもごくりと唾を飲み込む。
そう、これからクラレンスとジーニアの生死をかけたイベントが始まる。そもそもジーニアはモブ的扱いなので、どうなっても構わない立場ではあるのだが。だからって、素直に死んでやろうと思っているわけでもない。むしろ、生きてやる。生きて生きて生き抜いて、あの六人の幸せの行方を見守ってやる。
ピーンと空気が張りつめた。楽団の音楽が鳴り始める。
「ジーン、始まるわよ」
ヘレナの言葉に頷く。
誰が降りてくるかわからないような螺旋階段から、この国の国王夫妻、そして王子と王女が降りてきた。そうか、螺旋階段はこういった重鎮の登場のパフォーマンスに使われるのか、とジーニアは一人で納得する。
――クラレンス様……。
落ち着いた動作で階段を下りてくるクラレンスに、ジーニアは目が離せなかった。
とヘレナが変な声を出した。
「隊長。そろそろ始まりますので、指揮を」
「あぁ、すまない。グレアム」
「ところで、隊長。こちらの方は?」
じろりとジーニアとヘレナは鋭い視線を投げつけられた。
「俺の妹のジーニアだ。そして、こちらがあの噂のヘレナ嬢」
「隊長にこのような可愛らしい妹さんがいらしたのですね。お初にお目にかかります。私、王立騎士団第五騎士隊の副隊長を務めておりますグレアム・アシュトンと申します」
鋭い視線を投げつけられたとしても、ジーニアもヘレナも、ぽーっと頬を赤らめて見つめていたのだろう、グレアムを。ではなく、ジェレグレを。グレアムの声で我に返った二人は、ドレスの裾を持ち上げ令嬢としての挨拶を行う。
「是非とも一曲、お相手を願いたいものですね」
社交辞令だとしても、あのグレアムからそんなことを言われてしまったら、二人は余計に頬を赤らめてしまう。
ツンデレのくせにツンツンしていないではないか。それは、ジェレミーがいるからか。どうなんだ。ジーニアの心の中は歓喜で溢れている。
「おいおい、ジーン。グレイに惚れるなよ? こう見えてもこいつ、婚約者がいるんだから」
「隊長。こう見えても、というところが余計なところです」
「そうかぁ?」
ジェレミーとグレアムが二人でじゃれ合っている。ジーニアの心の中は「尊し」という言葉で溢れ返っていた。
「ジーン、ヘレナ嬢。君たちがパーティを楽しめるように、俺たちがしっかり警備を担当するからな」
「隊長。せっかくですから、合間に妹君と踊ってきたらいかがですか? その間は、私が責任を持って任務につかせていただきますので」
「お前の優しさに裏を感じる」
そうそう、グレアムはジーニアにさえ嫉妬する男。それにも関わらず兄妹で踊ってこいと口にするとは、裏しか感じない。
「ええ。裏心は満載ですから」
どんな心だよ、とジェレミーが笑顔でツッコミを入れている。それでもそろそろ時間なのだろう。
「じゃ、ジーン。また後でな」
ひらひらと片手を振って他の隊員たちの元へと向かう。グレアムも、二人に頭を下げて、ジェレミーの後を追う。
「ジーン。あなたの言いたいことはなんとなくわかるわ。あの二人を見せつけられて、あの二人を推したいと思う気持ちも。だけど、その邪な心は捨てなさい。あなたの命のためにも、あの二人には犠牲になってもらうしかないの」
ヘレナの決意は固い。それよりもあのジェレミーは気になるところを、ぼろぼろと口にしていた。
「ねえねえ、ヘレナ。あなた、第一騎士隊に配属なの?」
「ジェレミー様がおっしゃるには、そうみたいね。一応、希望は第五にしたんだけど。アマリエ様付きというのも、悪くは無いんだけど。ジーンもアマリエ様付きでしょ? だからクラシリはジーンにお任せしようと思ったのよ。私はジェレグレを見守りたいな、と」
「そうなのね。優秀すぎるのも大変なのね」
「でも、まだ正式に決まったわけではないと思うのよ。だから、ジーンの方からもジェレミー様に伝えておいてね。私が第五を希望しているということを」
ヘレナのその言葉にジーニアは頷く。だが、ジーニアの言葉がどれだけの効果があるのかはわからない。
「ジーン、そろそろ中に入りましょう」
もちろん、ジーニアとヘレナのように会場の外で談笑に耽っている者もまだいるが、そろそろパーティが始まる。
二人は顔を見合わせて頷き合えば、会場の中へと足を踏み入れた。
この世にこのような華やかな場所が存在するのか、と、ジーニアの中の人は思っていた。キラキラと重厚なシャンデリラが輝き、誰が降りてくるのかわからないような螺旋階段。テーブルが置かれている場所と、楽団が控えている場所と。恐らく、あそこのスペースがダンススペースなのだろう。そして謎の雛壇とでっぷりとした豪勢な椅子。
「いよいよね」
ヘレナの言葉にジーニアもごくりと唾を飲み込む。
そう、これからクラレンスとジーニアの生死をかけたイベントが始まる。そもそもジーニアはモブ的扱いなので、どうなっても構わない立場ではあるのだが。だからって、素直に死んでやろうと思っているわけでもない。むしろ、生きてやる。生きて生きて生き抜いて、あの六人の幸せの行方を見守ってやる。
ピーンと空気が張りつめた。楽団の音楽が鳴り始める。
「ジーン、始まるわよ」
ヘレナの言葉に頷く。
誰が降りてくるかわからないような螺旋階段から、この国の国王夫妻、そして王子と王女が降りてきた。そうか、螺旋階段はこういった重鎮の登場のパフォーマンスに使われるのか、とジーニアは一人で納得する。
――クラレンス様……。
落ち着いた動作で階段を下りてくるクラレンスに、ジーニアは目が離せなかった。
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