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9.ここは耽美な世界ですね(9)
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「おっはよう、ジーン。今日はジェレミー様が送ってくださったの? うらやましいわ」
兄の車から降り、正門から昇降口へと向かう途中で、バシンと背中を叩かれた。少々力の強い彼女は、ジーニアのクラスメートの一人のヘレナだ。彼女は、学院卒業後に騎士団に入団することが決まっている。どこの部隊に配属されるのかはわからないのだが、花形の護衛騎士よりは、他の部隊を望んでいるところが彼女らしい。
「私も、第五騎士隊に配属になれたらいいな」
と、なぜか恋する乙女のように手を組んでいる。
「え?」
驚いたジーニアはヘレナの顔をつい見てしまった。
「なぜ、第五?」
第五騎士隊はジェレミーがまとめあげる隊だ。華やかさとは程遠く、どちらかと言えばむさ苦しい隊。ジーニアにとっては、ジェレミーとグレアムの二人の背景にだけ花が舞っているような、そんなイメージしかない。
「だって。ジェレミー様が隊長になったのでしょ?」
「さすが、ヘレナは情報が早いわね」
ジーニアが言えばヘレナは「えへへ」と笑っているが、けしてジーニアは彼女のことを褒めたわけではない。
「しかもグレアム様が副隊長でしょ」
「さすが、騎士団入団内定者は、騎士団の内情にも詳しいのね」
こちらは褒めている。まだ騎士になっていないというのに、それだけ騎士団の組織について調べているのか、と。感心してしまう。
「ジェレミー様の下で仕事ができたとしたら、夢のようじゃない?」
「ヘレナはお兄さまのことが好きなの? ヘレナだったら大歓迎よ」
「ありがとう。でも私、ジェレミー様が好きっていうわけじゃなくて。ジェレミー様とグレアム様が好きっていうか」
――ん?
ジーニアの中の人の腐女子アンテナがピーコンと音を立てて反応した。
「えっと、ヘレナ。もしかして、ジェレグレ?」
あえてそう表現してみた。知る人しか知らないそれ。
「ジェレグレが本命なんだけど、心の中ではグレジェレっていうか……。っていうか、え? えっ。ジーン、ちょっと。えっ? な、なんで? なんで、あなたがそんなことを知っているの?」
やはり、腐女子アンテナは正しい。なんとなくこの人そうかも、という会話の節々から感じるときがあり、そのような場合は今のようにアンテナが反応するのだ。
「えっと。お兄さまの妹、だからかしら?」
「なんなのジーン、その誤魔化し方。誤魔化しきれてないから。私のアンテナもビンビン反応してるから」
「てことは、やっぱり?」
「やっぱり?」
「ヘレナも?」
「も、ってことはジーニアも?」
がしっとヘレナはジーニアに抱き着いた。まだここは外である。昇降口へと向かう生徒たちが、彼女たちの脇を通り抜けていく。他の生徒から見たら、卒業を間近に控え感極まった二人、くらいにしか見えていないだろう。腐女子が同志を見つけて、感極まっているようには見えないはず、だ。多分。
「ヘレナ。苦しい……」
「あ、ごめん、つい。嬉しくて」
ヘレナがぱっと離れると、少しだけ曲がってしまったジーニアの制服のリボンをきゅっと整える。
「やだやだやだ、どうしよう。ほら、同志がいるってだけで嬉しくない? ほら、私、特に地雷は無いから。グレジェレでもジェレグレでもどっちでもいけるんだけど、ちょっとこう、ね。ああ、どうしよう。もう、授業なんて聞いている場合じゃない。ジーンと語りたい。語り合いたい」
「ヘレナ。気持ちはわかるけれど。私たちは今、学院に通う華の女子学生。とりあえず、今は教室へ向かいましょう」
やっと昇降口に辿り着いた。靴を履き替えて、二人仲良く教室へと向かう。
気もそぞろというのは、今のヘレナのことを指すのだろう。いつも落ち着いている彼女が、浮足立っているように見える。だが卒業を間近に控えた今、この教室にいる者たちはたいていそんな感じだ。
今生の別れというわけでもないのに、どこかしんみりとしている雰囲気もある。旅立ちとはそんなものなのだろう。
兄の車から降り、正門から昇降口へと向かう途中で、バシンと背中を叩かれた。少々力の強い彼女は、ジーニアのクラスメートの一人のヘレナだ。彼女は、学院卒業後に騎士団に入団することが決まっている。どこの部隊に配属されるのかはわからないのだが、花形の護衛騎士よりは、他の部隊を望んでいるところが彼女らしい。
「私も、第五騎士隊に配属になれたらいいな」
と、なぜか恋する乙女のように手を組んでいる。
「え?」
驚いたジーニアはヘレナの顔をつい見てしまった。
「なぜ、第五?」
第五騎士隊はジェレミーがまとめあげる隊だ。華やかさとは程遠く、どちらかと言えばむさ苦しい隊。ジーニアにとっては、ジェレミーとグレアムの二人の背景にだけ花が舞っているような、そんなイメージしかない。
「だって。ジェレミー様が隊長になったのでしょ?」
「さすが、ヘレナは情報が早いわね」
ジーニアが言えばヘレナは「えへへ」と笑っているが、けしてジーニアは彼女のことを褒めたわけではない。
「しかもグレアム様が副隊長でしょ」
「さすが、騎士団入団内定者は、騎士団の内情にも詳しいのね」
こちらは褒めている。まだ騎士になっていないというのに、それだけ騎士団の組織について調べているのか、と。感心してしまう。
「ジェレミー様の下で仕事ができたとしたら、夢のようじゃない?」
「ヘレナはお兄さまのことが好きなの? ヘレナだったら大歓迎よ」
「ありがとう。でも私、ジェレミー様が好きっていうわけじゃなくて。ジェレミー様とグレアム様が好きっていうか」
――ん?
ジーニアの中の人の腐女子アンテナがピーコンと音を立てて反応した。
「えっと、ヘレナ。もしかして、ジェレグレ?」
あえてそう表現してみた。知る人しか知らないそれ。
「ジェレグレが本命なんだけど、心の中ではグレジェレっていうか……。っていうか、え? えっ。ジーン、ちょっと。えっ? な、なんで? なんで、あなたがそんなことを知っているの?」
やはり、腐女子アンテナは正しい。なんとなくこの人そうかも、という会話の節々から感じるときがあり、そのような場合は今のようにアンテナが反応するのだ。
「えっと。お兄さまの妹、だからかしら?」
「なんなのジーン、その誤魔化し方。誤魔化しきれてないから。私のアンテナもビンビン反応してるから」
「てことは、やっぱり?」
「やっぱり?」
「ヘレナも?」
「も、ってことはジーニアも?」
がしっとヘレナはジーニアに抱き着いた。まだここは外である。昇降口へと向かう生徒たちが、彼女たちの脇を通り抜けていく。他の生徒から見たら、卒業を間近に控え感極まった二人、くらいにしか見えていないだろう。腐女子が同志を見つけて、感極まっているようには見えないはず、だ。多分。
「ヘレナ。苦しい……」
「あ、ごめん、つい。嬉しくて」
ヘレナがぱっと離れると、少しだけ曲がってしまったジーニアの制服のリボンをきゅっと整える。
「やだやだやだ、どうしよう。ほら、同志がいるってだけで嬉しくない? ほら、私、特に地雷は無いから。グレジェレでもジェレグレでもどっちでもいけるんだけど、ちょっとこう、ね。ああ、どうしよう。もう、授業なんて聞いている場合じゃない。ジーンと語りたい。語り合いたい」
「ヘレナ。気持ちはわかるけれど。私たちは今、学院に通う華の女子学生。とりあえず、今は教室へ向かいましょう」
やっと昇降口に辿り着いた。靴を履き替えて、二人仲良く教室へと向かう。
気もそぞろというのは、今のヘレナのことを指すのだろう。いつも落ち着いている彼女が、浮足立っているように見える。だが卒業を間近に控えた今、この教室にいる者たちはたいていそんな感じだ。
今生の別れというわけでもないのに、どこかしんみりとしている雰囲気もある。旅立ちとはそんなものなのだろう。
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