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6.ここは耽美な世界ですね(6)
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相手は一国の王太子という立場にある人間。そんな彼を失ってしまい、それに携わっていたのがジュードという男であれば、その後、彼に待ち受けている仕打ちなど目に見えている。
それでも王宮魔導士団団長というジュードの立場というものが助けてくれているのか、表立って誰も彼を攻めようとはしなかった。それでも突き刺さるような視線から、ジュード自身も何かしら感じとれるものはあったのだろう。
クラレンスが亡くなってしまったのはジュードのせいである、誰もがそう思っている、と――。
ジュードはその思いに頭を悩ませ始め、次第に研究室へと引きこもるようになる。さらに荒れ狂い、自暴自棄になっていき、最終的には王宮魔導士を辞めると言い出す始末。
それでもジュードが優秀な魔導士に変わりはなく、国として彼に辞められてしまっては困るわけで。さらに旅に出るとか言い出して、他国へと渡ってしまったらもっと困るわけで。
そんな彼を心配し、真摯に向き合うのがミックという事務官。
『ジュード様、しっかりなさってください。クラレンス様がお亡くなりになったのが自分のせいであるとお考えになっているのですか? ジュード様は自分のことを天才と思っているようですが、やはりあなた様が凡人であったということが証明されただけなのですよ』
と、ミックがジュードに言い放つ始末。
なんなんだ、この展開。とジーニアの中の人は思っていた。
それでもそのミックの一言はジュードの心を奮い立たせるには充分なものであった。
その後、ジュードはクラレンスに毒と呪いをかけた人物を突き詰め、自分の魔術の研究材料にまでしてしまう。ようするに、人体実験である。ドSな彼の人体実験。変な効果音だけが流れ、背景がお花畑で『しばらくお待ちください』というテロップが流れていたことを思い出してしまった。あのゲームの中で一番シュールな場面といういわくつきのシーンでもあった。
そんな感じで自分自身を取り戻していくジュードであるが、そこにミックの力があったことを忘れてはならない。
それでも二人の愛を成就させるために、クラレンスの死という犠牲は大きかった。神であるプレイヤーであれば、彼を助けることができたのではないかと、ありもしない裏ルートの噂まで囁かれてしまったほど。
だからこそ、心臓に負担の大きい第三のシナリオと呼ばれているのだ。
ジーニアの鼻の奥がツンとしてきた。駄目だ。クラレンスの命が失われてはいけない。二人の仲を取り持ってあげたいのは山々だけど。
ずずっと鼻をすすって、ジーニアはガバっと起き上がる。
――やはり。これは、第二のシナリオを進めていくしかないのでは?
ちなみに、第一のシナリオでは死亡ルートのジーニアであるが、第二ルートも第三ルートも立派なモブという役割がある。何しろ、あの卒業パーティに参加していて、王立騎士団第五騎士隊隊長であり、パーティの警備責任者のジェレミーの妹なのだから。
とにかくこのゲームは、メインシナリオのカップルを成立させるために、どうでもいい登場人物が死亡するという流れが多い。そういう意味では第二のシナリオが一番安全かもしれない。自分も死なないし、主要キャラも死なない。もしかしたら、他のモブキャラは死ぬかもしれないけど、恐らくそれはジーニアの知らない人になる。だって、少なくともジーニアの中の人の記憶には残っていないのだから。
だからこそ、ジーニアの心の中だけは平穏が保たれるというわけだ。
――お兄さまとグレアム様、それからジュード様とミック様には申し訳ないけど、彼らにはすっぱりと諦めてもらうしかないわね。となれば、やはり問題は卒業パーティか。
絶対にクラレンスが毒入りのグラスを手にしないように誘導しなければならない。
その後、ジーニアは同級生の男子生徒からダンスに誘われるが、その彼からグラスを受け取ってはならない。
この二つができれば、安定の第二シナリオへ突入だ。
クラレンスかジーニアが毒を口にしてしまった瞬間に、シナリオは第一か第三へと変わってしまう。
――クラレンス様は絶対に死なせない。もちろん、私も。あの三カポーの行方を見守るまでは、絶対に死ねない。
そう決意したジーニアは、もぞもぞと布団の中に潜り込んだ。
今日は『スパダリ攻め』と『誘い受け』の夢をみることができそうだわ、と思いながら、心を落ち着かせて重くなる瞼に従った。
それでも王宮魔導士団団長というジュードの立場というものが助けてくれているのか、表立って誰も彼を攻めようとはしなかった。それでも突き刺さるような視線から、ジュード自身も何かしら感じとれるものはあったのだろう。
クラレンスが亡くなってしまったのはジュードのせいである、誰もがそう思っている、と――。
ジュードはその思いに頭を悩ませ始め、次第に研究室へと引きこもるようになる。さらに荒れ狂い、自暴自棄になっていき、最終的には王宮魔導士を辞めると言い出す始末。
それでもジュードが優秀な魔導士に変わりはなく、国として彼に辞められてしまっては困るわけで。さらに旅に出るとか言い出して、他国へと渡ってしまったらもっと困るわけで。
そんな彼を心配し、真摯に向き合うのがミックという事務官。
『ジュード様、しっかりなさってください。クラレンス様がお亡くなりになったのが自分のせいであるとお考えになっているのですか? ジュード様は自分のことを天才と思っているようですが、やはりあなた様が凡人であったということが証明されただけなのですよ』
と、ミックがジュードに言い放つ始末。
なんなんだ、この展開。とジーニアの中の人は思っていた。
それでもそのミックの一言はジュードの心を奮い立たせるには充分なものであった。
その後、ジュードはクラレンスに毒と呪いをかけた人物を突き詰め、自分の魔術の研究材料にまでしてしまう。ようするに、人体実験である。ドSな彼の人体実験。変な効果音だけが流れ、背景がお花畑で『しばらくお待ちください』というテロップが流れていたことを思い出してしまった。あのゲームの中で一番シュールな場面といういわくつきのシーンでもあった。
そんな感じで自分自身を取り戻していくジュードであるが、そこにミックの力があったことを忘れてはならない。
それでも二人の愛を成就させるために、クラレンスの死という犠牲は大きかった。神であるプレイヤーであれば、彼を助けることができたのではないかと、ありもしない裏ルートの噂まで囁かれてしまったほど。
だからこそ、心臓に負担の大きい第三のシナリオと呼ばれているのだ。
ジーニアの鼻の奥がツンとしてきた。駄目だ。クラレンスの命が失われてはいけない。二人の仲を取り持ってあげたいのは山々だけど。
ずずっと鼻をすすって、ジーニアはガバっと起き上がる。
――やはり。これは、第二のシナリオを進めていくしかないのでは?
ちなみに、第一のシナリオでは死亡ルートのジーニアであるが、第二ルートも第三ルートも立派なモブという役割がある。何しろ、あの卒業パーティに参加していて、王立騎士団第五騎士隊隊長であり、パーティの警備責任者のジェレミーの妹なのだから。
とにかくこのゲームは、メインシナリオのカップルを成立させるために、どうでもいい登場人物が死亡するという流れが多い。そういう意味では第二のシナリオが一番安全かもしれない。自分も死なないし、主要キャラも死なない。もしかしたら、他のモブキャラは死ぬかもしれないけど、恐らくそれはジーニアの知らない人になる。だって、少なくともジーニアの中の人の記憶には残っていないのだから。
だからこそ、ジーニアの心の中だけは平穏が保たれるというわけだ。
――お兄さまとグレアム様、それからジュード様とミック様には申し訳ないけど、彼らにはすっぱりと諦めてもらうしかないわね。となれば、やはり問題は卒業パーティか。
絶対にクラレンスが毒入りのグラスを手にしないように誘導しなければならない。
その後、ジーニアは同級生の男子生徒からダンスに誘われるが、その彼からグラスを受け取ってはならない。
この二つができれば、安定の第二シナリオへ突入だ。
クラレンスかジーニアが毒を口にしてしまった瞬間に、シナリオは第一か第三へと変わってしまう。
――クラレンス様は絶対に死なせない。もちろん、私も。あの三カポーの行方を見守るまでは、絶対に死ねない。
そう決意したジーニアは、もぞもぞと布団の中に潜り込んだ。
今日は『スパダリ攻め』と『誘い受け』の夢をみることができそうだわ、と思いながら、心を落ち着かせて重くなる瞼に従った。
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