BでLなゲームに転生したモブ令嬢のはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)

文字の大きさ
上 下
6 / 46

6.ここは耽美な世界ですね(6)

しおりを挟む
 相手は一国の王太子という立場にある人間。そんな彼を失ってしまい、それに携わっていたのがジュードという男であれば、その後、彼に待ち受けている仕打ちなど目に見えている。
 それでも王宮魔導士団団長というジュードの立場というものが助けてくれているのか、表立って誰も彼を攻めようとはしなかった。それでも突き刺さるような視線から、ジュード自身も何かしら感じとれるものはあったのだろう。

 クラレンスが亡くなってしまったのはジュードのせいである、誰もがそう思っている、と――。

 ジュードはその思いに頭を悩ませ始め、次第に研究室へと引きこもるようになる。さらに荒れ狂い、自暴自棄になっていき、最終的には王宮魔導士を辞めると言い出す始末。
 それでもジュードが優秀な魔導士に変わりはなく、国として彼に辞められてしまっては困るわけで。さらに旅に出るとか言い出して、他国へと渡ってしまったらもっと困るわけで。

 そんな彼を心配し、真摯に向き合うのがミックという事務官。

『ジュード様、しっかりなさってください。クラレンス様がお亡くなりになったのが自分のせいであるとお考えになっているのですか? ジュード様は自分のことを天才と思っているようですが、やはりあなた様が凡人であったということが証明されただけなのですよ』
 と、ミックがジュードに言い放つ始末。

 なんなんだ、この展開。とジーニアの中の人は思っていた。

 それでもそのミックの一言はジュードの心を奮い立たせるには充分なものであった。

 その後、ジュードはクラレンスに毒と呪いをかけた人物を突き詰め、自分の魔術の研究材料にまでしてしまう。ようするに、人体実験である。ドSな彼の人体実験。変な効果音だけが流れ、背景がお花畑で『しばらくお待ちください』というテロップが流れていたことを思い出してしまった。あのゲームの中で一番シュールな場面といういわくつきのシーンでもあった。
 そんな感じで自分自身を取り戻していくジュードであるが、そこにミックの力があったことを忘れてはならない。

 それでも二人の愛を成就させるために、クラレンスの死という犠牲は大きかった。神であるプレイヤーであれば、彼を助けることができたのではないかと、ありもしない裏ルートの噂まで囁かれてしまったほど。
 だからこそ、心臓に負担の大きい第三のシナリオと呼ばれているのだ。

 ジーニアの鼻の奥がツンとしてきた。駄目だ。クラレンスの命が失われてはいけない。二人の仲を取り持ってあげたいのは山々だけど。
 ずずっと鼻をすすって、ジーニアはガバっと起き上がる。

 ――やはり。これは、第二のシナリオを進めていくしかないのでは?

 ちなみに、第一のシナリオでは死亡ルートのジーニアであるが、第二ルートも第三ルートも立派なモブという役割がある。何しろ、あの卒業パーティに参加していて、王立騎士団第五騎士隊隊長であり、パーティの警備責任者のジェレミーの妹なのだから。
 とにかくこのゲームは、メインシナリオのカップルを成立させるために、どうでもいい登場人物が死亡するという流れが多い。そういう意味では第二のシナリオが一番安全かもしれない。自分も死なないし、主要キャラも死なない。もしかしたら、他のモブキャラは死ぬかもしれないけど、恐らくそれはジーニアの知らない人になる。だって、少なくともジーニアの中の人の記憶には残っていないのだから。

 だからこそ、ジーニアの心の中だけは平穏が保たれるというわけだ。

 ――お兄さまとグレアム様、それからジュード様とミック様には申し訳ないけど、彼らにはすっぱりと諦めてもらうしかないわね。となれば、やはり問題は卒業パーティか。

 絶対にクラレンスが毒入りのグラスを手にしないように誘導しなければならない。
 その後、ジーニアは同級生の男子生徒からダンスに誘われるが、その彼からグラスを受け取ってはならない。
 この二つができれば、安定の第二シナリオへ突入だ。
 クラレンスかジーニアが毒を口にしてしまった瞬間に、シナリオは第一か第三へと変わってしまう。

 ――クラレンス様は絶対に死なせない。もちろん、私も。あの三カポーの行方を見守るまでは、絶対に死ねない。

 そう決意したジーニアは、もぞもぞと布団の中に潜り込んだ。
 今日は『スパダリ攻め』と『誘い受け』の夢をみることができそうだわ、と思いながら、心を落ち着かせて重くなる瞼に従った。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

アリスと魔法の薬箱~何もかも奪われ国を追われた薬師の令嬢ですが、ここからが始まりです!~

有沢真尋
ファンタジー
 アリスは、代々癒やしの魔法を持つ子爵家の令嬢。しかし、父と兄の不慮の死により、家名や財産を叔父一家に奪われ、平民となる。  それでもアリスは、一族の中で唯一となった高度な魔法の使い手。家名を冠した魔法薬草の販売事業になくなてはならぬ存在であり、叔父一家が実権を握る事業に協力を続けていた。  ある時、叔父が不正をしていることに気づく。「信頼を損ない、家名にも傷がつく」と反発するが、逆に身辺を脅かされてしまう。  そんなアリスに手を貸してくれたのは、訳ありの騎士。アリスの癒やし手としての腕に惚れ込み、隣国までの護衛を申し出てくれた。  行き場のないアリスは、彼の誘いにのって、旅に出ることに。 ※「その婚約破棄、巻き込まないでください」と同一世界観です。 ※表紙はかんたん表紙メーカーさま・他サイトにも公開あり

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...