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第六章:そのお仕事、お引き受けいたします(12)
しおりを挟む 食べ物を掴み、手足をバタバタと振る彼女は、クライブも言ったように機嫌がよい。
「閣下。マリアンヌもそろそろ一歳になるわけですよね?」
「そうだな。誕生日はわからないが……」
「でしたら、マリアンヌが一人歩きした日を一歳の誕生日に決めましょう。今はまだつかまり立ちしかできませんが、そろそろ歩きそうな気もするんですよね」
「わかった。では、マリアンヌが一人で歩いた日をマリアンヌの誕生日にしよう。次の日に、急いでパーティーを開く」
一歳の誕生日。それをファクト家のみなで祝いたいというクライブの気持ちを感じ取った。
「……あっ」
そこでイリヤは思い出した。マリアンヌといえば、忘れてはならない人物が一人いる。しかも、いろいろと厄介な人物である。
「あの……閣下。その……」
イリヤの言葉の先をクライブが奪い取った。
「陛下の件は気にするな。むしろ、アレがいないほうがパーティーも滞りなく進む。終わったところで、オレから伝えるからいい」
どうやら、クライブも同じようなことを心配していたようだ。
「マリー。あなた、本当に愛されているのね」
イリヤは食事中であるのに、マリアンヌをぎゅっと抱き寄せた。
「あだ~あだ~」
「嫌がってないか?」
「喜んでいるんです!」
いや、これはマリアンヌが嫌がっている。食事を邪魔されて怒っているのだ。だけど、悔しいからクライブには、そう言っただけ。
マリアンヌもすっかりと朝食を食べ終えて、機嫌も戻ったところで着替えである。淡く薄いピンク色のドレスを気に入ったようで、「あ~あ~、あ~あ~」と楽しげに声を出している。
イリヤは装飾もほとんどない、真っ白なドレスを身につけた。袖のレースには細かく花模様が描かれていて、光を受けると微妙な角度で虹色のように輝く。派手ではない華やかさがある。
「イリヤ、準備はできたか?」
いきなりクライブが扉を開けて部屋に入ってきた。
「旦那様。せめてノックをしてからお入りください」
サマンサに咎められようが、クライブは気にしていない様子。
「イリヤ……」
何か言いたそうにこちらを見つめているものの、口元を手で押さえ、その肝心の言葉が出てこない。
「なんですか? 言いたいことがあるなら、はっきり言ってください。気持ち悪いじゃないですか」
「あだだだだだだだ~」
マリアンヌが声をあげると、クライブも我に返ったように目を瞬く。
「あ、あぁ。マリアンヌ、かわいい服を着ているな」
クライブの声に、コホンとサマンサが咳払いをする。その視線はじとぉっとどこか蔑むような視線にも見えた。
「旦那様」
さらに咎めるような鋭い声。
「あ、あぁ……イリヤ……その、あれだ。よく似合っている……」
たったそれだけの言葉であるのに、なぜかクライブは頬をほんのりと赤くしていた。そうなればイリヤだって恥ずかしくなる。
「あ、ありがとうございます……」
その様子をサマンサがニコニコと見ているし、ナナカの腕の中のマリアンヌもあ~あ~と嬉しそうに声をあげていた。
「では、イリヤ。マリアンヌ。行こう」
これからイリヤは正式な聖女として、国民にお披露目される。
それはマリアンヌを守るためだと自身に言い聞かせて、イリヤはナナカから愛らしく声をあげている彼女を受け取った。
「閣下。マリアンヌもそろそろ一歳になるわけですよね?」
「そうだな。誕生日はわからないが……」
「でしたら、マリアンヌが一人歩きした日を一歳の誕生日に決めましょう。今はまだつかまり立ちしかできませんが、そろそろ歩きそうな気もするんですよね」
「わかった。では、マリアンヌが一人で歩いた日をマリアンヌの誕生日にしよう。次の日に、急いでパーティーを開く」
一歳の誕生日。それをファクト家のみなで祝いたいというクライブの気持ちを感じ取った。
「……あっ」
そこでイリヤは思い出した。マリアンヌといえば、忘れてはならない人物が一人いる。しかも、いろいろと厄介な人物である。
「あの……閣下。その……」
イリヤの言葉の先をクライブが奪い取った。
「陛下の件は気にするな。むしろ、アレがいないほうがパーティーも滞りなく進む。終わったところで、オレから伝えるからいい」
どうやら、クライブも同じようなことを心配していたようだ。
「マリー。あなた、本当に愛されているのね」
イリヤは食事中であるのに、マリアンヌをぎゅっと抱き寄せた。
「あだ~あだ~」
「嫌がってないか?」
「喜んでいるんです!」
いや、これはマリアンヌが嫌がっている。食事を邪魔されて怒っているのだ。だけど、悔しいからクライブには、そう言っただけ。
マリアンヌもすっかりと朝食を食べ終えて、機嫌も戻ったところで着替えである。淡く薄いピンク色のドレスを気に入ったようで、「あ~あ~、あ~あ~」と楽しげに声を出している。
イリヤは装飾もほとんどない、真っ白なドレスを身につけた。袖のレースには細かく花模様が描かれていて、光を受けると微妙な角度で虹色のように輝く。派手ではない華やかさがある。
「イリヤ、準備はできたか?」
いきなりクライブが扉を開けて部屋に入ってきた。
「旦那様。せめてノックをしてからお入りください」
サマンサに咎められようが、クライブは気にしていない様子。
「イリヤ……」
何か言いたそうにこちらを見つめているものの、口元を手で押さえ、その肝心の言葉が出てこない。
「なんですか? 言いたいことがあるなら、はっきり言ってください。気持ち悪いじゃないですか」
「あだだだだだだだ~」
マリアンヌが声をあげると、クライブも我に返ったように目を瞬く。
「あ、あぁ。マリアンヌ、かわいい服を着ているな」
クライブの声に、コホンとサマンサが咳払いをする。その視線はじとぉっとどこか蔑むような視線にも見えた。
「旦那様」
さらに咎めるような鋭い声。
「あ、あぁ……イリヤ……その、あれだ。よく似合っている……」
たったそれだけの言葉であるのに、なぜかクライブは頬をほんのりと赤くしていた。そうなればイリヤだって恥ずかしくなる。
「あ、ありがとうございます……」
その様子をサマンサがニコニコと見ているし、ナナカの腕の中のマリアンヌもあ~あ~と嬉しそうに声をあげていた。
「では、イリヤ。マリアンヌ。行こう」
これからイリヤは正式な聖女として、国民にお披露目される。
それはマリアンヌを守るためだと自身に言い聞かせて、イリヤはナナカから愛らしく声をあげている彼女を受け取った。
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