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第三章:お仕事はきっちりとこなします(7)
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案内された先のサロンで、マリアンヌは三人の妹たちに囲まれて手足をばたつかせている。
「いいえ、お母様。私、辛いと思ったことはありません。ただ、ちょっとお義父様とサブル侯爵はアレでしたけれど。まぁ、成り行きですが、こうしてクライブ様と知り合えたので、結果的にはよかったのですかね?」
クライブに同意を求めると、彼は「そうですね」と頷く。
隣にいるクライブは、いつものクライブと異なる。そんな気配を感じた。
「私もイリヤと知り合うことができたので、義母上には感謝しかありません。それに、今までの経験があったためか、彼女はとても芯の強い女性です」
イリヤは隣のクライブを二度見した。
誰だ、この男。と心の中で思った。そもそも、クライブは自分のことを「私」とは言わない。エーヴァルトの前でさえ「オレ」と言うのだ。
イリヤの視線に気づいたのか、クライブもこちらを見つめてにこりと笑う。
「あら、仲がよくてうらやましいわ」
おほほと母が上品に笑った。
こんな彼女の心からの笑顔を見たのは、いつ以来だろう。
これも猫かぶりのクライブのおかげだと思っておけばいいのだろうか。
「お母様は、お義父様とは……その……?」
「まあね。ああいう人だから、だらしないところはあるけれども。なんとか今のところは手綱を握っているわ。悪い人ではないのだけれども」
「きっと、単純な人間なのでしょうね」
言葉の先を、さらりとクライブが奪った。
「単純な人間ほど、扱いやすいですから。マーベル子爵については、我々も気にはしているのですが」
クライブの視線を母が捕らえた。この二人の間には、イリヤにはわからない何かがあるようだが、それを追求したいとは思わなかった。
それは彼とは愛し合って結婚したわけではないからだ。お互いがお互いの立場を利用している。そういう関係。
「お姉ちゃん」
一番上の妹のエリンがイリヤを呼びに来た。エリンだってまだ十歳である。その下に六歳、四歳と続く。
「マリーが変」
「え? 変って何?」
「顔を真っ赤にしてる」
慌てて立ち上がってクライブを振り返ると、彼は「頼んだ」と言う。クライブがマリアンヌにミルクをあげたりおしめをかえたりすることは、今のところない。そのために、乳母や侍女をつけたといえばそれまでであるが。
だからこういったときは、必然的にイリヤがマリアンヌの世話をするわけで、それを嫌だとかクライブに向かってやってくれと頼むとか、今のところそういったものはない。
ただクライブも、マリアンヌを風呂に入れてくれるようになった。これは、エーヴァルトに自慢するためらしい。マリアンヌと一緒に風呂に入ったと彼に自慢するのが、最近の楽しみだと言っていたので、やはりクライブは腹黒い。
イリヤは慌ててマリアンヌを抱き上げると、用意された部屋でささっとおむつを交換した。そうやってマリアンヌの世話をしている間、クライブは難しい面持ちで母と話をしていた。対して彼女も、真剣な表情で話を聞き、頷く。
二人で何を話しているのか気になったが、マリアンヌと一緒に三人の妹たちと囲まれることになった。
昼食を一緒に食べたあと、マーベル子爵邸を後にする。
マリアンヌは遊び疲れたのか、馬車の中ではぐっすりと眠っている。
「重いだろう。預かる」
クライブは立ち上がって、すっかりと寝入ったマリアンヌをイリヤから奪う。
クライブの腕の中ですやすやと眠るマリアンヌ。目の前のその光景を、イリヤはじっくりと見てしまった。
「どうかしたのか?」
「いいえ、お母様。私、辛いと思ったことはありません。ただ、ちょっとお義父様とサブル侯爵はアレでしたけれど。まぁ、成り行きですが、こうしてクライブ様と知り合えたので、結果的にはよかったのですかね?」
クライブに同意を求めると、彼は「そうですね」と頷く。
隣にいるクライブは、いつものクライブと異なる。そんな気配を感じた。
「私もイリヤと知り合うことができたので、義母上には感謝しかありません。それに、今までの経験があったためか、彼女はとても芯の強い女性です」
イリヤは隣のクライブを二度見した。
誰だ、この男。と心の中で思った。そもそも、クライブは自分のことを「私」とは言わない。エーヴァルトの前でさえ「オレ」と言うのだ。
イリヤの視線に気づいたのか、クライブもこちらを見つめてにこりと笑う。
「あら、仲がよくてうらやましいわ」
おほほと母が上品に笑った。
こんな彼女の心からの笑顔を見たのは、いつ以来だろう。
これも猫かぶりのクライブのおかげだと思っておけばいいのだろうか。
「お母様は、お義父様とは……その……?」
「まあね。ああいう人だから、だらしないところはあるけれども。なんとか今のところは手綱を握っているわ。悪い人ではないのだけれども」
「きっと、単純な人間なのでしょうね」
言葉の先を、さらりとクライブが奪った。
「単純な人間ほど、扱いやすいですから。マーベル子爵については、我々も気にはしているのですが」
クライブの視線を母が捕らえた。この二人の間には、イリヤにはわからない何かがあるようだが、それを追求したいとは思わなかった。
それは彼とは愛し合って結婚したわけではないからだ。お互いがお互いの立場を利用している。そういう関係。
「お姉ちゃん」
一番上の妹のエリンがイリヤを呼びに来た。エリンだってまだ十歳である。その下に六歳、四歳と続く。
「マリーが変」
「え? 変って何?」
「顔を真っ赤にしてる」
慌てて立ち上がってクライブを振り返ると、彼は「頼んだ」と言う。クライブがマリアンヌにミルクをあげたりおしめをかえたりすることは、今のところない。そのために、乳母や侍女をつけたといえばそれまでであるが。
だからこういったときは、必然的にイリヤがマリアンヌの世話をするわけで、それを嫌だとかクライブに向かってやってくれと頼むとか、今のところそういったものはない。
ただクライブも、マリアンヌを風呂に入れてくれるようになった。これは、エーヴァルトに自慢するためらしい。マリアンヌと一緒に風呂に入ったと彼に自慢するのが、最近の楽しみだと言っていたので、やはりクライブは腹黒い。
イリヤは慌ててマリアンヌを抱き上げると、用意された部屋でささっとおむつを交換した。そうやってマリアンヌの世話をしている間、クライブは難しい面持ちで母と話をしていた。対して彼女も、真剣な表情で話を聞き、頷く。
二人で何を話しているのか気になったが、マリアンヌと一緒に三人の妹たちと囲まれることになった。
昼食を一緒に食べたあと、マーベル子爵邸を後にする。
マリアンヌは遊び疲れたのか、馬車の中ではぐっすりと眠っている。
「重いだろう。預かる」
クライブは立ち上がって、すっかりと寝入ったマリアンヌをイリヤから奪う。
クライブの腕の中ですやすやと眠るマリアンヌ。目の前のその光景を、イリヤはじっくりと見てしまった。
「どうかしたのか?」
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