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本編
たんたんと罠にはめる(1)
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カリッドは溜息をついた。手には一枚の書面。それを目にしたら溜息しか出てこない。誰かに協力を頼みたいところだが、口が軽いような奴では困る。つまり、それなりに信頼のおける人物でなくてはならない。
そこで思い浮かんだのは部下の一人であるモニカ。彼女ならきちんと任務をこなしてくれるだろう。
彼女は弓の腕に長けている。この時間なら弓場でさらにその腕に磨きをかけているところだろう。現状に満足することなく常に上を目指そうとする彼女は、どこか気になる存在で非常に気に入っている存在だった。
それに彼女は任務に忠実である。余計なことは口にしないし、さらに報酬に見合った働きをする。
執務席の机の上にパサリとそれを置くと、椅子をきしませながらゆっくりと立ち上がった。向かう場所はもちろん弓場。
ピシッと、矢が放たれ、バシッと的に当たる。
やはり彼女はそこにいた。今日の任務を終えてからここで練習をしているのだろう。その真面目さと体力には舌を巻くほど。
次の矢を手にしようとするモニカに、カリッドは声をかけた。
「モニカ、今、いいか?」
「あ、団長。お疲れ様です。どうかされましたか? 任務ですか?」
「ああ、個人的な任務だ」
カリッドは重々しい表情で答えた。
「はぁ、何でしょう?」
個人的というところが気になるところだが、団長に逆らってはならないとモニカの本能が叫んでいる。
「ここではちょっと……。俺の執務室にまで来て欲しいのだが、可能か?」
「御命令であれば」
モニカは弓と矢を片付け始めた。彼女が自分の弓を心から大事にしていることをカリッドも知っている。
「お待たせしてしまって、申し訳ありません」
「いや、急に頼み事をしてしまった俺の方が謝るべきだな。練習の邪魔をして申し訳ない」
「いえ、今日はそろそろ終わろうかと思っていたところでしたので」
という気遣った一言が言えるのも、彼女の魅力的な一つであると思っている。
「それで、どのような任務でしょうか」
カリッドの執務室で、向かい側のソファに座ったモニカが身を乗り出した。身を乗り出したのは、少しでも近くで話を聞きたいという気持ちから、だろう。
「うん、まぁ。その、楽にしてかまわない」
言うと、モニカは少し座り直して、乗り出していた身を元に戻した。
それを見届けたカリッドは、コホンと軽く咳払いをしてから。
「君に頼みたい任務とは」
カリッドの真剣な眼差しにモニカもゴクリと唾を飲む。
「俺の恋人になってもらいたい」
「え」
モニカは聞き間違えかと思った。
「団長、すいません。私にはよく理解ができませんでした」
「モニカ、君には俺の恋人のフリをしてほしい」
モニカはゆっくりと口を開け、また閉じる。そしてまた開け、と水中でぱくぱくしている金魚のようだ。今にもエラ呼吸をし始めるのではないかと思えるくらい、ぱくぱくしている。さて、どうしたらよいか。
「モニカ、大丈夫か?」
あまりにも金魚になりすぎているモニカが心配になり、カリッドは声をかけた。
するとモニカもエラ呼吸から肺呼吸に切替たかのように、口を閉じてゆっくりと頷く。
「それは。新しいパワハラでしょうか?」
思わずモニカはそう尋ねていた。
パワハラ。パワーハラスメントと呼ばれる言葉が飛び交うようになってきたのはここ数年の話。異世界からやってきた迷い人が言い出したという説が有力なのだが、職場内の優位性を背景に、部下などに精神的・身体的に苦痛を与えて人格と尊厳を侵害すること、とされている。
「いや、断じて違う」
だが言い訳をすればするほどドツボにはまりそうであるため、仕方なく一通の書面を手渡した。
「これは、なんでしょう?」
受け取りながら、モニカは尋ねた。
「いいから、読んでくれ」
はぁ、と言いながらモニカはそれを読み進める。と、読み進めるにつれ、彼女の目が次第に大きく見開かれる。
「こ、これは?」
「まあ、そういうことだ。見合いをしろ、と連絡がきてだな」
「お見合い、すればよろしいじゃないですか」
「いや、まだ、その、結婚したくないというか」
「じゃ、しなければよろしいじゃないですか」
「いや。だから、そうもいかなくてだな」
「じゃ、一体、団長は、何をどのようになさりたいのですか?」
「だから、君に恋人役を頼みたい」
そこで思い浮かんだのは部下の一人であるモニカ。彼女ならきちんと任務をこなしてくれるだろう。
彼女は弓の腕に長けている。この時間なら弓場でさらにその腕に磨きをかけているところだろう。現状に満足することなく常に上を目指そうとする彼女は、どこか気になる存在で非常に気に入っている存在だった。
それに彼女は任務に忠実である。余計なことは口にしないし、さらに報酬に見合った働きをする。
執務席の机の上にパサリとそれを置くと、椅子をきしませながらゆっくりと立ち上がった。向かう場所はもちろん弓場。
ピシッと、矢が放たれ、バシッと的に当たる。
やはり彼女はそこにいた。今日の任務を終えてからここで練習をしているのだろう。その真面目さと体力には舌を巻くほど。
次の矢を手にしようとするモニカに、カリッドは声をかけた。
「モニカ、今、いいか?」
「あ、団長。お疲れ様です。どうかされましたか? 任務ですか?」
「ああ、個人的な任務だ」
カリッドは重々しい表情で答えた。
「はぁ、何でしょう?」
個人的というところが気になるところだが、団長に逆らってはならないとモニカの本能が叫んでいる。
「ここではちょっと……。俺の執務室にまで来て欲しいのだが、可能か?」
「御命令であれば」
モニカは弓と矢を片付け始めた。彼女が自分の弓を心から大事にしていることをカリッドも知っている。
「お待たせしてしまって、申し訳ありません」
「いや、急に頼み事をしてしまった俺の方が謝るべきだな。練習の邪魔をして申し訳ない」
「いえ、今日はそろそろ終わろうかと思っていたところでしたので」
という気遣った一言が言えるのも、彼女の魅力的な一つであると思っている。
「それで、どのような任務でしょうか」
カリッドの執務室で、向かい側のソファに座ったモニカが身を乗り出した。身を乗り出したのは、少しでも近くで話を聞きたいという気持ちから、だろう。
「うん、まぁ。その、楽にしてかまわない」
言うと、モニカは少し座り直して、乗り出していた身を元に戻した。
それを見届けたカリッドは、コホンと軽く咳払いをしてから。
「君に頼みたい任務とは」
カリッドの真剣な眼差しにモニカもゴクリと唾を飲む。
「俺の恋人になってもらいたい」
「え」
モニカは聞き間違えかと思った。
「団長、すいません。私にはよく理解ができませんでした」
「モニカ、君には俺の恋人のフリをしてほしい」
モニカはゆっくりと口を開け、また閉じる。そしてまた開け、と水中でぱくぱくしている金魚のようだ。今にもエラ呼吸をし始めるのではないかと思えるくらい、ぱくぱくしている。さて、どうしたらよいか。
「モニカ、大丈夫か?」
あまりにも金魚になりすぎているモニカが心配になり、カリッドは声をかけた。
するとモニカもエラ呼吸から肺呼吸に切替たかのように、口を閉じてゆっくりと頷く。
「それは。新しいパワハラでしょうか?」
思わずモニカはそう尋ねていた。
パワハラ。パワーハラスメントと呼ばれる言葉が飛び交うようになってきたのはここ数年の話。異世界からやってきた迷い人が言い出したという説が有力なのだが、職場内の優位性を背景に、部下などに精神的・身体的に苦痛を与えて人格と尊厳を侵害すること、とされている。
「いや、断じて違う」
だが言い訳をすればするほどドツボにはまりそうであるため、仕方なく一通の書面を手渡した。
「これは、なんでしょう?」
受け取りながら、モニカは尋ねた。
「いいから、読んでくれ」
はぁ、と言いながらモニカはそれを読み進める。と、読み進めるにつれ、彼女の目が次第に大きく見開かれる。
「こ、これは?」
「まあ、そういうことだ。見合いをしろ、と連絡がきてだな」
「お見合い、すればよろしいじゃないですか」
「いや、まだ、その、結婚したくないというか」
「じゃ、しなければよろしいじゃないですか」
「いや。だから、そうもいかなくてだな」
「じゃ、一体、団長は、何をどのようになさりたいのですか?」
「だから、君に恋人役を頼みたい」
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