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エピローグ(2)
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「あ、だぁ」
あのときのことなどなかったかのように、穏やかな時間が流れている。新しい家族も増え、悦びに満たされているのだが、やはりクラリスの姿が見えない。
あの事件以降、クラリスは解毒薬作りに励んでいる。
「あ、ぶっ……」
腕の中にいる我が子はかわいい。見ていて飽きない。
クラリスは自身がそうだったように、子どもも定期的に毒の摂取が必要になるかもしれないと怯えていた。だから彼女は子を望もうとしなかったし、いつかはユージーンと離婚するつもりでいた。
それを説き伏せたのもユージーンだ。
今のところ、この子に毒の定期摂取は必要なさそうだ。ミルクもよく飲み、よく寝る。
「クラリス。またここにいたのか」
彼女の姿が見えないときは、温室か作業用の小屋をのぞけばよい。今日も何やら薬を作っていた。
このような辺境の地では、アルバートやハリエッタを毒から守れないと嘆いていたクラリスだが、彼らが毒に侵されたとしても解毒薬を準備しておけばいい。ただでさえ薬師は貴重な存在であり、毒を扱える毒師となればそれ以上。
だからウォルター領で解毒薬を作り、それを王城にまで運べばいいと考えたようだ。すぐさまデリックに相談したところ、解毒薬はいくらあっても困らないとのことだった。
もちろん彼女の作る解毒薬は、ウォルター領でも重宝されているし、魔獣討伐にいく兵たちにとっても必要なもの。
「今日は何を作っているんだ? そうやってあまり根をつめるでない」
「デリックから頼まれたのです。最近、アルバート殿下に媚薬を盛る方が多いようで。まだ、あのお二人にはお子様がいらっしゃいませんから。結婚されたばかりですし」
アルバートとハリエッタは、一年の婚約期間を経て、半年前に結婚した。
もちろんユージーンとクラリスも結婚式に招待されたが、すでにクラリスのお腹は大きくなっていて、お祝いの言葉と品を贈るだけにとどめた。落ち着いたところで、新しい家族も連れ、挨拶にいくつもりだ。
ユージーンだけでも出席すればよかったのにとクラリスは口にしたが、身重の彼女を一人にしたくないという気持ちもあった。
そんなユージーンは、もちろんなんだかんだでアルバートに感謝している。
「媚薬が盛られるのがアルバートなのに、なぜデリックから解毒薬を頼まれるんだ?」
「わたくしが作っているのは解毒薬ではございません。特定の異性にしか発情しない薬です」
「すまない。話が飛躍しすぎて、俺には理解できない」
毒薬や解毒薬にもいろいろな種類や対処法があるようで、ユージーンには理解できないことも多い。
「デリックが両殿下の毒見役なわけですが、最近はなぜか媚薬が多いわけです。そこにどのような陰謀が隠れているのか、わたくしにはわからないところではありますが。デリックには取り込んだ毒薬を無効化する力はございません。少々、効きが悪い程度です。ですから、大量に摂取すると……まあ、そういうことです」
ちょっとだけデリックに同情を覚えた。何よりも媚薬の効果はユージーンもよくわかっているつもりだ。
「ですが、アルバート殿下が特定の人物にだけ発情する薬を摂取していれば、仮に媚薬が仕込まれたとしても、不特定多数の人物と情事に至らずに済む、というのがデリックの考えです」
「なるほど。なんとなく理解はできた。だが、その薬ができあがったとして、どうやって効果を確かめる? 特定の者にしか発情しないというのは、なかなか判断が難しい薬なのではないか?」
クラリスに薬は効かない。もちろん、毒も効かない。
「それはデリックにお任せです」
「俺が思うに、何事も作りっぱなしはよくないと思う。その薬は、まずは俺が効果を試そう。俺だって、毒師の夫だからな」
ユージーンがニタリと笑うと、クラリスはぽっと頬を赤らめて、あっちを向いた。
【完】
あのときのことなどなかったかのように、穏やかな時間が流れている。新しい家族も増え、悦びに満たされているのだが、やはりクラリスの姿が見えない。
あの事件以降、クラリスは解毒薬作りに励んでいる。
「あ、ぶっ……」
腕の中にいる我が子はかわいい。見ていて飽きない。
クラリスは自身がそうだったように、子どもも定期的に毒の摂取が必要になるかもしれないと怯えていた。だから彼女は子を望もうとしなかったし、いつかはユージーンと離婚するつもりでいた。
それを説き伏せたのもユージーンだ。
今のところ、この子に毒の定期摂取は必要なさそうだ。ミルクもよく飲み、よく寝る。
「クラリス。またここにいたのか」
彼女の姿が見えないときは、温室か作業用の小屋をのぞけばよい。今日も何やら薬を作っていた。
このような辺境の地では、アルバートやハリエッタを毒から守れないと嘆いていたクラリスだが、彼らが毒に侵されたとしても解毒薬を準備しておけばいい。ただでさえ薬師は貴重な存在であり、毒を扱える毒師となればそれ以上。
だからウォルター領で解毒薬を作り、それを王城にまで運べばいいと考えたようだ。すぐさまデリックに相談したところ、解毒薬はいくらあっても困らないとのことだった。
もちろん彼女の作る解毒薬は、ウォルター領でも重宝されているし、魔獣討伐にいく兵たちにとっても必要なもの。
「今日は何を作っているんだ? そうやってあまり根をつめるでない」
「デリックから頼まれたのです。最近、アルバート殿下に媚薬を盛る方が多いようで。まだ、あのお二人にはお子様がいらっしゃいませんから。結婚されたばかりですし」
アルバートとハリエッタは、一年の婚約期間を経て、半年前に結婚した。
もちろんユージーンとクラリスも結婚式に招待されたが、すでにクラリスのお腹は大きくなっていて、お祝いの言葉と品を贈るだけにとどめた。落ち着いたところで、新しい家族も連れ、挨拶にいくつもりだ。
ユージーンだけでも出席すればよかったのにとクラリスは口にしたが、身重の彼女を一人にしたくないという気持ちもあった。
そんなユージーンは、もちろんなんだかんだでアルバートに感謝している。
「媚薬が盛られるのがアルバートなのに、なぜデリックから解毒薬を頼まれるんだ?」
「わたくしが作っているのは解毒薬ではございません。特定の異性にしか発情しない薬です」
「すまない。話が飛躍しすぎて、俺には理解できない」
毒薬や解毒薬にもいろいろな種類や対処法があるようで、ユージーンには理解できないことも多い。
「デリックが両殿下の毒見役なわけですが、最近はなぜか媚薬が多いわけです。そこにどのような陰謀が隠れているのか、わたくしにはわからないところではありますが。デリックには取り込んだ毒薬を無効化する力はございません。少々、効きが悪い程度です。ですから、大量に摂取すると……まあ、そういうことです」
ちょっとだけデリックに同情を覚えた。何よりも媚薬の効果はユージーンもよくわかっているつもりだ。
「ですが、アルバート殿下が特定の人物にだけ発情する薬を摂取していれば、仮に媚薬が仕込まれたとしても、不特定多数の人物と情事に至らずに済む、というのがデリックの考えです」
「なるほど。なんとなく理解はできた。だが、その薬ができあがったとして、どうやって効果を確かめる? 特定の者にしか発情しないというのは、なかなか判断が難しい薬なのではないか?」
クラリスに薬は効かない。もちろん、毒も効かない。
「それはデリックにお任せです」
「俺が思うに、何事も作りっぱなしはよくないと思う。その薬は、まずは俺が効果を試そう。俺だって、毒師の夫だからな」
ユージーンがニタリと笑うと、クラリスはぽっと頬を赤らめて、あっちを向いた。
【完】
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楽しいといっていただけて嬉しいです。
ハッピーエンド目指して!書きました。ありがとうございます。
ご感想ありがとうございます。
私もこの二人を書くのが楽しかったです。
ご感想ありがとうございます。
気力があったので、一気に投稿しました。
自分のペースでごゆるりとお読みいただければと思います。