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エピローグ(1)

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 クラリスがファンケにさらわれた事件から一年以上が経った。

 あの事件は、クラリスに想いを寄せていたファンケが金にものを言わせ、人を使って彼女をさらい、無理矢理に自分のものにしようとするのが目的だった。王太子宮にあるサロンに人さらいの男たちが侵入できたのも、あそこで働く侍女を脅したからだ。

 彼女には病気の弟がいて、弟の治療のためには薬が必要だった。クラリスであれば弟のための薬を作れる、断ったら弟の命はないなど、とにかく弟を脅しの道具として利用した。
 その侍女は事件にかかわったことを深く反省し、辞めると言い出したようだが、それを止めたのはクラリス本人だった。そして、その弟の治療薬までをその侍女に与えたのだから、やはり毒女というよりは女神のような存在だろう。

 以前、メイもクラリスは女神のような存在だと口にしていたのを思い出す。

 だが、クラリスにとってはなぜファンケに狙われるようになったのか、心当たりはないとのこと。てっきり彼はハリエッタを好いているものだと思っていたようだ。

 クラリスのことだから、自身に向けられている好意になど気づくはずがない。

 ユージーンだって何度もしつこく愛をささやき、やっと想いが通じたのだ。ときおり、それが重いとすら言われるが。

 だからファンケがハリエッタを好いていると思い込んでいたのだろう。クラリスは毒師でありアルバートの毒見役として、彼の側に寄り添っていた。そしてアルバートの側にはハリエッタがいた。自分だけは狙われないと思い込んでいるクラリスにとって、ファンケの標的は自動的にハリエッタだと思い込めるのだ。

 婚約披露パーティーの席でハリエッタが手にした飲み物に睡眠薬が混入されていたのも、ハリエッタの飲み物をクラリスが奪い取って飲むだろうとファンケが読んでいたからだ。今までのクラリスの行動からそう判断したらしい。
 そういった先を読む力は褒めてやりたいが、無理矢理、女性を自分のものにしようとする行動はいかんせん許しがたい。

 アルバートとハリエッタの婚約披露パーティー以降、クラリスの姿を見なくなったと思っていたファンケだが、結婚式のために王都へ戻ってきたクラリスの姿をどこかで見かけたようだ。むしろ、結婚式のために王都に戻ってきたことなど彼は知らなかった。

 そしてハリエッタと仲が良いことを思い出し、以前から目をつけていた侍女に話を持ちかけたとのこと。必ずハリエッタはクラリスを誘うだろうと。

 ファンケの読みはあたり、お茶会の真っ最中にクラリスをさらった。

 というのが、あのときの全容である。

 次の日にファンケの思惑を知ったユージーンが、寝台の上で横になっているクラリスに伝えたのだが、彼女はけしてユージーンの顔を見ようとはしなかった。

 前日に散々、彼女を抱き潰したのは悪かったと思っているが、やっと気持ちが通じて、さらに薬の影響もあったのだから仕方あるまい。と、ユージーンは自身の欲求を正当化していた。

 だからこそクラリスが怒っていたのだが、今となっては夫婦間の戯れである。
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