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閑話:侍女 → 領主(2)
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「申し訳ありません、奥様」
城館はすぐそこ。
メイはクラリスの後ろ姿を見送るのだが、はて? と気になったことがある。それはクラリスが手にしているもの。
「メイ。この花を頼む」
庭師に花を押しつけられて、メイはすぐにそれを受け取った。だから、クラリスに声をかける機会を逃してしまった。
「ジョゼフさんに届ければいいのですね?」
「そうだ。頼んだ」
庭師も忙しそうに、次の花の場所へと移動していた。
メイは受け取った花を両手で抱えて城館へと向かうが、エントランスではなく裏口から入る。ジョゼフの元に向かうには、こちらから入ったほうが近いからだ。
「ジョゼフさん。花を預かってきました」
「ああ、メイ。いいところに。そちらの花はこちらの花瓶に」
「旦那様は戻られたのですか?」
「今、ネイサンが出迎えているはずです」
だからメイは、クラリスが両手に毒蛇を持ったままユージーンを出迎えたとは思ってもいなかった。
メイがユージーンを初めて見たのは、食事の場だ。だが、なんとなく、ユージーンがクラリスに好意を向けている様子を感じ取った。
クラリスとユージーンの会話は、かみ合っているようでかみ合っていない。そのフォローに入るのがネイサンであり、メイも必要であれば助けに入ろうと思っていた。
それでもユージーンからはクラリスに対する愛情が感じられた。本当に、この結婚は離婚前提の結婚なのかと疑いたくなるほど。
そしてメイがそんなユージーンに声をかけられたのは、食事を終えたクラリスを部屋まで送ったあとだった。
ユージーンの執務室に呼び出された。これではまるで、悪いことをして断罪されるような気分だと思っていたら、アニーもネイサンもジョゼフもいて、ほっと胸をなでおろす。
「君が、クラリスがベネノ家から連れてきた侍女だな?」
「はい。メイ・ロビンと申します」
「今、彼らから聞いたのだが、君は毎朝、クラリスと散歩にいっているのだな?」
「はい」
「では、明日からその役を俺に譲るように」
いいえ、とは言えない雰囲気である。
「承知しました」
「ところでメイ。クラリスは何が好きなんだ?」
唐突にそのようなことを聞かれた。この質問の意図をかみ砕くと、ユージーンはクラリスに何か贈り物をしたい。だから好きなものを聞いている。そう、理解した。
しかし、本当のことを言ってもいいのだろうか。
メイはこの場にいる三人の顔をぐるりと見回した。彼らはクラリスの状況を知っている信頼のおける者たち。
すっと息を吸い込む。
「奥様の好きなもの……毒、ですね」
「ん?」
「奥様……クラリス様が好きなものは毒です」
それ以外、思い浮かばない。
何よりも、毒のある植物を見つけてはじっくりと眺めているし、毒をもつ生き物を見かけてはうっとりとしている。
「……なるほど。彼女は毒師らしいからな……」
まさかこの答えをすんなり受け入れるとは思っていなかった。しかし、クラリスが毒を好きなのは紛れもない事実。他の三人だってメイの答えに納得したような表情を浮かべている。
「旦那様は、奥様……クラリス様のことを好いていらっしゃるのですか?」
失礼だとは思いながらも、メイはなぜかそう尋ねていた。
「そうだな。会ったのは先ほどが初めてだが、好ましいとは思っている。それが何か?」
なぜかその言葉にメイは安堵した。
「いえ。クラリス様のことを末永くお願いいたします。クラリス様は私の恩人のような方なのです。クラリス様が幸せになるのが、私の幸せでもあります」
メイの訴えに、ユージーンは深く頷いたのだった。
城館はすぐそこ。
メイはクラリスの後ろ姿を見送るのだが、はて? と気になったことがある。それはクラリスが手にしているもの。
「メイ。この花を頼む」
庭師に花を押しつけられて、メイはすぐにそれを受け取った。だから、クラリスに声をかける機会を逃してしまった。
「ジョゼフさんに届ければいいのですね?」
「そうだ。頼んだ」
庭師も忙しそうに、次の花の場所へと移動していた。
メイは受け取った花を両手で抱えて城館へと向かうが、エントランスではなく裏口から入る。ジョゼフの元に向かうには、こちらから入ったほうが近いからだ。
「ジョゼフさん。花を預かってきました」
「ああ、メイ。いいところに。そちらの花はこちらの花瓶に」
「旦那様は戻られたのですか?」
「今、ネイサンが出迎えているはずです」
だからメイは、クラリスが両手に毒蛇を持ったままユージーンを出迎えたとは思ってもいなかった。
メイがユージーンを初めて見たのは、食事の場だ。だが、なんとなく、ユージーンがクラリスに好意を向けている様子を感じ取った。
クラリスとユージーンの会話は、かみ合っているようでかみ合っていない。そのフォローに入るのがネイサンであり、メイも必要であれば助けに入ろうと思っていた。
それでもユージーンからはクラリスに対する愛情が感じられた。本当に、この結婚は離婚前提の結婚なのかと疑いたくなるほど。
そしてメイがそんなユージーンに声をかけられたのは、食事を終えたクラリスを部屋まで送ったあとだった。
ユージーンの執務室に呼び出された。これではまるで、悪いことをして断罪されるような気分だと思っていたら、アニーもネイサンもジョゼフもいて、ほっと胸をなでおろす。
「君が、クラリスがベネノ家から連れてきた侍女だな?」
「はい。メイ・ロビンと申します」
「今、彼らから聞いたのだが、君は毎朝、クラリスと散歩にいっているのだな?」
「はい」
「では、明日からその役を俺に譲るように」
いいえ、とは言えない雰囲気である。
「承知しました」
「ところでメイ。クラリスは何が好きなんだ?」
唐突にそのようなことを聞かれた。この質問の意図をかみ砕くと、ユージーンはクラリスに何か贈り物をしたい。だから好きなものを聞いている。そう、理解した。
しかし、本当のことを言ってもいいのだろうか。
メイはこの場にいる三人の顔をぐるりと見回した。彼らはクラリスの状況を知っている信頼のおける者たち。
すっと息を吸い込む。
「奥様の好きなもの……毒、ですね」
「ん?」
「奥様……クラリス様が好きなものは毒です」
それ以外、思い浮かばない。
何よりも、毒のある植物を見つけてはじっくりと眺めているし、毒をもつ生き物を見かけてはうっとりとしている。
「……なるほど。彼女は毒師らしいからな……」
まさかこの答えをすんなり受け入れるとは思っていなかった。しかし、クラリスが毒を好きなのは紛れもない事実。他の三人だってメイの答えに納得したような表情を浮かべている。
「旦那様は、奥様……クラリス様のことを好いていらっしゃるのですか?」
失礼だとは思いながらも、メイはなぜかそう尋ねていた。
「そうだな。会ったのは先ほどが初めてだが、好ましいとは思っている。それが何か?」
なぜかその言葉にメイは安堵した。
「いえ。クラリス様のことを末永くお願いいたします。クラリス様は私の恩人のような方なのです。クラリス様が幸せになるのが、私の幸せでもあります」
メイの訴えに、ユージーンは深く頷いたのだった。
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