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第五章:仮初め x 夫婦(4)
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温室から出ると、空は茜色に染まっていた。城の尖塔の側に太陽が見えるものの、その位置はだいぶ下がっている。
「パーティーは明後日だ。明日は、当日の流れを確認してもらう必要があるが、前もいったように王都のパーティーとは違うからな。それほど気負う必要はない」
よくわからないけれども、彼がこうやってかけてくれる言葉が、クラリスの心を軽くしてくれるのだ。
ウォルター領に来てから、初めて開催されるパーティー。本来であれば、失敗させてはならない、みっともない姿を見せてはならないと気合いをいれるところなのだろうが、彼のおかげが肩肘張らずに済んでいる。
だからつい「どのようなパーティーなのか、楽しみです」と、クラリス自身も意識せぬうちに、ぽろっとこぼしてしまった。
パーティー当日――
ユージーンは軍服に着替えていた。胸元にはウォルター家の紋章。これは、魔獣討伐団に所属する者たちが、その立場を示すためにつけているものらしい。だから軍服姿で胸元にウォルター家の紋章がある者は、魔獣討伐団の人間であると、一目でわかるのだとか。
クラリスはシトラス色のドレスに身を包む。これもここに来てから贈られたものなのだが、日々、毒と戯れていたため、ユージーンが不在の間はドレスを着ていない。
今日はコルセットとまではいかないが、体型を補正する下着を着せられた。その上にドレスを着たわけだが、胸元は広がりすぎておらず、とても上品なデザインになっている。袖にはレースによって小ぶりの花が補色で刺繍され、控えめなデザインであるものの遠目からは映える。スカート部分には同系色のグラデーションでレースが幾重にも重ねられていて、動くたびに光の具合で色味が変化する。派手ではないのに、華やかさがあった。
空色の髪も、いつもは高い位置で一本に結んでいるだけであるが、今日はすっきりとアップにされた。
「準備は終わったのか?」
いつの間にか部屋の入り口にユージーンが立っていた。黒い髪を後ろになでつけている。
「あ、はい」
クラリスはなぜか羞恥に包まれた。このような姿を見せるのも恥ずかしいし、そういった姿のユージーンを目にするのも照れる。
「俺の妻は慎ましいようだ」
いきなりそのように声をかけられ、クラリスの頬は熱くなる。熱を孕んだまま、彼を見上げた。
「では、行こうか。みな、待っている」
ユージーンが腕をとるように言ってきたため、クラリスはそこに自身の腕を絡めた。
手をつないで歩いたことはあるけれど、このように腕を組んで歩くのは初めてだ。彼との関係が新しいものに変わったような気がして、落ち着かない。
大広間に足を踏み入れた途端、わっと歓声があがった。
この雰囲気は、クラリスが知っているパーティーとは異なる。
その場にいるのは大人だけではない。かわいらしいワンピース姿の女の子、ジャケットを羽織って恥ずかしそうにしている男の子。老若男女問わず、さまざまな人たちが集まっていた。
「ウォルター領に住んでいる者たちが参加している」
だから彼は、王城で開かれるようなパーティーとは異なると言っていたのだ。料理も凝っているが、誰もが食べやすいようにテーブルに並べられていて、立食形式になっている。大広間の大きな窓も開放され、庭園への行き来が自由にできるため、外で食事をとることもできる。
今日は、皆、朝からバタバタと動いていた。夜に行われるパーティーではなく、日の高いうちに開催することで、子どもたちも参加できるようにと。
ユージーンがクラリスにグラスを手渡した。オレンジ色の液体は、果汁のようにも見える。
「……皆、無事に戻ってきてくれた。彼らの功績を称えて、乾杯!」
壇上のユージーンの言葉に合わせて、一斉にグラスが掲げられた。
クラリスにとっては初めて目にする世界で、何をどうしたらいいかがわからない。とにかく、一口だけ飲んで、喉を潤す。
ユージーンはグラスの中身を一気に飲み干した。
「よし、みんな。聞いてくれ」
彼はまた、声を張り上げる。歓談が始まりつつあったのに、その声でシンと静まり返った。
「知っている者もいるかもしれないが、俺の妻となったクラリスだ。彼女はこのウォルター領を明るく輝かせる存在となるだろう」
たったそれだけであるのに、会場にはわれんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。
「これからはクラリスと共に、このウォルター領を治めていきたいと思う。お前たちも、何か思うことがあったら遠慮なく声をあげてくれ」
ユージーンがクラリスの腕を引っ張った。
「クラリス、簡単でいいから挨拶を」
「パーティーは明後日だ。明日は、当日の流れを確認してもらう必要があるが、前もいったように王都のパーティーとは違うからな。それほど気負う必要はない」
よくわからないけれども、彼がこうやってかけてくれる言葉が、クラリスの心を軽くしてくれるのだ。
ウォルター領に来てから、初めて開催されるパーティー。本来であれば、失敗させてはならない、みっともない姿を見せてはならないと気合いをいれるところなのだろうが、彼のおかげが肩肘張らずに済んでいる。
だからつい「どのようなパーティーなのか、楽しみです」と、クラリス自身も意識せぬうちに、ぽろっとこぼしてしまった。
パーティー当日――
ユージーンは軍服に着替えていた。胸元にはウォルター家の紋章。これは、魔獣討伐団に所属する者たちが、その立場を示すためにつけているものらしい。だから軍服姿で胸元にウォルター家の紋章がある者は、魔獣討伐団の人間であると、一目でわかるのだとか。
クラリスはシトラス色のドレスに身を包む。これもここに来てから贈られたものなのだが、日々、毒と戯れていたため、ユージーンが不在の間はドレスを着ていない。
今日はコルセットとまではいかないが、体型を補正する下着を着せられた。その上にドレスを着たわけだが、胸元は広がりすぎておらず、とても上品なデザインになっている。袖にはレースによって小ぶりの花が補色で刺繍され、控えめなデザインであるものの遠目からは映える。スカート部分には同系色のグラデーションでレースが幾重にも重ねられていて、動くたびに光の具合で色味が変化する。派手ではないのに、華やかさがあった。
空色の髪も、いつもは高い位置で一本に結んでいるだけであるが、今日はすっきりとアップにされた。
「準備は終わったのか?」
いつの間にか部屋の入り口にユージーンが立っていた。黒い髪を後ろになでつけている。
「あ、はい」
クラリスはなぜか羞恥に包まれた。このような姿を見せるのも恥ずかしいし、そういった姿のユージーンを目にするのも照れる。
「俺の妻は慎ましいようだ」
いきなりそのように声をかけられ、クラリスの頬は熱くなる。熱を孕んだまま、彼を見上げた。
「では、行こうか。みな、待っている」
ユージーンが腕をとるように言ってきたため、クラリスはそこに自身の腕を絡めた。
手をつないで歩いたことはあるけれど、このように腕を組んで歩くのは初めてだ。彼との関係が新しいものに変わったような気がして、落ち着かない。
大広間に足を踏み入れた途端、わっと歓声があがった。
この雰囲気は、クラリスが知っているパーティーとは異なる。
その場にいるのは大人だけではない。かわいらしいワンピース姿の女の子、ジャケットを羽織って恥ずかしそうにしている男の子。老若男女問わず、さまざまな人たちが集まっていた。
「ウォルター領に住んでいる者たちが参加している」
だから彼は、王城で開かれるようなパーティーとは異なると言っていたのだ。料理も凝っているが、誰もが食べやすいようにテーブルに並べられていて、立食形式になっている。大広間の大きな窓も開放され、庭園への行き来が自由にできるため、外で食事をとることもできる。
今日は、皆、朝からバタバタと動いていた。夜に行われるパーティーではなく、日の高いうちに開催することで、子どもたちも参加できるようにと。
ユージーンがクラリスにグラスを手渡した。オレンジ色の液体は、果汁のようにも見える。
「……皆、無事に戻ってきてくれた。彼らの功績を称えて、乾杯!」
壇上のユージーンの言葉に合わせて、一斉にグラスが掲げられた。
クラリスにとっては初めて目にする世界で、何をどうしたらいいかがわからない。とにかく、一口だけ飲んで、喉を潤す。
ユージーンはグラスの中身を一気に飲み干した。
「よし、みんな。聞いてくれ」
彼はまた、声を張り上げる。歓談が始まりつつあったのに、その声でシンと静まり返った。
「知っている者もいるかもしれないが、俺の妻となったクラリスだ。彼女はこのウォルター領を明るく輝かせる存在となるだろう」
たったそれだけであるのに、会場にはわれんばかりの拍手と歓声が沸き起こる。
「これからはクラリスと共に、このウォルター領を治めていきたいと思う。お前たちも、何か思うことがあったら遠慮なく声をあげてくれ」
ユージーンがクラリスの腕を引っ張った。
「クラリス、簡単でいいから挨拶を」
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