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第三章:夫 x 夫 x 夫(5)
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どうやら例の温室で、何やら植物を育てているらしい。その世話をするのが楽しいようだ。なんとなくだが、普通の草花ではないのだろうなと、ユージーンの直感が訴えた。
「あ。旦那様にはお礼を言いたかったのです」
温室の話が出たからだろう。彼女は「素敵な温室をありがとうございます」と、にこやかに礼を口にした。
その表情を見れば、その言葉が心からの気持ちなのだろうと、そう伝わってきた。
「しかし、あそこの温室は裏が森だから、変な生き物がやってこないか? 他の場所にも作らせる予定なのだが」
「いいえ。あそこは最高の温室です。裏が森であるのも魅力的です」
そこでユージーンは思い出した。クラリスが裏の森に入りたがっていると、ネイサンの手紙に書かれていたのだ。
やりたいことを抑止してしまえば、クラリスが逃げ出すかもしれないと思ったユージーンは、護衛をつければ入ってもいいと返事を書いた記憶がある。
ふとネイサンに視線を向けると、彼は首を横に振った。つまり、これ以上、この話題についても深掘りするなと言っている。食事の場にふさわしい話題とは、なかなか難しい。
「そうか、気に入ってもらえて何よりだ。他にも、何か不便なことがあれば、遠慮なく言ってくれ。善処しようと思う」
「ありがとうございます。そうですね、一つだけお願いがございます」
「なんだ?」
「わたくし、裏の森で毒草を摘んだり、毒虫を捕まえたりしたいのですが、同伴してくださる護衛の方は気乗りしないようでして……。わたくしが一人で森に入る許可をいただきたいのです」
ネイサンがまた首を左右に振っている。
許可するな。これ以上、その話題に触れるな。
そんな意味なのだろう。
「それには即答できない。少し考えさせてほしい」
「……そうですか」
クラリスが寂しそうにそう呟いた。
しかし、これはチャンスではないだろうか。護衛兵が気乗りしないのであれば、ユージーンが同行すればいい。
そんな考えがぽっと浮かび上がったが、それを周囲に悟られないようにと平静を装った。
裏の森は、いくら魔獣や危険生物になれた者であっても、積極的に行きたいとは思わない場所である。
彼らは仕方なくクラリスに同行しているのだ。
それが彼女の話しぶりから感じ取れたが、だからってユージーンはその兵を咎めたいわけではない。
そもそも裏の森に入りたいと希望するクラリスのほうがちょっと変わっており、お目付役の兵の考えが一般的だからだ。
(いつも、誰が同行していたんだ……?)
それをネイサンに確認しておく必要がありそうだ。むしろ、その役目をユージーンが変わってやろうと、目論んでみた。
それから、クラリスがウォルター領に来てから何をして過ごしていたかを、かいつまんで聞いた。
温室での植物栽培、裏の森の探索、庭園の散歩、薬作り。また、サジェスから領地について教えてもらうなど、勉強にも精を出していたようだ。
(やはり……話を聞く限り、彼女は理想的な妻ではないのか?)
手紙のやりとりでも確認してはいたが、彼女に男の影はない。使用人たちとも仲良くやっており、何よりも勉強熱心。勤勉という言葉が合うのかもしれない。
これは何がなんでも、二年が過ぎた後も、婚姻関係を続けたい。
「どうかされました?」
ユージーンは自分でも気づかぬうちに、クラリスを凝視していたようだ。彼女から声をかけられ、はっとする。妄想に浸りすぎてしまった。
「いや、どうもしない。ワインのおかわりを頼む」
気持ちが高揚しているためか、喉が渇いた。
「旦那様は、お酒に強いのですね」
クラリスが目を丸くする。驚くくらいペースが速かっただろうか。しかしこれはユージーンにとっては、普段となんらかわりないのだが。
「君は、飲まないのか?」
「わたくしには、これがありますから」
もちろん彼女の視線の策には、蛇の毒が入ったショットグラスがあるが、よく見れば中の液体はワインと同じ色。こう見ると、お酒に見えないこともない。だからこの場では、彼女が飲んでいるのも酒と思えばいい。
「あ。旦那様にはお礼を言いたかったのです」
温室の話が出たからだろう。彼女は「素敵な温室をありがとうございます」と、にこやかに礼を口にした。
その表情を見れば、その言葉が心からの気持ちなのだろうと、そう伝わってきた。
「しかし、あそこの温室は裏が森だから、変な生き物がやってこないか? 他の場所にも作らせる予定なのだが」
「いいえ。あそこは最高の温室です。裏が森であるのも魅力的です」
そこでユージーンは思い出した。クラリスが裏の森に入りたがっていると、ネイサンの手紙に書かれていたのだ。
やりたいことを抑止してしまえば、クラリスが逃げ出すかもしれないと思ったユージーンは、護衛をつければ入ってもいいと返事を書いた記憶がある。
ふとネイサンに視線を向けると、彼は首を横に振った。つまり、これ以上、この話題についても深掘りするなと言っている。食事の場にふさわしい話題とは、なかなか難しい。
「そうか、気に入ってもらえて何よりだ。他にも、何か不便なことがあれば、遠慮なく言ってくれ。善処しようと思う」
「ありがとうございます。そうですね、一つだけお願いがございます」
「なんだ?」
「わたくし、裏の森で毒草を摘んだり、毒虫を捕まえたりしたいのですが、同伴してくださる護衛の方は気乗りしないようでして……。わたくしが一人で森に入る許可をいただきたいのです」
ネイサンがまた首を左右に振っている。
許可するな。これ以上、その話題に触れるな。
そんな意味なのだろう。
「それには即答できない。少し考えさせてほしい」
「……そうですか」
クラリスが寂しそうにそう呟いた。
しかし、これはチャンスではないだろうか。護衛兵が気乗りしないのであれば、ユージーンが同行すればいい。
そんな考えがぽっと浮かび上がったが、それを周囲に悟られないようにと平静を装った。
裏の森は、いくら魔獣や危険生物になれた者であっても、積極的に行きたいとは思わない場所である。
彼らは仕方なくクラリスに同行しているのだ。
それが彼女の話しぶりから感じ取れたが、だからってユージーンはその兵を咎めたいわけではない。
そもそも裏の森に入りたいと希望するクラリスのほうがちょっと変わっており、お目付役の兵の考えが一般的だからだ。
(いつも、誰が同行していたんだ……?)
それをネイサンに確認しておく必要がありそうだ。むしろ、その役目をユージーンが変わってやろうと、目論んでみた。
それから、クラリスがウォルター領に来てから何をして過ごしていたかを、かいつまんで聞いた。
温室での植物栽培、裏の森の探索、庭園の散歩、薬作り。また、サジェスから領地について教えてもらうなど、勉強にも精を出していたようだ。
(やはり……話を聞く限り、彼女は理想的な妻ではないのか?)
手紙のやりとりでも確認してはいたが、彼女に男の影はない。使用人たちとも仲良くやっており、何よりも勉強熱心。勤勉という言葉が合うのかもしれない。
これは何がなんでも、二年が過ぎた後も、婚姻関係を続けたい。
「どうかされました?」
ユージーンは自分でも気づかぬうちに、クラリスを凝視していたようだ。彼女から声をかけられ、はっとする。妄想に浸りすぎてしまった。
「いや、どうもしない。ワインのおかわりを頼む」
気持ちが高揚しているためか、喉が渇いた。
「旦那様は、お酒に強いのですね」
クラリスが目を丸くする。驚くくらいペースが速かっただろうか。しかしこれはユージーンにとっては、普段となんらかわりないのだが。
「君は、飲まないのか?」
「わたくしには、これがありますから」
もちろん彼女の視線の策には、蛇の毒が入ったショットグラスがあるが、よく見れば中の液体はワインと同じ色。こう見ると、お酒に見えないこともない。だからこの場では、彼女が飲んでいるのも酒と思えばいい。
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